Art|未発見の小惑星と屈折する星屑
みなとみらい線の馬車道駅からすぐのBankART KAIKOという場所で、伊勢市クリエイターズ・ワーケーションで出会って以来、交友が続いている金子未弥さんが「BankART Under 35 2021」という企画で個展をされているということで行ってきました。
金子さんは、先日Clubuhouseにも来ていただいて、作品について話していただいていて、その時も話題になった《未発見の小惑星観測所》が展示されるということで楽しみにしておりました。
第1期:4月23日~5月 9日 井原宏蕗、山本愛子
第2期:5月14日~5月30日 木下理子、敷地 理、金子未弥
第3期:6月 4日~6月20日 諫山元貴、菅 実花
会場|BankART KAIKO(横浜市中区北仲通5-57-2 KITANAKA BRICK & WHITE 1F)
時間|11:00~19:00
料金|一般200円(カタログ1種類1部進呈)、中学生以下及び、障害者手帳お持ちの方と付き添い1名は無料
※各作家の個人カタログ(A4版/16~24p)
主催:BankART1929 共催:横浜市文化観光局
小惑星と太陽、月との交差点に立ち
展示は、2020年に、金子さんが横浜の「黄金町バザー ル2020」での公開製作された《未発見の小惑星観測所》が発端になった作品が展示の中心になっています。
《未発見の小惑星観測所》は、道路に面したガラス張りのギャラリー内で公開制作を行いました。公開制作中に訪れた人は私に電話をかけることができ、電話をその人にとって特に重要な場所とか、強く印象に残っている場所の話を伺い、私はその会話を元に地図を想像し、その集合から一つの「未発見の小惑星」のドローイングを描いています。(出典)
壁を隔てた向こう側から話を聞いた人との会話のなかから地図を想像し、29名の記憶の地図を重ね合わせて小惑星を描き出すというドローイングです。ドローイングとは、作品の前の下書きという意味もありますが、紙などに鉛筆やペン、水彩などで描かれた表現形式のことです。
この作品を正面に左側には、街を教えたある2名の記憶が作品になっています。
壁に時計のようにタラップが設置された《白い夕日が好きな人へ》(2021年)と、手前には鉄パイプで作った橋のような《好きな場所を見つけた人へ》(2021年)です。
《白い夕日が好きな人へ》は、山に囲まれた街に生まれたある人にとって、夕日は真っ赤に染まるまえに山の向こうに沈んでしまうためテレビや映画で見るようにのとは違う「白い夕日」だったそうです。その後、赤い夕日をみることができるわけですが、街の記憶を話すうちに白い夕陽がよみがえってきたそうです。
《好きな場所を見つけた人へ》(2021年)は、《白い夕日が好きな人へ》(2021年)で、山の役割をしていた手前のパイプの造形です。
子どもの頃、街には「行ってはいけない」と止められていた丘がありました。そこに行けるようになってから行ってみると、行ってはいけないという場所は眺めがすばらしい場所で、好きになったそうです。
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太陽が沈む壁の反対面には満ち欠けをする月があります。《時間を忘れる方法を教えてくれた人へ》(2021年)です。
小さな小屋で友人と時を忘れるほど話し込むような時期があったというある人が、その「あっという間に経ってしまった時間」を月によって気づかせられたという話がもとになっています。
この月は、道路標識の看板のベースになっている円盤を月に見立てています。ちなみに道路標識はこの円盤に、標識のシートをかぶせて掲示するそうです。
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《未発見の小惑星観測所》を正面に左に太陽、右に月が存在する空間のなかに、ガードレールで作った矢印のオブジェ《私に道を教えてくれた人へ》(2021年)がおかれています。
29人の記憶の街を案内してくれた人たちの存在を、このオブジェが表しているのです。
Hang on to yourself
太陽と月の間、正面には未発見の小惑星が浮かぶ空間に立っていると、ここは宇宙だったんだと考えるようになります。そうすると誰かの思い出だった丘は、突然太陽と重なる地球のようにも見えてきます。
そう考えると、温かみのある思い出がすべて無機質な物質で形作られていることがかえって静寂、無音の世界にいるかのように感じさせ、宇宙を浮遊しているような感覚が呼び起こされます
4つの関係性のなかで自分一人の個人の存在を考えたときに、私は私なのか、私は小惑星なのか。もしくは星屑なのか。「あと5年しかない」地球に、異星人のバイセクシャルロックスター「ジギー・スターダスト」の後輪を告げるタムの音がどこからか聞こえてくるようです。
宇宙に僕は一人。いや、正面と左右には人々の記憶が作った小惑星と太陽、月がある。そこへ向かおうか。それとももう少しここにいようか。いずれにせよ、その道筋は出来上がっている。君の意思のままに。
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そんな宇宙空間にも似た世界でも、モノは人の手によってつくられているのは、どこか奇妙に感じます。
未発見の小惑星も太陽も、月も、丘も、道も、近づいてみると、そこには素材の質感があって、”誰かが作った”ものであることがわかって、意思が存在していることにも気づきます。
写真ではそうした世界の浮遊感の一方で、実在感というか、質感のなかに人の存在、想いの存在のようなものがあるのかなと思って、シャッターをきってみました。
最後に金子さんのポートレイトを。
「男前に撮ってくださいね」というリクエストだったんでが、茶目っ気のある表情も魅力的なので、両方を掲載。作品の向こうにいる人を感じてもらえたら。
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明日は「Food」。
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