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小説のようなもの

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2019年3月の記事一覧

小説   『水面に向かって』

小説   『水面に向かって』

 大量の人間たちの緊迫した眼の光がその一点に注ぎ込まれた。と同時に、鈴の音のような得体の知れない音が周囲からさざめきたった。きっとそれは、この場にいる人間たちの突如いっせいにふくれあがった鼓動の反響にちがいない。JR環状線京橋駅と京阪京橋駅をむすぶ北口のひらけた空間が一瞬完全に固まった光景を、わたしは見た。人間たちはその鈴の音が止むと、スイッチを入れられたように絶叫をあげて逃げまどった。
 わたし

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