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喪失感新婚旅行 [21] 国立 再開と旅の終わり



国立に到着すると、まずとあるレストランに訪れた。夫の先輩が、旦那さんとこのお店を始めたとのことだった。
私はその先輩との面識は無かったけれど、どんな人なのかは夫から何度か聞いていた。
きっとサバサバしていて、人情味の溢れる人なんだろうと想像していた。

お店に入るなり、突然の再会に驚いていた。
火事のことを知っていてくれたので、複雑そうな表情を浮かべながら話を聞いてくれて、涙を流していた。
思えば、火事の当日に私は泣いたきり、泣かなかった。夫はこの件で一度も泣いているところを見たことがなかった。
この火事では、火元の人から軽く謝罪をされただけだったので、私たちの心はすっかり渇いて荒んでいたと思う。だから、泣いてくれる人がいて、ああ、こんなに悲しいことだったんだと気付かされることもあった。

美味しいパスタを食べて、お店を出る頃には笑顔で見送ってくれた。

次に訪れたのは、私たちのお客さんだった夫婦が営むコーヒー屋さん。
お店を訪れると、やはり驚かれた。
再開を喜ぶべきなのだが、火事のことを知ってくれているせいか、気を遣わせてしまった。
普通の再会ならば、私たちも飛び跳ねて喜びたいが、何せついこの前、家も店も全て燃えたからテンションが上げられない。
友人に会うにはコンディションが悪すぎる。
でも、無事ということを知らせたくて、私たちはここに来たのだ。
久々の再会だったので、色々な話をして、この店を後にした。

この日出会った人たちに、次に会う日には、良い報告がしたい。そう思った。

旅が本当に終わる。
国立から出発する頃には、日が暮れかけていて、冷たい風が吹き、落ち葉がアスファルトの上でカラカラと音を立てていた。
寒いせいか、どことなく急足の人たち。
旅の始まりは、まだ少し暖かい日もある秋だったけれど、とうとう冬になってしまった。
約1ヶ月間の旅、よく駆け抜けた。こんなことはなかなか出来ない、一生忘れない思い出になるだろう。
帰ったら洗濯物を回して、仕事を探して、お土産を配って…やることがいっぱいだ。
悲しんでいる場合ではない。そして、悲しくても後ろを振り向くな、一歩一歩、力強く進むのだ。前を向け。目は前にしかついていないのだから。

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