オステオスペルマム(誕生花ss)

 この一年、食生活には細心の注意を払い、適度な運動を欠かさず、良質の睡眠を取れるように努力してきた。起床と就寝の時刻も一日だって乱さずに通し、体重や体脂肪率は毎日計測した。だから、健康検査をパスできたのは、ある意味予想の範囲内だった。
 妻と二人、検査結果をチェックリストと突き合わせ、次に受ける知能検査の準備をする。義務教育範囲の検査はそれほど難しくはないが、それだけに些細なミスが命取りになる。これも毎日、二人で対策ドリルに取り組み、無事にパスした。
 そして、最後の難関……心理検査だ。ここまでの検査は、対策さえしていれば、おれたちのような若者ならクリアしやすい。しかし心理検査は対策本も出回っておらず、内容が当日になるまで分からない。おれたちは緊張しながら、検査が行われる病院に向かった。
 
『心身共に健康であること』が、子どもを育てるための必須条件とされて、十数年が経つ。病を抱える人への差別である、という多くの国民の声は、『健康な人間が健康な人間を育てるのだ』という一方的な結論に押し切られてしまった。だが、その政策によって健康な人間が増えたかというと、とてもそうは思えない。
 子どもを育成する許可を得られたとしても、毎年、その許可を更新するため、同様の検査を受けなくてはならないのだ。『心身の健康』に留意するあまり、育児に手が回らず、最近の子ども達は荒れていると聞く。少子化も、歯止めがかかるどころか、ますます勢いが増している。
 緩やかな自滅を予感しながら、おれたちは生きているのだ。


 花言葉「心身共に健康」。

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