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Art|ジョシュア・レノルズ《レディ・コーバーンと3人の息子》 人の卒アル見る感じで

毎週火曜は、アートの日。今週も3/3から開幕する「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」に出品される作品の中から、1点を取り上げます(いま、この展覧会関係の本を作っているので、もう少しお付き合いください)。

今週の1枚は、ジョシュア・レノルズ《レディ・コーバーンと3人の息子》を紹介しようと思います。

興味がわかなない肖像画を楽しく観る方法

レノルズ。名前くらいは聞いたことあって、イギリスの画家でしょ? くらいの知識しかいない、有名とは決して言えない画家といっていいでしょう。

レディ・コーバーンと3人の息子》も、真っ白な肌で、奥様も丹精なお顔立ちなんだけど、親近感を感じられない、どちらかというと不気味な絵に見えますよね。

こういう絵、苦手なんだよなぁ。というのが、僕の正直な感想です。

それに根本的に、全く知らない人の成人式の写真とか見てもおもしろくないですよね。この絵も同じで、親子4人の記念なんだろうけど、僕には関係なさすぎて興味がわきません。

そんなときでも、展覧会上ではお金を払って見るわけで、できるだけ何かを得たいですよね。そんなときは「そこに描かれている人のことを調べる」ってことをよくやります。今回の絵ならば、レディ・コーバーンさんと、この子どもたちについて調べてみました。

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ジョシュア・レノルズ《レディ・コーバーンと3人の息子
1773年頃 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

2人の大将を育て上げたレディー・コーバーン

描かれているのはレディ・コーバーン、つまりサー・コーバーンさんの奥さんです。サーは、騎士の称号で、サーの奥さんはレディと呼ばれるそうです。

サー・コーバーンさんは、歴史の教科書でおなじみの東インド会社に勤める、お偉いさんです。レディ・コーバーンさんの名前は、オーガスタ・アン。この絵のオーガスタ・アンさんの年齢は24歳。

子どもたちの名前と年齢もわかっています。画面左の天使のような男の子は、ジェームズくんでこの時2歳。成長したら陸軍大将になるそうです。

肩にしがみついているのは1歳のジョージくん。ジョージくんもお兄さんのジェームズくんと同様に軍人になります。海軍大将です。ナポレオンがセント・ヘレナ島に島流しにあったときに、ナポレオンを運んだのがジョージくんの船でした。

オーガスタ・アンさんが抱いているのがこの絵の6月に生まれたばかりのウィリアムくん。お兄さん2人はちがって将来は、聖職者になるそうです。

この絵を描いたレイノルズは、イギリスの美術機関「ロイヤル・アカデミー」の初代会長を務めたお偉い画家で、18世紀のイギリスを代表する肖像画家です。ですので、大先生に描いてもらう、親子3人の記念の肖像画なわけです。

この母と3人の子どもという絵は、「聖母子と二天使」というキリスト教の伝統的なテーマを意識していて、聖母マリアがもつ「慈愛」をオーガスタ・アンさんに重ねています。レノルズは、先輩のイギリス宮廷画家、アンソニー・ヴァン・ダイクのスタイルも取り入れていたそうです。

生まれたばかりのウィリアムくんがイエスで、お兄さんのジェームズくんとジョージくんが天使役ですね。もちろんオーガスタ・アンさんは、聖母マリアを気取っています。

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サンドロ・ボッティチェリ《聖母子と二人の天使
1468-1469 年頃 ストラスブール美術館

このボッティチェリの絵ように、マリアと生まれたばかりのイエス、そして2人の天使という図像は、けっこうメジャーでよく見かけるものです。

日本でいうなら、阿弥陀三尊像のマネして、記念写真を撮った。みたいな感じでしょうか(余計わかりずらいか笑)。

みんなが憧れるような慈愛ある母として描いてほしい。そんな依頼が、レイノルズ先生に伝えられたのでしょうかね。イメージを気にするママタレみたいです。実際のオーガスタ・アンさんは、どんな人だったのでしょうかね。3人とも、立派な職についていることから考えると、教育はしっかりしていたのかもしれません。

絵の細部を見てみると、衣装の質感、とくにスカートなのか、ガウンなのかわかりませんが、足を隠している黄金色の衣装は、やわらかそうに描かれています。肌も陶器のようになめらかで、若々しさを感じます。ロンドン・ナショナル・ギャラリーのサイトでは、拡大して絵を観ることができます。下記のリンクから、公式サイトにとんでみてください。

ちなみにオーガスタ・アンさんは、このあとさらに3人の子どもを産んでいます。

肖像画は、友人の卒アル感覚でみると楽しめる

今回のロンドン・ナショナル・ギャラリー展は、西洋美術の歴史を一望できるような網羅的な展覧会です。そのなかでも、イギリス絵画の伝統のひとつといえる「肖像画」の作品が多く来日します。この投稿でも紹介した、アンソニー・ヴァン・ダイクが描いた肖像画など。

友人の卒業写真を見て、なんだか盛り上がったことありませんか? 会ったこともないのに、友人がそこに写っている人のエピソードを話して、爆笑するような。誰だか知らない写真を見ても全く面白くないけど、人物の背景やストーリーを知ると親近感がわいて、もっと見たくなる。

僕は、肖像画を見るときはそんな風に、描かれている人物のことを調べて、想像をふくらませながら見ています。

オーガスタ・アンさんは、知的に見えるから、教育にはうるさそう、とか。ファッションは古代風の衣装だから、あんまり興味ないのかな、とか。息子3人の大人になった絵とかを探してみるのも面白そう。

すーっと素通りしてしまいそうな肖像画も、ストーリーを知っておくと、けっこう楽しんでみられるので、おすすめです。

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