風和らぐnote

写真展「風和らぐ」被写体インタビュー①塩谷歩波さん(イラストレーター/小杉湯の番頭 )

展示予定の写真をちょっとだけ公開します。

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塩谷歩波さん
イラストレーター/小杉湯番頭 。 早稲田大学大学院(建築専攻)を修了後、有名設計事務所に勤めるも、体調を崩す。休職中に通い始めた銭湯に救われ、銭湯のイラスト「銭湯図解」をSNS上で発表。これが評判を呼び、小杉湯に声をかけられ番頭として働くようになる。
現在、雑誌『旅の手帖』で「百年銭湯」を連載中。2019年2月に書籍「銭湯図解」を中央公論新社より刊行。
NHKドキュメンタリー「人生デザイン U-29」、「情熱大陸」など数多くのメディアに取り上げられている。
私が塩谷さんを撮りたかった理由。
アートって心震わせるもので独立性が高い印象だけど、その背景には作家が生きている時代をちゃんと映しているし、歴史の一部だと私は思ってます。
これだけSNSが普及して今まで以上にたくさんの人が自分の作品を世の中に放てるのはチャンスでもありますが、消費され埋もれてしまうデメリットもある気がしています。そんな中で「好きなこと」「自分のやりたいこと」と、自分の生きる世界や人たちと繋がる(社会性を持つ)ことのバランスが重要だと思っています。今のこの世界に寄り添って作品を生み出す人は新しい作家像の一つになるはずだし、そんな一人が塩谷さんだと私は確信していています。「絵を描くこと」=好きなこと「銭湯の良さを広める」=社会性のバランスが絶妙というかバッチリはまって、たくさんの人に支持されているんだろうなと思いました。
「好きなことをして生きていきたい。」は今の若い女の子の願望なのかもしれないし、素敵なことだと思うけど、自分の今過ごしている環境や生活に寄り添えるものかどうかも、「好きなこと」を続けていく要素の一つだと塩谷さんの活動を通して知ってもらいたいです。

「銭湯の魅力を伝える「銭湯図解」は、芸術性と社会性のちょうど良いバランスを見つけたなと思っています。」


三浦:新しい「令和」という時代を生きていく中で、人それぞれ使命があると思っています。私だったら、女の子の生き方を「写真」という形で世の中に伝えていくこと。世の中に伝える手段として、2020年1月に写真展を開催します。塩谷さんは、銭湯の良さを「イラスト」という形で世の中に伝えていくことがひとつの使命。塩谷さんの銭湯図解を初めて見たときに、伝え方やその視点も新しいなと驚きました。

塩谷:元々絵を描くのは好きだったんですけど、自分の中で腑に落ちない点があって建築の道へと進みました。当時、自分の絵に自信がなかったんです。絵を描くことは好きだけど、自分が好きなように絵を描くのは違うなあ、となんとなく思っていて。逆に、建築はクライアントのために作る芸術作品。建築の仕事は、社会性は得られるけれど自分が描きたい絵が描けない。芸術性と社会性のバランスに悩んでいたときに見つけたのが、大好きな銭湯の魅力を図解する「銭湯図解」でした。銭湯図解は、自分がやりたいことをやっている結果、社会性を得ることができているので、芸術性と社会性のちょうど良いバランスを見つけたなと思っています。

三浦:私自身、フリーで働き始めてちょっと無理して体調を崩してしまうことがあります。クリエイターやアーティストは、好きなことを仕事にしているとはいえ1人でやってるいるからこそのプレッシャーもあると思うんです。好きなことをやっていても、辛くなっちゃったり。塩谷さんは、制作している時に辛いなと感じることはありますか?

塩谷:私は、制作モードに入ると全く人と話せなくなっちゃうんです。1人でずっと制作している時は、誰かに突然話しかけられるとペースを乱されて辛くなります。それに、水彩画って難しくて、水の乾き具合で色合いが変わってしまうんです。外部との接触のない状態で描くのが良いんですよね。
だから、スイッチのオンオフが大事なのかなと思っています。それこそ、お風呂に入ると切り替えがうまくいくんですよ。朝から晩まで制作をした後に、お風呂に入って銭湯の常連のおばちゃんと話すと、リセットできてよく寝れます。

三浦:塩谷さんは、本当に良いバランスを見つけられたんですね。きっかけになった銭湯との出会いは、必然的だったと思いますか?

塩谷:銭湯に出会ったのは本当に偶然ですね。銭湯の絵は、友達とTwitterで交換日記をやっていた時に気まぐれで描いたものなんですよ。わざわざTwitterに載せなくてもよかったんですけど、なんとなく載せちゃって。その気まぐれが、ここまで大きくなっています。

三浦:元々絵を描いていらっしゃったから、うまく繋がっているんですね。今の若い人たちって、”好きな事をやりたい!”って考える人が多くなってきているなと感じています。一方で、SNSを通していろいろな選択肢を知ることができる時代だからこそ、選択肢が増え過ぎて、自分の好きなものを見つけるのは意外と難しくなってきているのかな?と。塩谷さんが、やりたいことを見つけたきっかけをお教えてください。

塩谷:私は、他人任せですね。絵も建築学部に入るために書いていて。絵を描くことが特技というよりは、たまたま自分が描けるから描いているんだと思っていました。
でも転職するタイミングで、友達に「塩谷は、絵が上手だし好きだから、そういうことが大事なんじゃないの。」って言われました。そこで、絵が自分にとって大事なんだと気づかされました。私、自分のことを客観視できていないんですよ。銭湯も、友達に教えてもらったので。人から教えてもらったり、与えてもらったものが多いですね。

「絵を描きつつ、ずっと社会につながっていたいですね。」

三浦:塩谷さんの水彩画は、見ている人が惹きつけられる絶妙な色使いだと思っています。私も写真を撮る時に、見る人に色をどう見てもらうかをすごく気にしているんですが、塩谷さんは、水彩画で表現するときに何か気を付けていることはありますか?

塩谷:以前は、銭湯の色をそのまま伝えることを大事にしていました。でも、それだとただ見たものを書いているだけだなって気付いたんです。作家として、成長がないんですよね。

今は高円寺の高架下の絵を描いているんですけど、高架下みたいな長年ずっと使われていたものって汚いじゃないですか。でもそこが私は好きで、さらにその魅力を活かせるように鮮やかに見せたいと思っています。水彩画って、色が濁りやすいんですよ。だから、2色だけ混ぜるようにこだわっています。

今回の高架下の絵を描くことで、成長したいと思っています。自分の好きな汚いものをどう鮮やかに美しく見せるか、そこが大事なポイントだと思っています。綺麗さ、鮮やかさを色の部分で伝えたいですね。

三浦:高架下の絵は、塩谷さんがみている世界をそのまま描かれているんですね。これからは銭湯図鑑も、そういった色合いになっていくんですか。

塩谷:銭湯図解も、前とは色合いを変えていくつもりでいます。
銭湯図解を書き始めた時も、本を作っている時も、自分の絵があまり好きじゃなかったんです。本になっても、自信が持てなくて。銭湯図解を出した時に、自分の絵をアマチュアだと言っていました。でも、それは自分の絵ときちんと向き合えていなかったからだなあって。
そんな反省もあって、銭湯図解を描いていた頃から紙もペンも筆も一新しました。

三浦:塩谷さんが、「自分のことをアマチュアだと思っていた」というのがすごく意外でした。銭湯図解を描いている時に、実際に浴槽の深さを計測している様子を拝見して、「図解を描くために、そこまでするんだ!」とすごく驚きました。

塩谷:今までイラストレーターになろうと生きてたわけじゃなくて、気づいたら絵を描く人になってたので、自分がプロのイラストレーターとしての覚悟が持てないままだったんですよね。特に、情熱大陸に出てから、自分の中の評価と周りからの評価のギャップに苦しみましたね。情熱大陸に出ている人って、すごいじゃないですか。

浴槽を測ったりすることは、建築学生なら誰でもできること。それに加えて、私はちょっと人より絵が上手いから、銭湯図解を描いてるだけだと思っていました。それは自分の絵に自信がないことを言い訳にして、いろんなことからずっと逃げていたのかなあ。

三浦:私もそうですけど、塩谷さんのことを「すごい作品を描く人だ」って見ている方が多いですよね。図面書くことは誰でもできるっておっしゃってましたけど、それを作品にしていくのは、新しいと思います。

塩谷:今私がやっているのは、帳尻合わせの作業です。乗り越えていけたら良いなあと思っています。


三浦:今は高円寺の街並みの絵を描いているけれど、これからもきっと、塩谷さんは銭湯だけではなくて色々な絵を描いていくことになると思います。それは銭湯図解の延長っていうよりは、ステップアップなのかなと今回お話を聞いていて思いました。

塩谷:今やりたいのは、身近な絵を描くことですかね。いずれは瀬戸内芸術祭とかに出てみたいです。1つの街をアートにすることで、見え方が変わって新しい魅力に気づく、そういうのは私の得意分野だと思うんです。絵を描きつつ、ずっと社会につながっていたいですね。でも、それを目標にはしないです。結果的に、社会につながっていられると良いなあと思っています。

「銭湯が好きだから、広めていきたいです。」

三浦:話が急に変わるんですけど、私、温泉街出身なんです。物心ついた頃から、両親と温泉に行って地元の人と交流をしていました。上京した時に、すっごいホームシックになっちゃって、銭湯に行ったんです。銭湯にいる人たちは赤の他人だけれど、同じお風呂に入って体を温めることで、すごく心が楽になりました。そこから、私はさみしい時に銭湯によく行くようになったんですよね。
でも、今の若い人ってあんまり銭湯に行かない。塩谷さんは、若い人が銭湯にもっと来たら良いのにと思うことはありますか?

塩谷:私は、銭湯がお風呂としての役割を担っていることしか知られていないんじゃないかと思っているんです。小杉湯に来るお客さんは、家にお風呂がないんじゃなくて、二次会として利用したり、ご飯を食べに行く前に浸かりに来るだとか、「お風呂」以外の違った目的で来る人が多いんですよ。「銭湯って、広いし良いよ!」っていうより、「日々を豊かにするのに銭湯はちょうど良い場所だよ」って伝えていくのが私の役目だと感じています。

私もお風呂のために銭湯に行く感覚はなくて、これから飲みに行くからリセットするためにお風呂に浸かるとか。息継ぎをする感覚で、銭湯を使っています。
女性の方々におすすめなのは、お風呂で恋バナをすることですかね。
ぬるいお風呂に浸かりながら、裸だし、素で話せます。居酒屋だと、結局酔っ払って終わっちゃうじゃないですか。あとは、大きな湯船につかった後にパックをすると、お肌がツルツルになります。デートの前日におすすめですね!

三浦:私も気合いを入れるために、銭湯に行くことがあります。そういえば、たまにスパに行くと、若い女の子たちが恋バナとかバイトの愚痴を話しているのを見かけます。スパはちょっと値段が高いけど、スパに比べると銭湯は気軽でちょうど良い値段ですよね。
銭湯に、友達と来ていいですしね。そういう文化が浸透していくと良いなあと思います。

塩谷:私も銭湯自体の周知のために、頑張っていかなきゃなあと思ってます。銭湯が好きだから、広めていきたいです。

▼12/16(月)12/17(火)渋谷で被写体の方たちを交えてのトークショーを開催決定!

記事執筆:松沢奈実(blowout)
編集:せらなつこ
ヘッダー制作:カナメ@世界観デザイナー
Webページ制作:ハルカナ

このインタビューは #三浦えりのアトリエ コミュニティーメンバーのご協力で制作しています。

born of Extroom



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