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Art|《貴婦人と一角獣》は、暖房用品でもあった?!

美術作品をオンラインで鑑賞できるようになって、美術館では見られないような超拡大や、所蔵館が提供する画像を使って自分だけの写真集を作ったりなど、いままでにない美術の楽しみ方が増えました。

じっさいに見に行かなくても十分に絵の魅力を感じられるようになってきています。

しかしながら、大きさや絵の質感などはやっぱり実物を観ないと体験できないという側面もあります。

寓意にみちた6帳のタペストリー

15世紀末に制作された6帳のタペストリー《貴婦人と一角獣》(1500年頃、中世美術館)は、僕にとって実物を観たい作品の筆頭です。2013年に国立新美術館の展覧会のために来日したときは、その大きさと6帳揃った空間に感動したものです。

貴婦人と一角獣》は人間の五感と欲望を寓意化(ある意味を別の物事に託して表す)しています。

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触覚
中央の貴婦人が一角獣の角に触れています。
372×358㎝

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味覚
貴婦人が従者が用意した砂糖菓子に手をかけています。
375×460㎝

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嗅覚
貴婦人が花の王冠を紡いています。背後には、花の香りをかぐサルの姿も。
367×322㎝

画像4

聴覚
ポルタティーフ・オルガンを貴婦人が一心に演奏してます。
370×290㎝

画像5

視覚
貴婦人がもつ鏡に一角獣が映っています。
310×330㎝

画像6

 《我が唯一の望みに
欲望の象徴とされる宝石を貴婦人は手に取ろうとしているのか、それとも、宝石箱にそっと戻そうとしているのでしょうか。
378×466㎝


タペストリー(仏語でタピスリー)とは、製織の技術では日本の綴織(つづれおり)と同じ織物で、北ヨーロッパを中心に製作された工芸品です。

貴婦人と一角獣》の6帳セットは、15世紀末のパリで宮廷につかえていたル・ヴィスト家に制作され、城館を飾っていたとされています。

6帳のタペストリーが横長のものと縦長のものが混在するのは、ル・ヴィスト家のどこかの間の壁のサイズに合わせていたからとされています。ほぼ天地の高さは370㎝ですが、《視覚》だけ310㎝と50㎝ほど低いのは、なにか部屋の構造上の理由があったのかもしれません。

また、北ヨーロッパの城館は石造りで、冬場はなかなか部屋の中が暖かくならなかったこともあり、暖房効果としてタペストリーを飾っていたとも言われています。寒くて長い冬を乗り越え、《貴婦人と一角獣》の花畑に囲まれた絵を観ながら命溢れる春を楽しみにしていたわけです。

多くの美術品は、いま、もともとあった場所から離れ、美術館のなかに展示されています。しかひ、もともとは誰かがある空間を飾るために制作を発注したもの。おのずとその空間の関連性によって作品が決まってきたはずです。しかし、そのことが美術館の展示フォーマットのなかでは表現しきれていません。

ここは、今後の美術品のヴァーチャルな視覚体験では結構重要になってきそうなきがします。

この《貴婦人と一角獣》が、実際のル・ヴィスト家の城館でどんな雰囲気で飾られていたのか。その空間で観たときに、それぞれを単品で観たときとはまた違うことを感じるはずです。

幸いにして《貴婦人と一角獣》は、中世の建物を利用した中世博物館の2階に展示されています。僕はまだ行ったことがないのですが、その雰囲気は、かなりル・ヴィスト家の雰囲気に近いんじゃないかと思っています。きっと東京で見たものとは全く違うように見えるんじゃないかな。

このように、作品と空間をいっしょに考えながら見ていくと、作品がまた違ってみてくるし、何より作品から当時の人たちがどんな視線で絵を観ていたかも感じることができます。

ぜひみなさんも美術品は、美術館に飾るために制作されたのではないことを意識しながら見てみると、いつも見ている作品が違って見えてきますよ!

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