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Food|とんかつを食べているときの思考

Twitterで #おいしい店おすそわけ のハッシュタグで自分の好きなお店をつぶやいています。

数少ない外食の機会、せっかくなら失敗したくない方多いんじゃないのかなと思って始めたのですが、意外と好評です。僕自身、とんかつに限らず「知る人ぞ知る」みたいなお店はあまりいかないコンサバなお店選びをするので、そんなに目新しくないでしょ、と思ってこういうのをやってこなかったのですが、そもそもそれも一つの個性かな、とおすすめし始めています。

なかでもとんかつを紹介した上のツイートがたくさんリツイートしてもらいました(あくまで本人比)。せっかくなのでとんかつ好きな僕の食べ進め方とその思考を書いておこうかと思います。

おいしさは着いた瞬間から失われている

↑↑これ、おおげさな話に聞こえるかもしれませんが、僕は食べるときはいつもこのことを考えています。

料理は、できたてがいちばん。最初に食べるひとくちが一番香りが豊かで、食感もいい。しかし時間が経てばたつほど、余熱で火が入り、温度が下がるため香りが弱くなり(蒸気による上昇気流によって香りが舞うので)ます。食感もまわりの水分をすって悪くなります。

もちろん経時によって、味がなじんだり、とけあうようなことも料理人の設計で可能ですが、そういうのは特別な料理のときのみ。基本的には、「最初のひと口が一番おいしい」のです。

そんな僕がとんかつの食べ進める順番は、以下のようになっています(画像は池上の「燕楽」のロースとんかつです)。

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①一番おいしいところから食べる

着いたそばからおいしさが失われる」わけですから、いちばんおいしい部分から食べます。とんかつの場合は、いちばん厚い部分がゆるやかに火が入っているため、保水されしっとりしています。また、これはロースの場合のみなのですが、僕自身はロースの芯の部分(脂身を除いた部分)が好きで、脂身の部分はそれほど魅力を感じていません。

これは、ぽん多本家の店主・島田良彦さんに取材したときお聞きしたのですが「脂身と芯の部分は火が入り切る時間が違うので一緒に揚げるのはそもそも無理」という考え方に賛同しているからなのです。

ちなみにぽん多本家では、とんかつ(正確にはカツレツ)はロース芯を使って、脂身は揚げません。その代わり揚げ油が豚の脂身から炊きだしたラードなので、全体でみれば、ロースの要素で構成されている。いわゆる分解・再構築型のロースとんかつです。

もうすこしわかりやすく言うと。芯に火入れを合わせると、脂身に火が入りきらず、逆に脂身に合わせて火を入れると芯に火が入り過ぎてしまうわけです。

ロース芯をたべたい僕にとって、いちばん分厚い部分は芯と脂身の比率でいうともっとも芯の割合が多いわけです。

ですのでひと口めは、①の部分になるわけです。

ちなみに、とんかつを食べるときに、いきなりソースをかけることを僕はしません。ソースはおいしいですが、やっぱりソースの味になってしまうので、最初のひと口はからしでいきます。

ちなみに、塩とからしをつけるのは、衣ではなく肉の断面です。咀嚼したときに衣につけていると、肉に塩味と酸味がたどりつくのに時間がかかって、肉のおいしさを感知するのに時間がかかってしまいます。塩とからしはあくまで肉の味を際立たせる塩味と酸味ととらえているので、直接味わいたい部分につけます。

気を付けてほしいのは塩味とからしが直接舌につかないように口のなかに入れることです。理想は、断面に塩とからしをつけ、その面を上側にして口にいれることをおすすめします。塩とからしの量は、お好みで。

②2番目にバランスがいい部分を次に

着いたそばからおいしさが失われる」というイズムにのっとり、2口めもは2番目に芯と脂身のバランスが良いところを食べます。

ここは⑥にするか難しいところですが、右利きの僕にとっては食べ進めやすさという部分も加味して②からいきます。ここでもソースはかけず、塩とからしのみです。

③ようやくソースの登場

2口めが食べ終わったところで付け合わせのキャベツにソースをかけます。ソースの味を確認するためです。

そして、③の断面に少量のソースをかけます。ドバドバ海のようにかけないでください。そしてからし。

少量にするのは、衣のサクサクに影響を与えないためと、あくまで楽しむのは肉の味ですから、塩味と旨味、甘味、酸味があるソースで肉の味を隠してしまわないようにするためです。肉の味を下支えするようなイメージで、ソースの量を調整するといいでしょう。あくまでソースが主役にならないように細心の注意を払いましょう。

このあたりからご飯と一緒に食べます。

④⑤は、脂を楽しむイメージで

4、5口めくらいになると、温度も下がり、味もおちついてきます。④と⑤の端の部分は、どうしても芯と脂身のバランスが1対1くらいまでなってくるので、個人的にはそれほど魅力を感じない部位です。

そのなかでも④の部分の方が⑤に比べて、脂身が少ないので先にいただきます。⑤は脂身の方がむしろ多いくらいなので、キャベツといっしょに。

このあたりは、ソースとからしでいくことが多いです。

⑥フィニッシュはおいしい部分で

着いたそばからおいしさが失われる」というのは35歳を過ぎてからしったイズムで、もともとの価値観でいえば「好きな料理を最後に残しておく」貧乏性が僕にはありました。

それを引きずっていることもあり、最後は好きな部分で終えたい。そんな思いから、3番目に芯と脂身のバランスの良い部分を最後に食べます。

最後の食べ方は、塩とからしでいきたいですね。

あと、最後のひと口の前までにキャベツを食べきっているというのも、僕なりの流儀です。これも貧乏性なのですが「最後のひと口はとんかつで終えたい」という思いがそうさせています。

ロース1切れでも多様な味が楽しめる

大好きな食べ物はおいしく食べたい。そんな思いをもちながら、僕はこんな感じでとんかつを食べています。

ちなみに、この食べ方は僕をとんかつの世界に引き込んだ、タベアルキスト・マッキー牧元さんの食べ方をベースにしています。

ヒレかつもいいのですが、この1切れごとにさまざまなバランスで食べられる、ある種の不均一さがあるロースに僕は惹かれます。

今回は池上の「燕楽」でしたが、ほかのお店でもだいたいこんな感じで食べます。もちろん、質の良いとんかつを食べるための流儀なので、たとえば劣化した揚げ油の匂いや、衣の焦げた匂いなどあるときは、しょっぱなからソースというときもあります。

#おいしい店おすそわけ でとんかつに食べに行こうと思っていただいた方は、ぜひ参考にしてみてください!

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