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Rock|ロキシー・ミュージック《ロキシー・ミュージック》

日曜の新テーマRockの第4回目です。

既存の価値観を破壊するRockという表現方法がもつ本来の役割を、今一度理解することで、文化はどう作られていくのかを考えていきたいと思っています。

ロキシー・ミュージックという表現方法

1970年代の英国ロックのなかでデカダンでデンダィ、アウトローなバンドがロキシー・ミュージックです。

このバンドのアルバムを選ぶ場合、デビューアルバムの《ロキシー・ミュージック》か、2枚目の《フォー・ユア・プレジャー》にするか本当に悩みます。

個人的には、2枚目の《フォー・ユア・プレジャー》の方が、繊細で洗練されたアルバムなので何度も聞いたのだが、僕としてはデビューアルバムの1曲目「リメイク  リモデル」が、あまりにロキシー・ミュージックと、バンドのフロントマン、ブライアン・フェリー、そして、Rockそのものの存在を象徴しているようで、語るべきアルバムとしては、やっぱり《ロキシー・ミュージック》が最適と思い、紹介させてもらいます。

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Roxy Music《Roxy Music》1972年リリース

1972年6月に6人組バンド、ロキシー・ミュージックはデビューしました。第1回目で紹介したデヴィッド・ボウイの《ジギー・スターダスト》のリリースと同じ年です。ロキシーは、デビュー後、ボウイの前座を行うなど、奇抜な衣装と派手なメイク、マッチョな革ジャン姿で、当時イギリスを席巻していたグラムロックのバンドとして、人気を得ていました。

たしかにデビューアルバムの中ジャケットには、硬派とナンパ、両性的なセクシャリティにあふれています。

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「リメイク  リモデル=再生産 再構築」を高らかに宣言

しかし、ロキシー・ミュージックは、グラムロックバンドでは決してないと思っています。ちょっと古い言葉で言えばアヴァンギャルド。《ロキシー・ミュージック》の1曲目「リメイク  リモデル」、つまり「再生産 再構築」が象徴するように、現代アートの表現に近いのではないかと思っています。

この映像、なんというかケバケバしくて、下品、演奏も無茶苦茶。

コード進行も単純で、それをひたすら繰り返す。

歌詞も「試してみたけど、方法が見つからなかった」とか「次回はみんなが知っている最高のものを。だけど次のものが見つからなかったらどうしよう」など、意味がありそうで、まったくなくて遊びまくてる。

コーラスも、ひたすら「CPL593H」(シィピエールファイヴナインスリーエイチ)を繰り返しています。これ、車のナンバーらしいんですが、これが無機質なロボットの叫びのようで、けたたましい騒動のなかで、緊張感を与えています。

バンドの創始者であり、作詞・作曲者、フロントマン、ヴォーカリストであるブライアン・フェリーは、デビュー前にニューキャッスル大学で現代アートを学んでいました。そして、イギリスの画家で、ポップ・アートの先駆者といわれるリチャード・ハミルトンの「大衆的、消耗品、安価、大量生産、若さ、セクシー、グラマラス」の思想に傾倒していたといいます。

ポップ・アートとは、大量消費、大量生産のなかで産業革命以降の資本主義社会に残ってきた中世的な美術感を180度ねじらせて、現代芸術に組み換えたも。旧来的な価値を否定するのではなく、視点を変えて、別の価値に置き換えようとしたものだと思っています。

そういったモダンアートの潮流は、たとえば1960年代にアメリカでアンディ・ウォーホルが、有名なキャンベル缶のシルクスクリーン印刷で提言しているし、近代文明の成れの果てともいえるベトナム戦争への泥沼化も、そういった芸術的衝動に影響を与えているのかもしれません。

Rockの悲しい未来

ロキシー・ミュージックには、いわゆるプロミュージシャンは1人もいなません。

映像を見てもらえればわかるのですが、ブライアン・フェリーは鍵盤楽器(シンセサイザー?)を弾いてますが、あくまで伴奏程度。ギターのフィル・マンゼネラは譜面が読めなかったそうです。サックス、オーボエのアンディ・マッケイは、クラシック経験者ですが、楽器を逆さに吹いたりしてやりたい放題。。そもそもバンドにサックスがいるのは珍しい。シンセサイザーのブライアン・イーノは、ライヴでは、ただ高い音を出すだけのパフォーマーだった(音楽的才能はあるが、演奏しないだけ)。唯一、ドラマーのポール・トンプソンとベースのグラハム・シンプソンが、ミュージシャンといえる人材だったといえます。

つまり、ロキシーは、Rockの表現範囲を拡張しようとしたバンドなわけです。

メンバーたちは、おそらく、現代であれば、ゲームクリエイターやデジタルアートなどに向かったんではないでしょうか。彼らにとってただ単純に、当時もっともいけてるアートの表現方法がRockだった。もっとも重視したのは表現を選択することが重要であって、その方法は何でもよかったのかもしれません。

Rockは、基本的に原理主義に対する反発と揺り戻しの連続だ。エルヴィスから始まった原理主義的ロックから、離れては戻っていくことの繰り返しをしています。

再生産と再構築。ロキシー・ミュージックが一番最初にこの世に問うた曲と同じです。ロキシーは、この宣言を最後まで貫いた。古典音楽の再生産と再構築。それを視点を変えて問いかけ続けている。

それは、すでにロキシー・ミュージックのバンドの生涯をすでに決めていたかのような活動の始まりでした。そしてそれは、真のクリエイティブは生まれないという、Rockの悲しい未来を予言するものだったのです。

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