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読書ログ『バッタを倒しにアフリカへ』

読むのにかかった日数:2日
ポップな表紙からも想像できますがとっても読みやすくて、新書サイズなのですぐ読み終わります。蝗害対策の状況報告というより、アフリカ現地での研究記録みたいな内容です。


ある時、『蝗害』というワードを知りました。
最近発生した大きな蝗害は2020-2021年頃、ちょうどコロナウイルスで世界が混乱に陥っていた最中にアフリカで大規模に発生したものがありますので、私がこの単語を知ったのもおそらくその時期だったかと思います。
農作物が次々に食い荒らされて大きな被害があるとのことで、その被害の原因は大量に発生したバッタ(サバクトビバッタ)!
最初に聞いた時、「ここまで文明が発展した現代でそんな問題が解決できていないことある?」という感想を抱いたのを記憶しています。これだけ生物の絶滅が騒がれている昨今で、そんなバッタが人物に影響を与えるくらい大量繁殖するなんて…と。
しかし蝗害は、古くは聖書にも登場し『神の罰』と呼ばれ恐れられているということを知りました。日本では蝗害を感じる機会が少ないだけに驚き。
そんな蝗害について、果たして今どのような研究がされているのか?被害状況はどれほどのものなのか?今後人類が勝てる算段はあるのか?などが気になって、こちらの本を手に取りました。

そんな感じで手に取ったのですが、内容は割と期待と異なるものでした。
本の内容の印象として大きく残ったのは日本における研究者の苦悩。
この筆者はアフリカのモーリタニアという国で研究を行っていたのですが、現地で研究をするためには莫大なお金が必要です。
旅費もいるし、現地での生活費もいるし、通訳や運転手の調達も必要だし、研究のために必要な器具なんかも揃えなくてはいけない。
そのために研究費の調達が必要になるのですが、成果もない内は大きな機関や政府が無条件に支援してくれるわけでもありません。

考えてみれば当たり前の話ですが、世の中で「これは確実に役に立つ」と分かっていながら実施される実験や研究はごくわずかです。
日本で多くのノーベル賞物理学者を輩出している素粒子物理学分野のニュートリノでさえまだ何の役に立つのかわからない、でももしかしたら将来的に役に立つかもしれない、という理由で莫大な費用をかけて研究が進められています。
筆者の場合は対象がバッタですが、この研究が将来に役立つかどうかわからないうちからお金をどこかに出してもらうことは、確かに難しいのかもしれません。
筆者は講演会や書籍のサイン会を重ね、最終的には京大のプロジェクトに採用されることで資金調達を成功させるのですが、それに至るまでの道のりも痛快で綱渡りの連続でした。

そんなお金もない、海外では研究環境も不十分、政府からの理解も得られにくい中でも、努力し続けられる一握りの人の熱意で世の中に数多ある研究は進められているんだなと強く感じました。
研究者の道のりがここまで過酷だとは…ポスドクになると就職率が下がるという話を聞いたことがありますが、この状況を聞くと頷けます。
タイパやコスパとは真逆の世界観ですね。


最初に知りたかった蝗害のメカニズムについてももちろん記載してありました。
バッタには『群生相』『孤独相』という2つのモードがあり、蝗害を引き起こすのは『群生相』という群をなし凶暴化したバッタたち。
このモードの変化は周囲に存在するバッタの量によるものだそうです。
日本に多く生息するトノサマバッタなども群生相になる可能性はあり、日本で蝗害が発生していないのはそれを引き起こすバッタがいないから、というわけでもないようでした。
もし大量にトノサマバッタが発生する事態になってしまったら、日本でも発生する可能性があるのかもしれません(そこまではさすがに書かれてませんでしたが)。
蝗害の発生は群生相になる前の時点で群れを叩くのが有効という見解が出る一方で、そのようなバッタの発生を正確に予測する研究結果はまだ出ていないようです。

そして予測が正確に出ていないということは確実に対策をすることが難しいということなのですが、ここでも現地アフリカの金銭事情が絡んでくるのが何とも世知辛いなと感じました。
蝗害の発生抑止のために群れを叩こうとすると、通常予定している研究費の100倍以上の費用がかかります。
「確実にここでバッタが発生する」という予想が立てられればいいですが、「もしかしたら発生するかも」程度の精度で費用を調達するのは至難の業。
もし費用を調達してもバッタが発生しなければ、再度予算を確保することは難しくなってきます。
世界には無数の問題が今も起きていますが、人類の叡智が及ばないのではなく費用の問題で諦められている課題が数多く存在するんだなと知りました。


今回はバッタ研究者の話でしたが、いろいろな本を手に取ると今の自分が手に届く範囲では想像もできなかったところに課題感が存在しているんだと分かります。
蝗害も解決の糸口が見つかっていないのは、バッタの生態の理解が困難であること以上にそれを真剣に解決しようとする研究者が少ないこと、費用面での理解を周囲から得ることが難しいことにあるのだと認識しました。
このような不確かなものに対して時間や費用を出せることが豊かさなのかなと考えた一冊でした。


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