ミヤコワスレ(誕生花ss)
いくつもの駅を通ってきた。
気がつけば揺られていた列車には、それぞれのタイミングで人が乗り込んで来て、それぞれのタイミングで降りて行った。何駅も一緒になり懇意になった人もいれば、少しの区間をただ乗り合わせただけの人もいた。顔も名前も分からないまま別れた人もいれば、もうずっと道行を共にしている人もいた。
最初は春めいていた窓の外は、いつしか夏を過ぎ、秋に差し掛かっている。
もうずっと隣に座っていた人が、窓の外を見て小さく声を上げ、腰を浮かせた。
私は思わずその手を握り、首を振った。その人に席を立たれたら、この列車で、私はとうとうひとりになってしまうのだった。しかし、その人はそっと私の手を解いた。次の駅に着くまで名残を惜しみ、やがて、その人は列車を降りて行った。
そうして私はひとりになった。窓の外には紅葉が広がり、豊かな実りがもたらされている。その実りの中で、いつか乗り合わせた人たちが、楽しげにしているのが分かった。目を凝らすと、彼らは私に手を振ってくれていた。
ああ、何も無駄ではなかった。無駄ではなかったのだ。
私も彼らに手を振った。もうじき来るであろう終わりの季節のために。私自身の実りを、蓄えておくために。
花言葉「別れ」。
いただいたサポートは、私の血となり肉となるでしょう。