土は何も語ろうとはしない。
土に触れた最後は、いつのことだろうか。
都市の土はコンクリートの下で息をひそめ、
野菜についていたはずの土もきれいに落とされて、
土との結びつきは見えにくくなっている。
そうした土と訣別した社会においても、
生物と無生物をつなぐ、天と地の境界ともいうべき場所では、
途方もない時間軸の輪廻がおこなわれている。
土は、物理的、化学的、生物的過程によって変化し続ける
とても複雑で、強い内部相互作用を持つ生態系である。
土は、生きることの始源でもある。
しかし、何も語ろうとはしない。
ざく、ざく、と土の上を歩く。
土というダイナミックな自然の産物があって、
その上に今、自分がいる。
土は、誰の足元にもあるのだ。
見えにくいものへの畏敬の念を、忘れさえしなければ。