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6「恋人(たち)」新しい出会いには可能性が満ちあふれている

「法王」を描き終わった時点では「オリーブの苗を持ち寄る」というイメージ以外行き詰まっていた「恋人(たち)」のカードでしたが、急にこの一週間ほどでグイグイ描き進めることができました。
Xにアップできたのが、偶然にも芸術性を表す海王星の逆行が終わった日でした。

数字の「6」

『いますぐ深読みできるフレンドリー・タロット』(いけだ笑み著)に「初めての他者を認知することから始まるドラマ」と「恋人」のカードが説明されているように、これまでのカードの登場人物は基本的に一人です。
(※法王のカードでは三人描かれていますが、法王以外の二人は法王と対等な立場ではなく絵柄でも背中しか見えていません。)
このカードでは、同じ目線の他者が初めて登場します。

『タロット解釈実践辞典』(井上教子著)によると、数字の「6」は正三角形と逆三角形が重なってできる六芒星(✡︎)が表されるとあります。
正三角形と逆三角形は、神聖幾何学では男性性や女性性の原理、占星術でもおなじみの四大エレメント(火地風水)を表す記号にも用いられています。
ちなみに、
△ 上向きの正三角形=男性性、火・風のエレメント
▽ 下向きの逆三角形=女性性、水・土のエレメント
を象徴します。

また、「調和」を表すと言われる六芒星は「ソロモンの印章」として有名です。
ソロモンは旧約聖書の原典の一編「雅歌」を作ったとも言われているのですが、「雅歌」は夫婦の愛を歌ったものとも、「人間の魂と神との神秘的な合一をあらわしている」(ハンス・ビーダーマン『世界シンボル事典』)ものだとか。

こうしたことから「恋人」のカードは、六芒星の三角形と逆三角形の形でできる六芒星のように「2つの全く異なるものが出会い、重なることで、新しい物語が生まれる瞬間」を表していると言えそうです。

ウェイト版の構図

ウェイト版のカードは、上記の三角形や逆三角形、そして六芒星が隠された構図となっています(デザインしたパメラ・コールマン・スミス、本当にすごい……)。

天使と男女を結ぶとできる三角形は、人間(神の子)と天使(神)の三位一体とも言えます。
男性的なエネルギーを表す正三角形は、天使(天や神なるもの)の御許までたどり着きたい人間の試みを表しているのでしょうか。
背景にある山も「高みに登る=上昇する」の象徴を強調しているように思えます。

一方、天使の姿に配された逆三角形は、女性的なエネルギーのひとつである「受容(=天使による祝福)」されている状態のようです。
また、天から地に下降する形となり、天の思し召しが地上に降り立ってきているのかもしれません。

三角形が表す男性原理と逆三角形が表す女性原理には、理性感情がそれぞれ割り当てられています。
男女の股間にも逆三角形が意図されているように見えるのですが、皆さんはどう思われますか?(股間は感情なのか…..)

背景の山の位置が気になる

「調和」を表す六芒星がカードの中心に左右対称に描かれることで、安定感を強調した構図となっています。
個人的に面白いと思っているのが、その安定感を崩すように背景の山の中心と頂上の向きが女性側に少しズレていることです。

タロットカードのスプレッドの配置でもそうであるように、右側は「未来」左側は「過去」を象徴すると言われています。

「恋人」のカードを見てみると、右側には男性、左側には女性が描かれています。
男性は「外向性」や「積極性」を象徴する男性的エネルギーを体現するように、天使の加護の元でその視線を女性に投げかけています。
反対に、女性は「内向性」や「受動性」を象徴する女性的エネルギーを体現するように、受け入れるべきかの選択肢を天使に問うているかのよう。

背景の山の中心を敢えて女性側に少し押し出し男性側を強調することで「六芒星の安定した調和を破り、未来に向けて物語に動きを与える」ことを表現しているように感じます。
つまり、「恋人」のカードは「素敵な出会いを用意したから、ちょっと勇気を出して行動(=男性的エネルギー)すれば新たなストーリーが始まっていくよ」とアドバイスしているように思えるのです。

また、カードの男性は「思考や理性」、女性は「直感や感情」を表しているともいわれています。
「恋人」に対応するのは双子座と水星でもあることから、理知的な好奇心を持って会話やコミュニケーション、学ぶこと、移動や実務的な作業を行うなど自分の行動によってストーリーを進めていくとも読めます。

未来はまだ決まっていない

ではでは、ようやくオリジナルタロットの説明です。

5「法王」のカードは、生命の神秘を地上で実現するよう布教していたゼウスです。
こうして(カードの世界では)農耕の知恵や方法、心構えが多くの人に伝わり広がっていきます。
そのような中で、オリーブの苗を手にした男女二人が出会います。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、オリーブはひとつの品種だけでは実がつきにくいと言われています。

「キミの苗、僕のと一緒に植えてみない?」
と声を掛けているかのような男性に対して、
「本当にこれで実がなるのかしら?」
とでも言いたげに戸惑っているような女性。

ここで少し絵の解説を。
天上では空と天使で逆三角形を、地上ではオリーブで三角形を表しました。男性性の強調は、苗の大きさの違いと男性の目線と重なる山の稜線(男性の背景の山が女性側にまで伸びている)に置き換えています。
すっごく細かい設定ですが、女性が持つ苗の品種は少し葉が小さいけど実をたくさんつける「マンザニロ」。
男性のものはマンザニロと相性がよい「ルッカ」です。
「ルッカ」はマンザニロより少し葉が大きいけど実は小ぶり。
実は我が家にも植えてある二品種です。カワイイ

ところで、ウェイト版での女性の後ろの蛇が絡まるリンゴの木、男性後ろの生命の木は描いていません。
生命の豊穣を目指すこのタロットに、キリスト教における女性の原罪やカバラの原理がしっくりこない気がしたのです。

ゼウスとヘラの結婚の際に大地の女神ガイアが贈ったとされる不死のリンゴ。
ヒッポメネスがアタランテと結婚するため走りながら後ろに投げたリンゴ。
古代アテネで新郎新婦が初夜の寝室で分け合って食べたと言われるリンゴ。
パリスが「一番美しい女神に」とヴィーナスに手渡したために、トロイア戦争を引き起こすこととなったリンゴ…..

リンゴの木は、豊穣や結婚(あるいは不和の可能性)を表すものとして背景に描きました。

さてさて、情熱を表す赤色をした羽を持つキューピッドは、まっすぐ女性のハートに狙いを定めています(男性でなく女性に矢を向けるよう描いたのは、戸惑う女性に「気持ちを決める」よう促したいから)。
キューピッドは天を表す光に包まれていることから、天もこの出会いを後押ししているようです(苗も化学変化を起こしたように光が)。
ただし、「当たると恋に落ちる」と言われる矢が当たるかどうかはまだわかりません。
矢が当たり男性と一緒に苗を植えることになっても、果たして本当にオリーブの実がなるのでしょうか?

出会いやチャンスは訪れているものの、まだ未来は決まっていないのです。
「どんな未来を選ぶのか」私たち自身に選択権はありますが、このカードは「未来(と相手)の可能性を信じて、まずは一歩踏み出す」ことを後押ししています。
そして、この世界にはたくさんの素晴らしい出会いが用意されていることも表しています。

さて、キラキラした恋人たちの選択、次の「戦車」にどうつながっていくのでしょうか。

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