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2/1/24(木) Wasiq

 友達のいい写真が撮れてうれしい。

 彼女と出会ったのは10年ちょっと前、NYの Village Vanguard だった。その日の演奏はBarry Harris Trioで、バリーのワークショップでいつも一緒だったピアニストのラフィエットが、
 「台湾の知り合いがNYに来てるから、今日のバリーのライブに誘った。その子も原住民だって言ってたから、おんなじでしょ?」
 と話しかけてきた。ラフィエットは、偏見かもしれないがなかなか適当な感じのおじさんで、いやいや、台湾原住民ってそんなそこらじゅうにいるわけじゃないから、と説明したけど、確かに原住民って言ってたと言う。今の私だったら、もうちょっとラフィエットを信じることができたと思う。でも当時の私は、自分の知ってる原住民といったら、家族か親戚、親戚まわりの誰か、同じ部落の人、親戚の住んでる部落の人、それ以外で個人的に親しくしている原住民などいなかった。と言うのも会ったことがなかった。世界のいろんなところで台湾人に知り合ったけど、みな漢民族で、台北で買い物に行っても、ご飯を食べに行っても医者に行っても役所に行っても、ほとんど漢人の顔をした人しか見かけなかった。まさかラフィエットのような奴が、NYの、しかもVillage Vanguardで私を台湾原住民に引き合わせるなんて、申し訳ないけど100%あり得ないと思っていた。

 バリーたちの演奏が終わって、ラフィエットが私を手招きした。台湾からバリーのライブに来たなんて、原住民でも漢民族でも知り合ってみたいものだなと思ってそっちへ行くと、私より少し若いくらいの、どう見ても台湾南部の原住民の顔をした女の子が、
 「哈囉〜」
とニコニコしていた。私もハローと手を振って、
 「你是原住民?」
とすぐ聞いた。はじめて会う原住民同士ならよくある挨拶だ。
 「原住民?」
 「そうだよ、あなたも原住民?」
 「そう」
 私が返事をすると、彼女がちょっと向こうの若者グループの方をキュッと向いた。
 「ねえねえ!原住民がいる!」
 そして私にまた向き直って何族かたずね、タイヤルだと言うと、わらわら集まってきた2、3人に、
 「タイヤルだって。本当にタイヤルの顔してる」
と言い、私たちにもタイヤル族いるよ、と席に座っておしゃべりしている女の子の方に私を連れて行った。その女の子が、Wasiq だった。

 Wasiq と台湾で会うのははじめてだ。彼女はフィンランドに留学して卒業後もずっと住んでたし、私はその間 NY と日本だった。最初に会った後、NYで1度、東京で2度会ったことはあった。

 基隆からの帰り、南京公寓までバスに乗って、その近くの蒸餃のお店に入った。とってもおいしい。えび蒸し餃子、豚肉の蒸し餃子、小菜二つ(きゅうりの涼拌、小魚乾豆乾)、酸辣湯。日本円で1800円くらいのお会計だった。そこから彼女も私と同じMRTで帰れるというので、帰りのMRTに一緒に乗り、ちょうど席が二つ空いたので並んで座った。どこに住んでるの?と聞くと、新店だと言う。新店は広いけれど、なんとなく、私のいとこおばも新店だよ、と彼女に言った。昨日はずっといとこおばのことを考えていたところだし、話のついでに、Googleマップに、昨日Uberに送信したいとこおばの住所をコピペして入れて、ここ、と見せた。
 「欸?」
 と彼女が声を上げて、我住這裡、と、いとこおばのマンションから250mのところを指さした。
 彼女の指さしたマンションの1階には朝ごはん屋さんがあった。いとこたちがよく行くと話している近所の朝ごはん屋さんって、もしかしてここなんじゃないかしら。Wasiqと私と、こんなに近くにずっといたのに、彼女はフィンランドでの10年を、私はNYと日本での同じ時間を過ごして、その私たちが、マオリの学生たちと一緒に基隆にやってきて、やっとこさ、ちゃんと出会ったんだ。不思議だな。今日は他にもいろいろあったけど、Wasiq とこうして出会えたことが一番うれしかった。これからもよろしくね。

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