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Food|アジアのベストレストラン50 2021を読み解く

本日(3月25日)、日本時間17時30分から「アジアのベストレストラン50」の2021年版ランキングがオンライン配信で発表されました。

アジアのベストレストラン50」は、2019年に放映された木村拓哉さん主演のテレビドラマ「グランメゾン東京」で存在を知った人も多いイギリス発祥のレストランランキング「世界のベストレストラン50」のエリア限定版の一つです。

世界のベストレストラン50」は、2004年に飲食専門誌『レストラン・マガジン』がスタートさせました。世界のレストランに投票し、上位50店のランキングを発表します(インターネット上では、100位までを発表)。

また、料理だけだったミシュランガイドとは異なり、審査の対象になるのは、料理だけでなくサービスや店内の雰囲気、シェフの個性、立地状況など、レストランのすべてです。いわばUX(顧客体験)が評価の対象といえます。

世界のベストレストラン50」のランキングの特徴は、レストランシーンの「」を伝えるために採用されている審査制度にあると思います。このランキングの選出方法は、次のプレスリリースにこう書かれています。

アジアの外食産業に影響力を持つ300名以上が構成する「アジアのベストレストラン50アカデミー」メンバーの投票により決定されます。各地域のフードライター、料理評論家、シェフ、レストラン経営者、著名な美食家などから構成され、男女比率を50:50としている評議委員会があります。今年の投票では、旅行の機会が限られていることを考慮して、現地での食事に重点を置いた投票を行いました。(プレスリリースより引用)

さらにもう少し詳しく調べてみると審査基準については「投票者は通常​​10のレストランに投票し、そのうち少なくとも4つは自国以外にある必要があります」と「過去18か月以内に指名したレストランで食事をしたことがある」という決まりもあります。

このあたりの取り決めがどうなるのか興味深かったところでしたが、2021年の適応ルールとして「投票者は7つのレストランに投票し、そのうち少なくとも2つは自国以外」と変更され、「過去18か月以内に指名したレストランで食事をしたことがある」は、そのまま適応されていました。

こうなると自国のレストランへの投票が必然的に多くなる状況ですので、それがランキングに影響を与えるのかが興味深いところでもあります。

それでは、さっそくランキングを見てみましょう。

アジアのベストレストラン50」2021年ランキング

順位| 前回順位| 店名| 所在地
1| 2 |The Chairman| Hong Kong, China
2| 1 |Odette| Singapore
3| 3 || 東京
4| ↑8 |Le Du| Bangkok, Thailand
5| new |Gaggan Anand| Bangkok, Thailand
6| 6 |Sühring| Bangkok, Thailand
7| 7 |フロリレージュ| 東京
8| ↑10 |ラシーム| 大阪
9| 9 |Narisawa| 東京
10| ↑14 |Mingles| Seoul, Korea
11| ↑16 |Sorn| Bangkok, Thailand
12| ↑29 |茶禅華| 東京
13| 11 |Les Amis| Singapore
14| 5 |Burnt Ends| Singapore
15| ↑18 |Mume| Taipei, Taiwan
16| 12 |Vea| Hong Kong, China
17| ↑19 |Neighborhood| Hong Kong, China
18| 13 |Indian Accent| New Delhi, India
19| ↑48 |レフェルヴェソンス| 東京
20| new |Nusara| Bangkok, Thailand
21| ↑36 |Raw| Taipei, Taiwan
22| 20 |Fu He Hui| Shanghai, China
23| ↑28 |Zén| Singapore
24| new |Logy| Taipei, Taiwan
25| 4 |Belon| Hong Kong, China
26| 26 |JL Studio| Taichung, Taiwan
27| ↑35 |Ode| 東京
28| return |Caprice| Hong Kong, China
29| ↑30 |Ministry of Crab| Colombo, Sri Lanka
30| ↑40 |ラ メゾン ド ナチュール ゴウ| 福岡
31| new |Cloudstreet| Singapore
32| new |Masque| Mumbai, India
33| 32 |8 1/2 Otto e Mezzo Bombana| Hong Kong, China
34| new |7th Door| Seoul, South Korea
35| 24 |日本料理 龍吟| 東京
36| new |Born & Bred| Seoul, Korea
37| 31| Amber Hong| Kong, China
38| return |Ta Vie| Hong Kong, China
39| new |Anan Saigon| Ho Chi Minh City, Vietnam
40| new |Labyrinth| Singapore
41| new |Euphoria| Singapore
42| 21 |Jaan by Kirk Westawa|y Singapore
43| 34 |Hansikgonggan| Seoul, South Korea
44| new |Mono| Hong Kong, China
45| 42 |Shoun RyuGin| Taipei, Taiwan
46| 15 |Gaa| Bangkok, Thailand
47| 33 |Lung King Heen| Hong Kong, China
48| 25 |Seventh Son| Hong Kong, China
49| 44 |Toyo Eatery| Manila, Philippines
50| 22 |Wing Lei Palace| Macau, China

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アジア1位になったThe Chairman

果たして日本勢は本当に躍進したのか?

いくつか気になるポイントをあげてみますね。

・香港から初のアジア1位が誕生「The Chairman」
・初受賞のレストランが11店舗
(内訳:シンガポール3点、バンコク、ソウルが2店ずつ、香港、ホーチンミン、ムンバイ、台北が1店ずつ)
・国・地域別でみると香港11店、日本9店、シンガポール8店の順

ランキングの質で見てみるため(51-順位)の式を使って順位をポイント換算して合計してみます。つまり1位なら50ポイント、50位なら1ポイントになるわけです。

①日本-309ポイント
②香港-227ポイント
③シンガポール-193ポイント

結果は、香港より掲載数が少ないかった日本がポイントで逆転しています。つまり上位にランクインしているレストランが多いということが言えそうです。

上に貼り付けたプレスリリースには「2021年版『アジアのベストレストラン50』で日本のレストランが躍進」とありますが。しかし、前年版では12店の掲載店から減少、最高位も3位の「」と変わりないなかで、「果たして躍進といえるのか?」と感じていましたが、減ってはいるけど上位に食い込み続けたという点では、躍進とはいえずとも「活躍した」とか「存在感を示した」ということはいえそうです。

昨年掲載9店から11店に増えた香港。その背景には、前回9位から一気に2位にランクアップした「The Chairman」の存在がありそうです。これまでのランキングの傾向でいうと、上位3位にランクインしたレストランには、当然翌年たくさんの審査員が行くことになります。そのツーリズムのスケジュールに同じ地域の別のレストランが入るのはある意味当然で、全体のレベルアップが行われることになります。

実際、昨年急上昇したうえで、さらに今年1位に「The Chairman」がなったことが証明しているように、限りある移動機会のなかで「とりあえず1位いっとかないとね」的なことで香港全体に投票者が集まったと考えるのは、あながち間違いではないように思っています。

ベストレストラン50シリーズのニューノーマルとは?

僕、個人としては、「世界のベストレストラン50」なりエリア版なりは、移動制限がこれからも続いていくなかで、あたらしい部門の創設なり、ランキングの見直しなどをしていかないと、現実的なレストラン評価ができなくなっていくのではないかと思っています。

とくに国境を越えたレストランランキングをし、フードツーリズム・ガストロノミーツーリズムの促進を促すことで、スポンサーを集めてきた企画としては、このコロナ禍でその基本姿勢を見直さざるを得なくなってくるのではないでしょうか。

実際、このランキングを見たところで今年いっぱいはおそらく自国以外のレストランに行けないわけです。そもそも海外旅行すらいけないというなかで、このランキングにどんな価値があるのか、甚だ疑問です。

ここからランキングの見直しをどうしていくのか。そこには、SNSやインターネットとの親和性をもっと高めていく方法になるのではないかと思っています。

現在ですと、ランキングとは別に、さまざまな部門賞が設けられています。具体的には、シェフが選ぶシェフ「シェフズ・チョイス賞」や「ホスピタリティ賞」「サステナブル・レストラン賞」「ベスト・パティシエ賞」などありますが、こういった部門に映像作品を表彰する「ベスト・ムービー賞」や、社会的取り組みを積極的に行った「ベスト・ソーシャル賞」というものが創設されてもいいと思います。

もしかしたらランキングの方法自体もかわってくるかもしれません。

そもそも移動が制限されるなかで、観光業が激減、予算も縮小されていくなかで、スポンサー集めはとても厳しい状況が出てきていると思います。それなら、コロナ禍でかえって伸びているIT業界からの資金集めに振る可能性もあります。

一方で、家電や家庭用の調理機器の需要も伸びているでしょうから、「ベスト・レシピ賞」とか、食を家庭向けに教える「ベスト・ティーチャー賞」など、家庭にどれだけシェフの技や知識を伝えたかのような方向に向かう可能性もあります。

ベストレストラン50とSNSフォロワー

そんなことを考えていたら、「アジアのベストレストラン50」の各店のページにInstagramのリンクが貼ってありました。どれくらいフォロワーをもっているんだろうと思ってみてみたところ、最高フォロワー数は、5位に初ランクインした「Gaggan Anand」のガガンシェフの23万人でした。

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このリンクは、お店かシェフのインスタが貼られているので、一概に比較はできないですが、すべてのページに貼られているリンク先のインスタのフォロワー数をまとめてみると、こんな結果になりました。

インスタ順位| フォロワー 店名 Instagram 所在地 順位 前回順位
1| 23万人| Gaggan Anand| Bangkok, Thailand| 5| new
2| 5.5万人| Odette| Singapore| 2| 1
3| 4.72万人| Burnt Ends|  Singapore| 14| 5
4| 4.6万人| Indian Accent| New Delhi, India| 18| 13
5| 4.2万人| Raw | Taipei, Taiwan| 21| ↑36
6| 4.18万人| | 東京| 3| 3
7| 3.65万人| Lung King| Hong Kong, China| 47| 33
7| 3.65万人| Caprice| Hong Kong, China| 28 |return
9| 3.6万人| Sühring| Bangkok, Thailand| 6| 6
10| 3.4万人| Zén| Singapore| 23| ↑28
11| 3.3万人| Jaan by Kirk Westaway| Singapore| 42| 21
12| 2.96万人| Narisawa| 東京| 9| 9
13| 2.7万人| Masque| Mumbai, India| 32| new
14| 2.56万人| Amber| Hong Kong, China| 37| 31
15| 2.32万人| Toyo Eatery| Manila, Philippines| 49 |44
16| 2.1万人| Gaa| Bangkok, Thailand| 46| 15
16| 2.1万人| Ministry of Crab| Colombo, Sri Lanka| 29| ↑30
16| 2.1万人| レフェルヴェソンス| 東京| 19| ↑48
16| 2.1万人| フロリレージュ| 東京| 7| 7
20| 1.9万人| Mume| Taipei, Taiwan| 15| ↑18
20| 1.9万人| Mingles| Seoul, Korea| 10| ↑14
22| 1.82万人| ラシーム| 大阪| 8| ↑10
23| 1.8万人| Vea| Hong Kong, China| 16| 12
24| 1.7万人| Wing Lei Palace| Macau, China| 50| 22
24| 1.7万人| Belon| Hong Kong, China| 25| 4
24| 1.7万人| Sorn| Bangkok, Thailand| 11| ↑16
27| 1.6万人| Les Amis| Singapore| 13| 11
28| 1.2万人| Le Du| Bangkok, Thailand| 4| ↑8
29| 1.1万人| Cloudstreet| Singapore| 31| new
30| 1万人| Logy| Taipei, Taiwan| 24| new
30| 1万人| 茶禅華| 東京| 12| ↑29
32| 9,334人| Ode| 東京| 27| ↑35
33| 8,980人| ラ メゾン ド ナチュール ゴウ| 福岡| 30| ↑40
34| 7,955人| JL Studio| Taichung, Taiwan| 26| 26
35| 6330人| Labyrinth| Singapore| 40| new
36| 6,197人| Anan Saigon| Ho Chi Minh City, Vietnam| 39| new
37| 6,017人| Mono| Hong Kong, China| 44| new
38| 5,603人| Neighborhood| Hong Kong, China| 17| ↑19
39| 3,864人| 8 1/2 Otto e Mezzo Bombana|Hong Kong, China|33|32
40| 3,762人| Hansikgonggan| Seoul, South Korea| 43| 34
41| 3,665人| Nusara| Bangkok, Thailand| 20| new
42| 2269人| Euphoria| Singapore| 41| new
43| 2,977人| Born & Bred|Seoul, Korea| 36| new
44| 2,568人| Ta Vie| Hong Kong, China| 38| return
45| 2,519人| The Chairman| Hong Kong, China| 1| 2
46| 2,215人| 7th Door| Seoul, South Korea| 34| new
47| 1,929人| Shoun RyuGin| Taipei, Taiwan| 45| 42
48| 1,764人| Fu He Hui| Shanghai, China| 22| 20
49| なし|日本料理 龍吟| 東京| 35| 24
49| なし| Seventh Son| Hong Kong, China| 48| 25

ガガンシェフは、世界のベストレストラン50の常連シェフであることもあってフォロワーが多いのは納得できるが、その次は1ケタ減って5.5万人というのは、著名人・文化人のなかに入るシェフなり国際的なサービスコンテンツであるレストランのフォロワーとしては、非常に少ないという印象を持ちました。

もちろん、レストランやシェフの本業は、目の前のお客様を楽しませることですので、二の次であっていいのですが、それでもSNSがマーケットの大きな部分をしめている現代に社会においては、伸びしろがある分野のような気がします。

さらに、国をまたいでのFoodie(食通)の行き来がなくなった以上、国外客から国内客への路線変更もしなければいけなくなってくるでしょう。そうしたときに、SNSはとても有効な戦術になるはずです。

今回は、コロナ1年目ですので傾向はあまり出てきませんが、来年になるとランキングの浮き沈みとSNSとの関係に何かの因果関係が見えてくるのではないかと、期待をしております。

2021年のアジアのレストランシーンはどうなっていくのか。楽しみですね。

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