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Art|クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》 戦う相手は誰だ?

先日、20代の飲食店従事者9名が集まって、ZOOM配信イベントを行いました。その際、告知の画像に使ったのがグスタフ・クリムトの《「人生は戦いなり(黄金の騎士)》でした。

所属していた「ウィーン分離派」という芸術グループや、装飾的な表現方法、音楽や家具のアーティストなどと総合芸術を目指した姿勢など、クリムトの芸術へのアプローチが好きでした。自分でも本を作っていたこともあったので、使うならクリムトの作品がいいなぁと思いながら、どの作品にしようか考えていたところ、タイトルも直接的なのですが、クリムトにとっての「戦い」が、イベントに参加する若者たちの現在に重なったような気がしたので、使うことにしました。

新しい価値観を糾弾する者たちとの戦い

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グスタフ・クリムト《「人生は戦いなり(黄金の騎士)
1903年 愛知県美術館蔵

絵画そのものが、さまざまなしがらみ、たとえば物の形であったり、教会や貴族の宮廷に飾られるべき存在としてのテーマ設定であったり、そもそも現実空間や物語を再現すべきものであるという概念などがから解き放たれて、色彩そのものや画家の内面性などを表現する表現媒体としての絵画であろうとするさまを「絵画の自立性(自律性)」と呼ばれます。

おもに20世紀初頭の美術運動でカンディンスキーなどの抽象主義の絵画に言われるものです。しかし、その流れは急激に生まれたものではなく、いわゆる印象派といった近代美術の一連の流れのうえにあるとすれば、抽象絵画以前のゴーガンやピカソといった作家の姿勢のなかにも「絵画の自立性(自律性)」が存在しているといえるのではないかと思っています。

もちろん、クリムトもその一人だと僕は思います。

とはいえ、ほぼ同時代に「」を解体しようとキュビスムを提唱したピカソだったり、固有な「」の解放を目指したマティスなどに比べると、絵としては写実性が比較的に残っており、前衛というには、やや中途半端ともいえるのもクリムトの特徴です。

クリムトが活動したウィーンは、ヨーロッパにおける絵画の中心地から外れた僻地といえる地。文化の伝播としては、比較的遅く、クリムトですら当初はアカデミックで写実的な作品を多く残していました。

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グスタフ・クリムト《古代ギリシア
1891年 ウィーン美術史美術館

パリの印象派によって近代絵画の歩みが加速したとすれば、ウィーンにはそれからおよそ20年遅れで、脱アカデミズムの動きが起こるなど、独自のタイムスパンで美術の近代化が起こったといえます。

クリムトは、その僻地に咲いたあだ花。かつてヨーロッパの大帝国だったオーストリアの首都にありながらも、時代から取り残されていく街がもつ退廃的なイメージも手伝って、20世紀初頭の芸術のなかで特別な存在にあると思っています。

そのクリムトが戦ったのは、なんだったのか。

それは旧来的な絵画の道徳や決まりごとを重視するウィーン画壇でした。クリムトは、《「人生は戦いなり(黄金の騎士)》を制作する前に、ウィーン大学講堂の天井画を制作しています。それは「哲学」「医学」「法学」といった学問を寓意的に描いたものでしたが、その内容は裸の老若男女が折り重なるように異空間をさまようものだったり、男女が抱き合いながら上昇していくような宇宙的なものでした。

絵の一部は一度講堂の天井を飾りますが、それに対して当の大学関係者87人が作品の展示をやめるよう抗議の声が上がります。そして最終的には、議会を巻き込む国家的な問題にまで発展してしまいます。

壮絶な批判を受けて孤立するなかでクリムトが描いた作品が《「人生は戦いなり(黄金の騎士)》でした。

つまりクリムトが戦った相手とは、旧時代から続く芸術の価値観を持ちながら新しい価値観を糾弾する者たちだったのです。

異端の連なりが、あたかも歴史のように見える

新しい考え方や姿勢は、とりわけ旧世代から批判を受けるのは、クリムトに始まったわけではありません。それは芸術の分野だけでなく、文学やアニメーション、スポーツのなかにもあります。もちろん料理の世界にもあります。

文化・芸術の発展は、そうした革新と批判が連なってできたものであるともいえます。逆にいえば、革新と批判がなければ発展はしなかった。つねに異端や前衛によって歴史のようなものが作られてきたわけです。

そんな、異端の歴史の上に、20代の飲食店従事者もいるはずです。革新と批判を受けても、それこそが料理を発展する瞬間のできごとであるともいえます。

そんなことを考えながら《「人生は戦いなり(黄金の騎士)》を使いました。つまり、イベントをやるにあたっての、僕なりにメッセージだったわけです。

イベント自体は、どうだったかというのは、ぼくはあくまで主役ではないので、集まった9人の飲食店従事者のみんなと、それを見てくださった方々のなかにその答えがあるのかなと思っています。もちろん、それは今すぐに目に見て現れることではないようにも思います。

人生は、戦いなり。

この絵のように、黄金の鎧をまとって直立し、前だけをみて前進していく姿勢が何かを生み出すと、僕は信じています。

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【明日の予告】

明日のnoteのテーマは「Food」です。コロナ自粛中に気になるレストランができて、行ってみたいな、と思っている方に、「一番安いコースをお願いしたらダメ?」という疑問(あるのかな?ぼくはあった)に僕なりに答えたいと思います。

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