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Art|レンブラント《34歳の自画像》 イケてる時代の記念品

毎週火曜は、アートの日。3/3から開幕する「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」に出品される作品の中から、今週も1点を取り上げて紹介しようと思います(開幕まであと1週間!)。

7回目になる今回は、レンブラント・ファン・レインの《34歳の自画像》です。

レンブラント。この画家のことを、みなさんはどれくらい知っているでしょうか? 美術史的には重要な画家なんですが、あまり知られてないんじゃないかなぁと思い、Googleドキュメントでアンケートを制作してみました! 簡単なクイズと思って挑戦してみてください(正解は、この投稿の最後にあります)。

「自画像の画家」の青年期、壮年期、老年期

佳作揃いのロンドン・ナショナル・ギャラリー展にあって、《34歳の自画像》は、ゴッホの《ひまわり》にならぶ、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのマスターピースのひとつです。そして、レンブラントにとっても、とてもモニュメンタルな作品で、今展覧会屈指の「見逃せない名画」と言っていいと思います。

レンブラントは、生涯(63歳で没)で2000点ほどの作品を描いたとされています。そのなかで、50点を自画像も描いたことから「自画像の画家」と呼ばれています。

今回来日する《34歳の自画像》のほか、出品作ではありませんが、たとえば、22歳の《自画像》(アムステルダム国立美術館蔵)や63歳の《自画像》(マウリッツハイス美術館蔵)など、自画像に取り組んだ期間も20代前半から63歳で亡くなる直前までと幅広いのが特徴です。

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《34歳の自画像
1640年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《自画像》(注:22歳)
1628年 アムステルダム国立美術館

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《自画像》(注:63歳)
1669年 マウリッツハイス美術館

青年期のレンブラントは、どこか自信がなさげに顔に影がかかっています。一方、30代の壮年期は、ふんわりと優雅な衣装に身を包み、堂々とこちらを見つめます。そして、死の直前に描かれた60代、老年期の自画像は、画面からのエネルギーが薄まったかわりに、パレットナイフのようなもので、画面を平面的に塗りながらも、造形的な立体感を表現する巧みな技を披露しています。

過去の巨匠を意識するまでになったレンブラント

34歳のレンブラントは、画家として絶頂期でした。

この絵を描く前年、肖像画家として人気を博していたレンブラントは工房を兼ねた豪邸をローンで購入。殺到する肖像画の注文を、40~50人もの弟子を抱えて、さらなる大量生産に向けて体制を整えます。

この2年後には、レンブラントの最高傑作で幅4メートルを超す集団肖像画の大作《夜警》を完成させます。

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《夜警
1642年 アムステルダム国立美術館

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの作品ガイドによると、この絵は、絵の注文主に向けての「見本」として描かれたのではないかとしています。

というのも、《34歳の自画像》の右手を窓の桟のようなところにかけてポーズをとるしぐさや、宮廷風の豪華な衣装をまとう姿、まるで王様のように画家が堂々と絵に収まる姿などは、レンブラント以前の大画家、ラファエロやティツィアーノ、デューラーの肖像画への明らかなオマージュであり、自分自身をそういった大画家の系譜に置くことで、オランダの大画家としての地位を目指そうとしたのです。

そして「こんなふうに偉大な過去の偉人たちのように俺は描けるんだ」という見本として、注文主から肖像画の注文を得ようとしていました。

1万3000フルデン(現在のお金で1億円以上とも)もの大豪邸をローンで購入したということで、棟梁としての自負もあったことでしょう。

年齢も34歳。自他ともに絶頂期がすぐそこまできていることを確信している。そんな人間が持つ特有の自負心が《34歳の自画像》にはあふれ出ています。

このように「自画像の画家」レンブラントの自画像作品を観る場合は、前後の自画像と見比べたり、画家がどのような時期に描いたものなのかを知ってから見ると、レンブラントがどんな自分を表現したしようとしたのかが見えてきます。

自画像を鑑賞する際の小ネタ

ちなみに自画像は、写真が登場するまで画家たちは、鏡に映った自分の姿を見ながら、カンヴァスに写し取っていました。そのため、実際の人物と左右反対に描かれています。

たとえば、ゴーギャンとの確執で左耳を切り落としたはずのゴッホが、事件直後に描いた自画像では右耳に包帯がまかれているのも、鏡に映った姿を描いたためです。

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レンブラントの《34歳の自画像》でもそうなのですが、大画家の自画像をよくよくじっくり見ていると、左手が描かれていないことが多いのに気づきます。

これは、鏡に映った姿を描いているため、実際は右手になります。

右手は、多くの画家にとって筆を握る手ということになります。

そうです。右手を鏡に映しながら描くことができなかったため、うまく写し取ることができず、絵では右手(実際は左手)だけが描かれることが多いのです。もしくは、パレットを持って隠したり、カンヴァスに筆をおいていたりするなどして、さりげなくごまかして描いていることもあります。

もし、堂々と自画像で両方の手が描かれていたら、それは大変。画家が決死の覚悟で挑んだ証なので、ぜひじっくり左手(実際の右手)の完成度を見てみてくださいね。

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12月から編集を担当し、展覧会当日の3/3に発売される「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 完全ガイドブック (AERAムック)」も、Amazonで予約開始になってます! お出かけ前の予習にぜひ!

(アンケートの正解)1=オランダ、2=17世紀、3=夜警 4=窓辺で手紙を読む女 5=シャガール

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