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Trip|「土は人と同じように育てる」川端崇文さん|加賀れんこん農家

9月下旬、友人の料理人で、2021年に都内でレストランをオープンする予定の大野尚斗さんと、豊洲に拠点を置いて、日本各地の食材を都内のレストランに紹介するスーパー八百屋「eff」の吉岡隆幸さんとともに、石川県と新潟県を旅してきました。

もともと大野さんと吉岡さんが、来年の新店オープンにむけた食材探しの旅ととともに、ここ数年ミシュランガイドも発売されて、美食エリアとして面白い動きがある北陸の注目レストランを食べに行こうという企画に誘ってもらいました。

食材ツアーは、前職のころから何度も行っていますが、プライベートで行くのは初めて。夜は、その土地のレストランに行くことはあるのですが、役場の方が手配してくださることが多く、なかなか行きたい場所を選ぶことができませんでした(ローカルなお店もいいんですが、せっかくなら最高のお店に行きたいというのもありますよね)。

今回のレストランは、シェフよりも食べ歩きの人すらある(人の料理を食べるのもすごく大事な勉強です。画家の修業の第一歩は模写ですから)大野さんセレクトの名店ばかりということで「行くしかないっしょ!」と二つ返事で行ってきました。

加賀野菜の条件は70年以上石川で作り続けられていること

金沢市から車で30分ほど、隣町の津幡町湖東は、河北潟という潟の一部が埋め立てられた場所で、東に1キロも行けば日本海に出るような場所にあります。以前は、汽水湖(海水と真水が混ざり合う低塩分の湖)でしたが、干拓によって淡水湖(真水の湖)になったそうです。

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石川県には「加賀野菜」と呼ばれる地場野菜があります。昭和20年以前から栽培され、現在も主として金沢で栽培されている野菜が加賀野菜の定義で、現在は、さつまいも、加賀れんこん、たけのこ、加賀太きゅうり、金時草、加賀つるまめ、ヘタ紫なす、源助だいこん、せり、打木赤皮甘栗かぼちゃ、金沢一本太ねぎ、二塚からしな、赤ずいき、くわい、金沢春菊の15品目あります。

河北潟の干拓地では、そのひとつの加賀れんこんが栽培されています。

加賀れんこんのルーツは、江戸時代の加賀藩の時代までさかのぼるといわれています。明治10年代までは「地ばす」と呼ばれる品種が栽培されていました。明治20年代頃から収量を増やすために品種改良、新品種の導入が進み、現在は、中国から入ってきた「支那蓮種」から選抜育成された「支那白花」という品種が栽培されています。

なんだ、江戸時代から同じ品種じゃないんだ」と思うなかれ。ある品種はすべての土地に最適化されているわけではなく、何十年もかけてその土地にあったタネを残して、より土地にあったものにしていくので、それこそ農家さんの大きな仕事の一つと考えていい、と僕は思っています。

支那白花」の特徴は晩生種(遅くに実がなる)で、収穫は8月下旬~3月下旬。北陸の冷たい冬によって栄養を蓄えたレンコンは、デンプン質が多く、粘りの強いのが特徴だそうです。

収穫が始まったばかりの「どろんこファーム」の川端崇文さん(トップ写真)の農場を訪ねました。

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土は人。安心・安全な方法で育てる

畑は一面、レンコンの葉がしげっています。沼地なので隆起もなく、ずうっと向こうまでレンコン畑が続いています。

川端さんは、10年のサラリーマン生活を終え、農業での起業を決意し、
2006年から加賀れんこんの栽培を始めました。今年で14年目のシーズンを迎えています。

土で作られるものは、土で決まる」という川端さんは、土づくりに強い信念をもっています。「土を人だと考えている」という川端さんは、言葉のとおり、畑の土がどうやった健康になるのかを考えながら土を育てているといいます。

たとえば肥料。2011年、石川県特別栽培農産物に川端さんの加賀れんこんは認証されています。特別栽培農産物とは、農薬や化学肥料の使用を抑え、環境に優しい生産方法にこだわって育てられた、安全・安心な農産物のこと。

農薬や化学肥料は良くないことはよくわかります。そこで、畜産由来のたい肥などを土に加えて、できるだけ自然に近い農法をとる農家もあります。

しかし川端さん「畜産由来のたい肥飼料も、その生き物が食べている穀物飼料に何かが入っているかもしないと思うと使うのをためらうんです」と、たい肥を使わず、土にはいわしの魚粉など使うなど徹底して、土の健康にこだわった栽培をしているのが特徴です。

じっさい、川端さんのレンコン畑の隣に、ほかのレンコン農家の畑があったのですが、レンコンの葉の高さがまったく違います。だいたい川端さんのレンコンの葉は、1メートルくらいなのに対し、ほかの畑な、1m50㎝以上あるものもあります。

下の写真の右が川端さんの畑で、左は別の農家さんの畑です。左のレンコンの方が背が高いのがわかりますでしょうか。

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大きく育てるよりも、健康で育てる方を優先しているからです」と川端さん。その話を聞いて、「自分の子どもに食べさせられるレンコンか?」そんな基準が川端さんの中にあるように感じました。

北陸の厳しい冬が粘りのあるレンコンを育てる

いいレンコンはこれからです」ということで、今回は川端さんの加賀れんこんを食べることはできませんでした(残念)。もっともおいしくなるのは、沼に氷が張るほど寒くなってから。寒さから身を守ろうとするレンコンが、根に糖分をためるようになるからです。

川端さんたちは、氷を破ってかき分けながらレンコンの根を掘り出していきます。川端さんたちは、レンコンを機械で掘るのではなく、強い水圧のホースをもって一つひとつ掘り返していくそうです。

当然、泥の中での作業ですから体力がいります。さらに凍るほど寒い冬。9月はこんな感じでしたが、ここが一面氷が貼るんです。

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しかし、そこで採れた加賀れんこんは、甘味があって粘りも強いそうです。ちなにみ石川では加賀れんこんを、山芋みたいにすって食べるそうです。「加賀れんこんのすり身揚げ」とかおいしそう……。

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この時期でも粘りの形跡が。繊維が伸びて、宙に浮いています。

川端さんの加賀れんこん、大野さんのお店で食べられる(はず!)ですので、お楽しみに!

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上の写真はいただいてきた「加賀れんこんちっぷ」。ポテトチップスより甘い。

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川端さんのレンコン畑の近くにあるフリーズドライハーブのお店「PAYSAN」もおもしろかったです。元気のいいハーブをフリーズドライ(真空凍結乾燥)させることで、香りをほぼ永遠に封じ込めるというもの。いくつかのハーブティをいただきましたが、おどろくほどクリアで澄んでいて、香りだけが閉じ込められているように感じました。

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こんなにハーブの良さを出せるんだったら全部のハーブをフリーズドライにしたらいいと思うのですが、真空凍結乾燥機がおどろくほど高いみたいで、なかなか個人でもったりすることはできないそうで、「PAYSAN」代表の澤邉友彦さんによると、セミドライ加工を委託しているそうです。

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そういった技術がなかなかないというのも、フリーズドライハーブが知られていない理由のようです。

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明日は、能登・七尾のレストラン「ヴィラ・デラ・パーチェ」でのディナーについてです。

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