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Work|薄い本編集者

先週から始めた新テーマの「Work」の第2回です。

ウィズコロナがおそらく1、2年は続くというなかで、僕が関連している編集や食の分野でどんなことをしていかなければいけないのか。新しい職業の形を考えながら、自分でも実践していることの意図を描いたり、報告したりしてみたいと思います。

今回は、「薄い本編集者」についてです。

自費出版・同人誌の文脈にある「薄い本」

さきほど、フランスのカーニュ在住の料理人、神谷隆幸さんのアスパラガスだけのレシピ10品を収録したレシピブックを印刷所に入稿しました。

Twitter界隈では、「アスパラの薄い本」と言われているのですが、「薄い本」というのは、オタク用語、ネットスラングなこと知っていますか? 僕は、この呼び名をつけられてから初めて知ったのですが、コミケなどで配布される自主出版で印刷されたものを指すそうです。

なんか、ここでマジレスするの無粋なのですが、ここで僕が「薄い本編集者」といっているのは、同人誌の編集者という意味ではなく、薄い本だけど、読者を絞って、限られた予算のなかで、スピード感をもって本を自主制作する編集者、という意味で使っています。

今回のレシピブックは、神谷さんがオンラインでやっている料理教室のなかの1つのコースで、今年3月にフランスがロックダウンされた直後に、提供できなくなったアスパラを有効活用することから始まったアスパラだけの10のレシピがもとになっています。

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ですので、一般流通するようなレシピ本ほどのレパートリーはなく24ページの冊子で、実質的に薄い本であります。さらに、編集・デザインは僕自身がやって、出版社を通さず、完全に自費で出版。神谷さんのファンの方々に買ってもらおうと思って作ったといこともあるので同人誌といえば、そうかもしれません。

しかしながら、もともとある素材を集めて、ほぼ制作期間1カ月、アスパラの時期を逃さずに制作・印刷・発送までをスピード感をもってできたのは、自分としては手ごたえを感じています。

売面では、在庫を抱えるリスクをできるだけ減らすために、事前注文を受け付けたのですが、神谷さんの発信力もあって、印刷部数を少し多くすることができました。アスパラの時期としても、今年は暖かいこともあって、比較的出荷期間が長くなるそうで、産直のECサイトの食べチョクさんでも「レシピブック付きアスパラガス」もやっていただけ、少しづつですが、神谷さんのファン以外の方にも届けられそうな形になってきました。

ご購入いただいた方の声も、いろいろと勉強になって、たとえば「ひとつの食材に特化したものはありがたい」だったり、「季節ごとの食材でシリーズ化してほしい」や「オンラインでも勉強したけど、本でも確認したい」という声もあって、書店で買うのとはまた違った、料理人のファンコミュニティを強める道具として「薄い本」の価値は、あるのかなと思いました。

タレントのファンクラブ会報誌のような感じで、料理人の場合は、それがレシピブックになるというイメージです。

スピード感とネットへの導線づくり

この冊子を作るうえで、僕がとにかく意識したのは、スピード感とインターネットへの導線づくりでした。

もともと神谷さんのファンの方々は、ネットリテラシーが高いので、オンライン決済やオンラインイベントに対しての拒絶反応がほとんどありません。むしろ、オンラインの楽しさをご自分たちで見いだせる方々なので、その方々に、従来の権威主義的で、こうあるべき的な本のルールで作っては楽しんでもらえないな、と思いました。

インターネットで情報が流れていくなかで楽しんでいる方々にとって、出版のスピード感は遅すぎるのではないかということを以前から感じていたこともあって、できるだけ制作の無駄を排除して、デザインもシンプルに、レシピをわかりやすく紹介することに集中して、最速で作ることを目指したのです。

ですので制作作業も、外のリソースを利用せずに、構成・執筆・編集・デザイン・校正・画像補正・印刷管理まで、すべての行程を自分で行いました。

どうしても、関わる人が多くなってくると、今回のように思い付きで始めるようなプロジェクトだと、意思の疎通に時間がかかってしまい、スピードが出せなくなってしまうんですよね。おかげまさで、3日間家から出ずに作業しました(外出自粛にちょうどいい笑)。

それと、神谷さんがわかりにくい部分を動画にしてオンライン料理教室にアップしていたので、その素材を活用し、簡単に編集した動画をQRコードで見られるようにもしました。インターネットへの入り口を多く本のなかに入れたのは、ここでもベースには神谷さんのファンの方々への使いやすさを重視しています。レシピの再現性の面でも、かなりわかりやすくなったと思います。

また、制作途中でも、表紙を公開したり、いま出版界でやっているような、発売以前のファンづくりにも注力をしました。

今回は、レシピブックだったのですが、たとえば、レストランの月ごとに新しいメニューや使っている食材、それこそ家庭でできるレシピなどをまとめて薄い本を出して販売するような可能性もできると思います。

しかし、販売するにはあくまでファンの方々のベースがあってこそ。

そこは、神谷さんが10年Twitterをやっているように、地道にSNSやリアル・オンラインのイベントを続けて、強い信頼関係がなければいけないと思いますので、いきなり薄い本の販売は難しい。

それでも、タイムリーなテーマを捕まえて、編集者のスキルをフル回転すれば、出版社や資本に頼らずとも瞬時に形にして、販売することができるとのがわかったのは収穫です。あくまでコンテンツの力ありきですが、「薄い本」(一般名詞としてのね)でも、十分勝機があると思っています。

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ちなみに神谷さんの#アスパラの薄い本の正式名称は「アスパラガスのレシピ 南仏カーニュのレストランから」です。下記の神谷さんのお店のECサイトで購入できますので、ご興味があればぜひ!

1冊ほぼ1000円(ユーロの為替変動の影響で、日々定価が変化します)と送料になります。

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