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いつかすべてのマリコたちー益田ミリ『マリコ、うまくいくよ』

会社の人に「満島さんこれ好きだと思う」と勧められて、読んで、しんどくて途中で本を閉じた。
オイオイオイ、勘弁してくれ、益田ミリ。
こんな、家で焼くホットケーキみたいな素朴な絵柄で、どうしてこんな劇物を調理できるんだ。1話6Pで致死量だよ。それが31編も入ってるんだよ。
本当勘弁してくれ。

同じ会社で働く、入社2年目、12年目、20年目の3人のマリコ。
3人の視点から順々に、会社での日常が描かれる。
大きなトラブルが起こるでもなく、マリコたちは基本的には平穏に働いているのだけれど、もちろん日々、何かを思い何かを感じながら働いている。

「若い人」だけが誘われる飲み会。自分はいつまで呼ばれるんだろう、と、呼ばれない先輩マリコを見て思う、12年目のマリコ。

「おばさん」な先輩を見て、あんなふうになりたくないと思うその一方で、自分だっていつかは「うっとうしいおばさん」になると感じている、2年目のマリコ。

42歳で結婚していなくて、だからといってバリキャリで出世するわけでもなく、ある程度先が見えてしまっている自分が、周りからどう見られているんだろうと思う、20年目のマリコ。

2年目のマリコが12年目のマリコに仕事の進捗を訊かれて(明日まででいいって言ってたのに)と思い、12年目のマリコは(なるべく早くって言ったんだから必死にやってよ)と思い、さらにそれを見ている20年目のマリコは(30代って妙に肩ひじ張って下の子に強気なんだよな)と思う。

別に、誰も口に出さないし、波風が立つわけでもない。でも、みんなが思っている。思われている。ほんのささいなことで、毎日毎日。
思って、その後気づく。自分がかつて2年目のマリコだったこと。いつか20年目のマリコになること。
どの世代にいても逃げられない。「確かに、わかる」ということが、そのまま「自分もこう思われたかも」に結びつく。全方位に向けて容赦なく攻撃してくる。
だからこんな物騒なもん描くなって!

本を閉じる。中断。

再開。

仕事のできる独身の桑原さんが、女性初の営業部長に就任することになった。
男性社員が「すごいよね」と言うのに続けて「仕事と結婚してるって感じ」「自分は家族がいるから頑張れるけど」と言うのを見て、足を引っ張るようなことを言わなきゃ褒められないのか、とモヤモヤするマリコ。「おじさん部長」という言葉はないのに、なんで「おばさん部長」と言われるのか、と思うマリコ。でも、そういう会話を笑って流すことしかできない自分を不甲斐なく思う、マリコ。
後で思い出しては苛立ちがどんどん募るけど、でもどうにもできない、マリコたち。

普段の生活の中で、年配の女性を揶揄する会話や、年齢をネタにした自虐に、自ら乗っかっていってしまうことがある。へらへら笑いながら、本当は笑いたくないって思ってるけど、でも、ほかに「それ」をうまくいなす方法を知らない。最適解が、まだ発見されていない。
だからとにかく今この瞬間を乗り切るために、私たちは気づくと自分より上の世代や、下の世代を攻撃してしまう。でもそれは結局、自分自身を傷つけているのと同じだ。だって、何才だろうが、どの世代だろうが、私たちは「女」というレールからは外れられないからだ。2年目のマリコも、12年目のマリコも、20年目のマリコも、全部いつかの自分でしかない。過去か、未来かの違いだけで。

若さや初々しさや、可能性や、若さゆえの容姿を褒められたとき、私はいつだって空恐ろしい気持ちになった。
だって、生きている限り、若さは目減りする一方なのだ。
それは、「これからあなたの価値はどんどんなくなる」と言われているのと同じじゃないか?

「逃げ恥」で、アラフィフの恋愛を揶揄された百合ちゃんが言っていた。

「いま、あなたが価値がないと切り捨てたものは、この先あなたが向かっていく未来でもあるのよ」
「自分が馬鹿にしていたものに自分がなる――。それって辛いんじゃないかな?」
「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまいなさい」

おお、凛々しく気高い百合ちゃん!
百合ちゃんのようにきっぱりと言い放てたらいいけれど、でも、口で言うほど、「呪い」から逃れるのは簡単ではない。処世術として自ら「呪い」を使わなきゃならない時がある。それが自傷行為だって気づいて後悔することがある。絶対に、ある。
現実はパンケーキのように甘くやわらかいだけではない。ちょっとした毒と、嘘と、しんどさなしには渡っていけない。この本みたいに。

だけど、「いつかのマリコ」が自分自身だってことに気づくことができたら、すべてのマリコは私たちの味方だ。
それってなんだか、何かを変えられそうな気がする。

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ハッピーになります。