見出し画像

プリンは固めかやわらかめか

卵、砂糖、牛乳とシンプルな材料で作るプリンは、仕上がりの好みの幅が最も大きい洋菓子だと思う。固めだったり、やわらかめだったり、トロっとクリーミーだったりと人によって好みが異なる。プッチンプリンしか食べないという友人もいる。誰にでも愛されるお菓子だと思っていたら、大人になって「プリンは無理」という人にも複数会った。やはり奥が深い。
 
昭和の時代、母が作る手作りのプリンには、蒸した時の上面に必ず固めの層があり、全体に固めで中には「す」が入っていた。それこそプリンだと思っていたし、何よりおいしかったので、疑問など一切持っていなかった。どこの手作りもそんな感じだったと思う。プリンは一般家庭にある材料で、特別な技能を必要とせずに作ることができるため、母はごくたまに作っては子どもを歓喜させていた。家庭のプリンは、プリンの素で作るインスタントと比べると格段においしかったことはよく覚えている。
 
私が幼い頃、近所にまみちゃんという女の子が住んでいた。私より3つくらい年上のちょっとした野生児で、遊びがワイルドで楽しく、頻繁に遊んでいた。昭和の時代には、不法投棄が盛んな空き地や草むらなど、人の手が入らない土地がそこここにあり、そんなところにも躊躇せずに突進していくのがまみちゃんだった。コールタールまみれになったこともあったと母が言っていた。私もそこそこのおてんばだったが、彼女はそのずっと上をいっていた。

あるとき、私の母がおやつにプリンを作ったと聞いて大喜びしたまみちゃんは、プリンが冷めるまで我慢しきれず、熱くてもなんでもいいから今すぐ食べたいと主張する。母は冷凍庫で急冷を試みたものの、彼女の押しの強さに負けてプリンを提供する。大きなひと口をほおばるまみちゃんは、熱々のプリンに驚き、一気に飲み込んで大泣きしたそうだ。
 
その後、彼女はお母さんの故郷の沖縄に引っ越してしまった。彼女が高校生の時まで文通していて、卒業後に東京のとんかつ屋に就職したと聞いた。うちによく遊びに来たらしいのだが、彼女はいつも私が家にいないときに来るので、ほとんど会えたためしがない。今はどうしているのだろうか。東京にはもういないような気がしている。
 

プリンに話を戻すと、近ごろは固めかやわらかめかがよく話題に上っている。昭和の喫茶店で出てきたようなプリンが流行りのようだ。作り手としては、プリンづくりにおける選択は固さだけではない。

卵は全卵だけか、それに卵黄も加えるのか。生クリームは入れるのか。生地に入れるのか盛るのか、その両方か。生地に入れるとしたらどれくらいの割合か。バニラはどうするのか。エッセンスかオイルかエクストラクトかペーストか、それとも生のバニラビーンズか。最後の選択肢はプリンの風味と材料費に一番大きく影響するところである。

生地ができたら温かいうちに火を入れる。鍋で蒸すかオーブンで蒸し焼きにするか。どちらも火加減がとても難しい。プリンは低温で火入れをしないと「す」が入ってなめらかさが失われるので、オーブンで焼くときは大きさによって1時間前後かかる。一方、鍋で蒸すと150mlの容器で弱火で10分、そのまま10分蒸らせば出来上がる。茶碗蒸しを作る人ならその要領がわかるはずだ。カロリーは確実に摂取することになるが、ガス代ならここで節約できる。

私は長らく、やわらかめのプリンを大きく作ってきた。おいしいうちに消費することを考えると15㎝丸形で作るのが妥当との結論に至る。やわらかめなので生クリームが入る。牛乳と合わせたとき、16%入るようにする。バニラはさやから取り出したものを使うこのプリンは、舌の上にのせるとほろっと崩れ、絹ごし豆腐のような柔らかさとなめらかさを持つ。固めともトロトロ系とも違う、あえていうならフルフル系か。一度、このプリンを型に入れたまま歩いて10分ほど持ち歩いたところ、無数の細かい割れ目が入り、見事に崩壊していた。それ以来、家で作り家で消費すべきプリンとなる。
 
夫も息子もこのプリンが好物で、定期的に「プリンが食べたい」という。子どもはプリンが好きだという思い込みを打ち砕いたのが娘だ。プリンはあまり好きではないという。カスタードは好きだがプリンはそうでもない…苦いカラメルとカスタードの組み合わせにどうにも納得いかないらしい。固さの問題ではなく、そもそもの組み合わせの問題になってしまった。

私個人の好みでいえば、プリンはやわらかめである。プリンをプリンらしい一般的な小さめの型で作るときは、牛乳を減らして、なんとなく固めに作っている。正直、固いなと思う。そんなときはプリンパフェなどに加工して、固くする必要があった理由をこじつけてみたりする。長年作り続けた大きくてふわっとやわらかなプリンが安心するのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?