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ヴァージル・アブローと「太陽の夢」

私は、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)を知らなかった。
数ヶ月前に、ルイ・ヴィトンのメンズコレクション(2022年秋冬)のショーを見るまでは。


ファッションやブランドに詳しくない私は、そもそもこういったショーの映像を見ることがほぼない。
そんな私でも「ん?これがファッションショーなの?」と思わざるを得ないイントロダクション。そして、そのまま約20分続いたショーという"作品"は、私に瞬きすることを許してくれなかった。

白い長テーブルに沿って並べられた椅子に座るオーケストラのドラマチックな演奏。
赤い屋根の上の煙突、大きなベッドとスタンドランプ、階段の下に光るひとつの扉。
頭のてっぺんから足の先まで、様々なフォルム・質感・色彩を纏ったモデルたちが、会場内を自由に歩き、踊り、寝転がり、飛び回り、跳ね上がる。
気づけばエンディング。
私の目には、涙が溢れていた。


2021年11月、ヴァージルは41歳の若さで他界してしまった。
2018年に黒人として初めてルイ・ヴィトンのメンズウェアのクリエイティブディレクターに就任し、このショーは彼が最後にディレクションを手がけたものらしい。
そして、どうやら彼は、世界的にとても有名なデザイナーで、ルイ・ヴィトン以外にも数多くの作品を手がけているらしい。

こんなとてつもなく浅はかな知識だけを頼りに、『ヴァージル・アブローは何をデザインしていたのか?』という、石原海さん、渡邉康太郎さん、平岩壮悟さんのトークイベントに参加した。
ヴァージルの対話集『ダイアローグ』の刊行記念イベントとのことで、多くの方が本書を片手に参加していた。(手ぶらですみません)

ヴァージル・アブロー『ダイアローグ』


ヴァージルと一緒に仕事をしていた石原さんのリアルな体験談や、彼女自身のフィロソフィー。
康太郎さんのコンテクストデザイン視点から見た、ヴァージルの手法や信念の探求。(ちなみに「この場で一番ヴァージルを知らないかも」とおっしゃっていた康太郎さんの言葉に、こっそり胸をなでおろす私…)
平岩さんが画面で共有してくれるヴァージルの作品の数々と、それにまつわるエピソード。(正直これがなかったら話についていけなかったかも…)

マルセル・デュシャンを自身の弁護士だと言い続けたヴァージルの深層心理をみんなで考えてみたり、会場でしか聞けない裏話があったりなど、内容盛りだくさんで、あっという間に時間が過ぎていった。

特に印象的だったのは、康太郎さんの「ヴァージルは、人の知性を信じていた」という言葉。
まるで呼吸をするように周囲の人たちを巻き込んでコールアンドレスポンスをし続けていたことや、自身のノウハウ(ブランドの立ち上げ方、とか)を「FREE GAME」というサイトで公開していることなど、作品の裏側にあるヴァージルの本質・根源的な部分を、スパッと美しい言葉で表現されていて、ひとり静かに感動していた。

予定より時間が押していて、最後までいられなかったのが残念だったけど、トークテーマの『ヴァージル・アブローは何をデザインしていたのか?』の問いの答えは出たのかなぁ。

ちなみに、私なりの答えは「流れ(=Flow)」。
ヴァージルは、周囲の人たちや、自ら抱え続けた葛藤、そしてその結果生まれた自身の作品を通して、今までになかった唯一無二の「流れ」をデザインした人なんだ、そう思った。



その足で、青山ブックセンターからイメージフォーラムへ向かう。(超ダッシュ)
フランスの映画監督、パトリック・ボカノウスキー(Patrick Bokanowski)の映画『太陽の夢(Un Rêve Solaire)』(2016年)を鑑賞。
音楽はパトリックの妻、ミシェール・ボカノウスキー(Michele Bokanowski)が担当。

太陽の夢(Un Rêve Solaire)


台詞はほとんどなく、ただひたすらに映像と映像が緻密に混ざりあいながら、溶けていく。
馬が駆けまわり、子供たちが駆けていく。
雷雨みたいな光。埃みたいな光。インクみたいな光。
細胞みたいな光。花火みたいな光。そして、太陽の、光。
異世界から異世界へ、ワープを繰り返しているような、言葉にしきれない美しさ。
今までにない未知の悦びの体験が、そこにあった。

その夜、「フィス・ド・ポム(Fils de Pomme)」というシードルを飲んだ。
無農薬の洋梨をブレンドした、甘さ控えめのにごった炭酸の液体が、まだ整理されてない思考と残像と一緒に、私の喉にすーっと染み込んでいった。

Fils de Pomme


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