黄色い花
秋を感じられる涼しさに私はほっとした。
真夏の猛暑にマスクを着けての日々は、暑さのあまり私の脳ミソをぼやっとさせる。今年の夏はとても厳しかったと思う。
この陽気に冷感マスクで挑めば、仕事中もまだ少しは過ごしやすくなるだろう。
起きてすぐに冷房を付けることもなくなった朝、ふと外を見ると、大分大きくなったヘチマの茎があらゆる所にツルを巻き付けている。
黄色い花も、今日も綺麗に咲いていた。
このヘチマは、5月のゴールデンウィーク前に、休校中の娘の理科の宿題で植えた、種から育ったものだ。
種を植えた時、4週間がたっても発芽しなかったため、種は土の中で腐ってしまったのだろうと半ば投げやりになっていた。どうせ芽は出ないと諦めて、土ごと捨てようと思った朝、ニョキっと芽を出しているヘチマちゃんを確認したのだ。
息子と娘とで、奇跡の芽だ! と喜び、それはそれは大切に育てたのだ。
ヘチマちゃんの成長は早かった。
大雨が続く中、外に出していたヘチマちゃんの葉っぱには害虫が付き、そのまま花も咲かせずに枯らすことになるのかと諦めモードになったが、害虫をやっつけるスプレーで乗り切った。
同時期に種を植えていた娘のクラスメイト達とは大分遅れをとって、ある朝、やっと黄色い花を咲かせたのだ。
その花を見て、私達は喜び癒された。
種から育ち、大きくなり、花を咲かせる。
それは当たり前のことなのかもしれないけど、植物を育ててもすぐに枯らせてしまう私からすると、奇跡のようなものに感じられた。
ヘチマちゃんは、豪雨の中でも、台風の強い風にも耐えて、次々と綺麗な花を咲かせていた。その姿に私達は何度も励まされた。
来年は、ヘチマちゃんジュニアから種を取り、たくさん蒔いて、グリーンカーテンを作ることが私のささやかな夢の一つとなっていた。
花が咲けば、実ができると私は思っていた。
花は次々に咲いていく。
もう、かれこれ30個以上の黄色い花を見てきたが、一向に実をつける様子がみられない。
秋を感じるようになって、さらに私はヘチマちゃんに実がならないことに焦りを感じた。
私が小学生の頃、ヘチマを学校で育てた記憶を辿ってみる。
夏休みには、畑で沢山のヘチマが大きな実をぶら下げていた。
種から植えて、見る度どんどんと大きくなり、花が咲いた。そして、当たり前のように実をボコボコつけたのだ。
その時は、ヘチマを育てることは簡単な事だと思っていた。
今では、こんなにも難しいことなんだと思ってしまう。
実がなる仕組みをネットで調べてみた。
どうやら、ヘチマの花は一つの花におしべとめしべがあるのではなく、花単体で男の子、女の子と別れているらしいのだ。花には雄花と雌花があって、雌花が咲いたら雄花の花粉を人工的に雌花に付けてあげると良いらしい。
雌花の画像を見て、私は驚いた。
うちのヘチマちゃんは、今まで雄花しか咲かせていないのだ。
今までの沢山咲かせてくれた可愛い黄色い花は、全て雄花の男の子だった事実を知った。
なんということだ・・・。
この子は、ヘチマちゃんではなく、ヘチマ君だったのだ。
男子校でカノジョを作ろうとして、学校の中に女の子が一人もいない! といったイメージが私の頭に浮かんだ。
それは大変だ。
女の子がいないなんて、寂しすぎる。
ということは、もう一本女の子のヘチマちゃんを植えなければならなかったのかと、ネットで調べてみると、1本の個体から雄花も雌花も咲くようだったので、少しホッとした。
でも、このヘチマちゃん(改名 ヘチマ君)は、雄花しか咲かせない。この調子では、シーズンオフになり、実が成らないことになる。
という事は、私のささやかな夢、来年はヘチマ君のヘチマジュニアたちでグリーンカーテンにしたいというものは、夢のまま終わることになる・・・。
私はしばらく制止してしまった。
ヘチマ君の根元の部分は、なんだか元気が無くなってきたようにも思える。
肥料をあげればなんとかなるとか、そんな問題ではなさそうだ。そろそろ、シーズンオフになりそうな予感がした・・・。
しばらく制止してから、私はヘチマ君の咲かせた黄色い花を見上げた。
とても可愛くて綺麗だ。
なかなか発芽しなかったヘチマ君が、今シーズンいくつもの可愛い花を咲かせて、私達家族を癒してくれたのだ。
それだけで充分じゃないかと思った。
ありがとう、ヘチマ君。
私は、ヘチマ君にやさしく水をあげた。
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