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Art|ピーテル・ブリューゲル(父)《バベルの塔》

天まで届くような塔を建てようとする人間に対し、神は、「全員が同じ言葉を話すから、人間は悪いことをするのだ」と、言葉を取り上げて世界を混乱(バベル)させ、塔の建設を頓挫させます。旧約聖書に収められているバベルの塔の物語は、そんな、傲慢な人間に対する神の戒めを伝えています。

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ネーデルラント(現在のほぼベルギーとオランダ)に1525年から30年に生まれたピーテル・ブリューゲル1世。日本は安土桃山時代、織田信長が全国を統一し始めようとしています。《バベルの塔》は、ブリューゲルが40代、1568年頃に完成させた傑作です。

この作品が描かれた当時のヨーロッパは、宗教改革によるカトリックと新教の対立が激しさを増し、重苦しい空気が人々の間に広がっていました。そんな時代に、ブリューゲルは、人間への戒めのをテーマにした巨大な塔を描きます。横幅はおよそ75センチというこの小さな絵の中には、なんと1400人の人が描かれているそうです。塔を建てる人、レンガを焼く人、隣接する港で船から建材を降ろす人、塔の内外でで生活をする人……。やがて来る混乱を前に人々は、天まで届く塔の建設の成功を信じて疑っていないかのように、米粒よりも小さい姿ながらも活き活きと描かれています。

では、いったいブリューゲルは、《バベルの塔》に、どんなメッセージを込めたのでしょうか? 人間の傲慢さか、猛きものの凋落か、不可能を可能にしようとする人間への賞賛か。残念ながら、画家自身が、なぜこの描いたのかについて書き残していません。

白黒、善悪がはっきりと区別されてしまう現代にあって、無言を貫きながら400年以上にわたり時代の移り変わりを見つ続け、人々の手によって守り伝えられてきた《バベルの塔》から、世界の調和を願わずにはいられません。

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