アスター(誕生花ss)

 未だ生まれもせぬ身ではあれ、この世のことにつきまして、凡そのことは存じております。そもそも生命というものは、母胎の、卵の、種の中から追い出される前に、己の辿る運命を熟知しているものなのです。遺伝子と呼ばれるらしいものが、我々に予め、無に帰すまでの予定を耳打ちしてくるのです。
 それによりますと、私はある冬の寒い夜に、この居心地の良い小さな海から放り出され、それほど裕福ではない、かと言って食うに困ることもない、ごく普通の家庭で、ごく普通に育てられます。おとなしく、ひとり遊びが得意な私という子どもは、ごく僅かな親しい友人とともに室内で遊び、やがて学校に通うようになります。
 学校は特に面白くもない場所で、私は早々に期待を捨てて、本の中に世界を見出します。しかしあるとき、本の話をともに出来る仲間と出会います。
 それが、あなたです。
 あなたは今、私の母がいる病院から、そう遠くない所にいる、あなたの母の中にいますね。小さな海はどこかで繋がっていて、こうして私たちは離れていながら意識を通じ合わせることが出来る……それなのに、一度世界に放り出されたが最後、その能力は永遠に失われてしまう……勿体ないことです。
 あなたが微かに身じろぎしたのを感じます。そう、あなたにも、私と同じ予定が見えているのでしょう。私たちは学校の図書室で出会い、親しくなり、同じ中学、高校に通い、同じ大学に行くためにお互い励まし合い、ともに進学します。
 私はあなたを想うでしょう。あなたも私を想うでしょう。私にもあなたにも、それがとうに分かっています。
 これより先も、知ろうと思えば知られます。知ったとて、どうせ最初のひと呼吸で、全て忘れてしまいます。それでも私はこれ以上、今は知りたくありません。あなたと想い合う、それより先のことは、今はまだ。
 笑いましたね。偶然にも、私も今、笑ったのですよ。


 花言葉「私はあなたを想うでしょう」

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