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【映画感想】その名前を取り戻すまで『市子』(2023・日本)

『アンメット』が終わってしまうのが寂しくて、杉咲花さんと若葉竜也さんの過去の共演作『市子』をアマプラで観た。

簡単に感想を書くことができない。何を書こう、と悩んでしまう。でも、書いておきたい。そんな気持ちだ。

この先、ネタバレしたくない方はご注意を。

3年間共に暮らした恋人・長谷川(若葉竜也)からプロポーズされた次の日、市子(杉咲花)は突然姿を消す。

好き度:★★★★☆

杉咲花さんのことを私は今まで全然知らなかったのだが、かなり好きになった。まず、本作では目に光がない。重く、悲しい人生を背負って生きる市子そのものだった。

あることをきっかけに目の前にいる人の正体について疑いはじめる。一人の人をいろんな人の視点から、いろんな時代で見ると全くの別人のようになってくる、そんなストーリーの組み立て方はよくあるし好きだ。一見バラバラのように見える証言から浮かび上がる市子が抱えるものはあまりにも悲しかった。

市子にとって、長谷川と過ごした日々はほんの束の間の夢みたいな時間だったのだろうと、観終わってからもふと思い出す。その名前を取り戻し、自分として生きていくことに必死だった彼女の心がほんの少し解けた時間を思うと胸がギュッとなる。

プロポーズをされて泣いた理由や、婚姻届を見て一瞬悲しそうな表情をした理由は最後にわかる。うれしかったからだけではなく、婚姻届で届け出る戸籍がないから。その理由に気づいたとき、ハッとした。誰も悪くないけれど、2回目に見るそのシーンは残酷だった。

アンメット以降、もし杉咲花さんと若葉竜也さんがまた共演することがあったら、ぜひ最初から最後までずっと幸せなふたりでいてほしい。そんなふたりが見たい。

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