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Rock|イアン・ハンター《流浪者》

以前書いた、Mott the Hoopleのソングライターでヴォーカリストであるイアン・ハンターのソロ2作目のアルバムが《流浪者》(ながれもの、原題: All American Alien Boy)です。

日本でイアンは、デヴィッド・ボウイの《ジギー・スターダスト》時代の盟友ミック・ロンソンとタッグをコンビを組んでいたヴォーカリストとして知られているのではないでしょうか。

じっさい、イアンの最初のソロアルバム《双子座伝説》(原題:Ian Hunter)は、ミック・ロンソンのギターやアレンジが前面に出ていて、イアンのソロキャリアでもっともチャートが上位のアルバムです。1970年代後半から80年代前半までは、ハンター・ロンソンバンドを結成してライヴツアーもしていました。

僕自身も、デヴィッドのバックバンド「スパイダース・フロム・マーズ」のギタリストとして知って、Mott the Hoople、イアン・ハンターと流れてきたタイプなので、当然イアンのアルバムで言えば、ロンソンと一緒に制作したアルバムを、イアンのベストアルバムに挙げたいところなんですが、《流浪者》をどうしてもベストにしたいです。

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このアルバムが、というよりもこのアルバムに入ってる「アイリーン・ワイルド」(Irene Wilde)が、イアンの曲で一番好きな曲だからという方が正しいかもしれません。

僕が17歳ころ、まだイアン・ハンターのソロアルバムは、《双子座伝説》や《ウェルカム・トゥ・ザ・クラブ》のLIVE版がようやく手に入るくらいでした。《ウェルカム・トゥ・ザ・クラブ》に入っていたのがイアンがピアノを弾き語りで歌い上げる「アイリーン・ワイルド」でした。

もちろんこのLIVE盤には、イアンの代表曲「すべての若き野郎ども」なんかも入っていていたんですが、「アイリーン・ワイルド」の静かに抑揚をつけるイアンの声がとても好きでした。

日本版が出たのは1996年、19歳のとき。ようやく対訳を読むことができて、メロディーやアレンジに惹かれていた以上に、イアンの詞の世界がすごく伝わってくるもので、さらに好きな曲になったという思い出があります。

誰もが思う事だろうが、ちょっとした事から
人は物が見えるようになるものさ
鎖などないのさ、輪があるだけだ
僕をこう思わせるのは他ならぬ君
きっといつかは、大物になる
ーー竹内邦愛訳

この曲は、アイリーン・ワイルドという少女に惹かれていた主人公が、自分の住む町を飛び出して夢に向かって歩むことを決めるという物語です。ある時にアイリーンがボーイフレンドといる現場をみてしまいショックを受けるわけですが、結局それは恋なのかどうかは、詞のなかでは語られておらず、主人公は特別な人生ではない、自分の人生を歩きだす。そのきっかけがまぎれもなくアイリーンだった、という内容です(自分の想像7割)。

なにより、アイリーン・ワイルドという少女の名前が、10代の僕にものすごくカッコよく聞こえた。アイリーンは、平和を意味が含まれているそうで、かなり一般的な女性の名前。一方のワイルドは、WILDEとしていますが、野生を意味するWILDを連想させます。とても、保守的な教育を受けながらそこから逸脱しているような、ちょっとパンキッシュな女性を僕に連想させたのでしょう。この歌のアイリーンになぜか憧れのようなものを感じていました。

16の時、僕は毎晩パーカー・ストリートのバス停で
夢という名のバスを待っていた
バスに乗り込もうとしているその娘の軽蔑の目に
僕は勇気を失い旅に出た
ーー竹内邦愛訳

でもいま改めて考えてみるとWILDEはイギリスの作家オスカー・ワイルドと同じ苗字なので、もしかしたら、主人公と階級の違う少女を、遠くから眺めていた、という物語かもしれないことを、いまふと気づいた。

”きっといつかは、大物になってやる”

という最後の一節は、身分の差を超えてやるという意味なのかもしれないなぁ。

詞の内容はともあれ、この語感とメロディー、曲の抑揚は代えがたい魅力であることには変わりなく。改めて、今晩もこの曲を聞きたと思います。

おじいちゃんになったイアン・ハンター(ジョン・レノンの1歳年上)のライブから。

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明日は「Life」。「信念をどこまで貫けるのか?」最近考えたことを。

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