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肝試しするみたいに生きてゆく私たちにはお守りが必要

恐る恐る扉を開けて、どこまで続いているのか分からない長い長い廊下に目を細める。
懐中電灯で照らしてみても、見えるのはせいぜい足元の少し先くらいで。
だめだ怖いから入り口まで戻ろう…と後ろを振り返ると、さっきまでそこにあったはずの扉が見えなくなっている。

「こんな暗い道、私どうやって歩いてきたんだろう」

ため息を吐きつつ、もう一度前を向く。
こんなにおどろおどろしい道でも、先に進むほかない。

肝試しって日常みたいだ。

私は超がつくほどの怖がりなので、暗がりをスタスタ歩くことなど出来るはずもない。
右足を一歩。大丈夫、穴は無さそう。
左足を一歩。うん、こっちにも穴は無さそう。
この辺で一度後ろを確認しておこう。
意を決して、バッ!!!ふぅ大丈夫、何もいなそう。
こんな風に日常(おばけの館)を歩き進めています。

用心深く歩いているだけでは心許ないので、私は有形無形のお守りを持ち歩くようになりました。
はじめは、「怖かったけれど、ここまではちゃんとに歩いてこられた」という記憶のお守りだけを、両の手に握りしめていました。
これだけでもなんだか随分と、大丈夫に近づいた気がしました。

しばらくおっかなびっくり歩く内に、向こう側から同じような光が近づいてくる。
もしや人魂!?と怯えて下を向いていると、「よかった〜私以外にも人がいたんですね」と声がして、顔を上げれば同じように怯えながら歩いてきた人が、私を見つめていました。

「私は向こうに進むのですが、良かったらこのお守りを持っていってください」。
その人が手渡してくれたのは、カラフルなハンカチ。
「お返しに私の記憶の端っこをどうぞ。きっとあなたも大丈夫」

私はこのハンカチのおかげで汗や涙を拭うことができたし、おまけに暗がりにカラフルを見ていつかの花畑を思い出しました。
それでその日の記憶がまた、お守りに加わりました。

少しずつ少しずつ、私を幽霊やモンスターから守ってくれるお守りは増えてゆきます。
鞄に、帽子に、ワンピースに髪飾りに。
あちらこちらにぶら下がるようになりました。

この頃には大分暗がりに目が慣れて、おばけの館が想像以上に広い場所である事を理解していました。
たまに、半袖半ズボンの身軽な誰かに「そんなにお守りをぶら下げて、何と戦うつもり?笑」などと笑われることがあります。
その人は大概、私をすい〜っと追い抜いてゆくのでした。
良いのです。
「せいぜい呪われないようにお気をつけあれ〜」とでも言ってやりましょう。


私たちは、それぞれにお守りを探しながら歩きます。
暗がりに生きる同士と出会い、たまに安心して、それでまた緊張して。
懐中電灯で行く道を一生懸命に照らしながら。
たまに飛び出てくるアクシデントのおばけからダッシュで逃げたり、入った事のない部屋に意外と居座っていられる自分に驚いたりしながら、一歩一歩歩きます。


もし、どこかで出逢ったら。
おーいと言って顔をライトで照らしてやってください。
どうせ私は、「今度こそ人魂!?」と怯えていますから。
その時は、良かったら、お守りを交換こしましょう。

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