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夜風

「散歩行く?」
日付を越えた頃、恋人に声をかけられ少し歩いてきた。
サンダルを履き、パジャマのまま、携帯だけを持って近くの歩道橋まで。

風が気持ち良い。
どこかから誰かと誰かの話す声がする。

深呼吸をすると、夜色がたくさんわたしの体の中に流れ込んできた。

夜に吹く風は特別だ。
朝昼夕とは違うと誰かが気づいた時、忘れないよう夜にだけ夜風と名付けたのだ。
夜風は甘く、静かで穏やかだ。
髪の間で歌い踊り、去ってゆく。

歩道橋のてっぺんについた。
恋人はパジャマ姿のわたしをパシャリと撮った。
大嫌いだった電車が誰かを乗せて走って行く。
カレーのにんじんと同じ色の月が、
ぼんやり遠くに浮かんでいた。

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