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「手仕事のゴール」を考えるラオス旅

ラオスに来ている。

一週間の出張で、首都ビエンチャンから始まり、鉄道で3時間かけたウドムサイ県を経由して、さらに車で山道を5時間かけてルアンバパーンに今着いた。


仕事柄、アジア各国の手織り布を見てきた私だが、ラオスの手織り布の丁寧さや柄の精密度は圧倒的だ。

もちろんここにある手仕事は手織り布だけじゃない。今日で、10社以上の工房にお邪魔した。竹や葛の素材を使った雑貨や、紙を作る工房もまた素敵だった。

しかし、手織の布には強さがあル。ラオスには、少数民族がいて、それぞれの代表的なモチーフで織られ、刺繍された布たちは、それが民族の存在をアピールするかのような強さを放っている。

蚕から糸を作る女性。
日常の全てが手仕事の道具で成り立っている。
民族の手織り布を織る女性。


ラオスは人口745万人の小国。

人口規模が全てではないが、私が国を見るときに小国と、豊富な労働力がある国では全く経済のあり方や、ものづくりの選択肢が異なると思っている。


今回のラオスは小国という意味で、日本と非常に近似した問題を抱えているように思えた。

日本で京都にお店がある関係で、京都の伝統工芸工房を7社見学させてもらったことがあったが、その時と今回ラオスで10社見学させてもらった時の工房の方々が抱える問題点や逆に強みなどが本当に似ていると感じた。


今のフレッシュな感覚で自分用にもメモしておきたいと思って、このnoteを書いている。

大きくは、「ものづくり」の面での問題はこんな感じ。

① 「伝統を守る」ことが最上位の目的になってしまい、「お客様が喜ぶ姿」が不在になりがちであること。

② 守ることが最上位であるため、素材選定、色彩選定、モチーフ選定、それらの感覚が現代と大きな時差を抱えている。

③ ②に書いた”時差”を解消できない理由として、クリエイティブ(デザイナー)と職人の間の溝が非常に大きいか、あるいは、ほとんど不在であること。



経済的な問題点は以下。

① 人口が少ないため、工場の規模は数人から多くて50名くらい

② 生産できる量が限られているため一点あたりの単価が非常に高い。

③ 生産効率を上げたくても、プロセスがほぼ「手仕事」で構成されていて、変化することが雇用を失うこととイコールで語られてしまう。


あげればきっともっとたくさんあると思うけれど、大体はこのような流れに直面するなあと感じた。


こうした問題と、これからのものづくり、手仕事はどうやって向き合っていけば良いのだろうか。
そして「手仕事のゴールって何?」という疑問と毎日のように向き合う旅になった。

これはあくまで超主観であり、個人の意見としてこの旅路で、残しておきたいなと思ったことを書こうと思う。

まず、手仕事のゴールってなんだろう?

それは「手仕事を残す」ことではないなと思う。

それよりも大事なことは、「手仕事により、喜ぶ人を作ること」だと思う。

手仕事を残そうという言葉をよく聞くけれど、それはちょっと「生産者を守ろう」というフェアトレード運動と似ているなあと思う。

フェアトレードはそのために数年間同じ経済取引条件を継続することを認証ラベルを取得する項目の一つにしている。当時は今よりずっと買い叩くバイヤーがいたため、ある意味では生産者を守ることになったと私は思っている。


しかし、私がマザーハウスという会社を起業した一つのきっかけになったのは、そうした現場を見るたびに、「え?お客様はどこ?」という疑問が拭えなかったからだ。

手仕事や伝統工芸でもそれを感じる。

「伝統を守る=伝統を形成している人たちを守る。物を作る職人を守り、職人が扱う素材を作る職人も守り、さらに職人が使っている道具たちを作っている職人も守る。」

そうしたものづくりが生み出す雇用機会は非常に大きいものがあったんだと感じるし、そこに非常に敬意はやまない。

しかしだからといって、作り手を守っていれば手仕事は存続できるわけではない。

作ったものによって、お客様の笑顔が生まれるかどうかこそが、最も大事なことだと私は思う。


その笑顔の数が、次の注文の数になって返ってくるのではないだろうか。


そして、その数が多いほど、たくましい工場になる。

だからこそ、職人さんに素敵な生活を提供することができる。

そしてプライドを持った職人さんが、次はお客様を満足させる以上に、感動させるものづくりへと高みを目指していく。


これこそが、ものづくりに関わる人が追求すべき連鎖なのではないかと、18年前から思って、自分なりに小さな規模だが5カ国で工場を作り、実践してきた。


だから今回、ラオスで工房を訪れ、「どんな工房とやりたいですか?」と問われた時、こう即答した。

「守ることを目的にした工房とは一緒にできないと思う。共に、変化できるかどうかを見たい。」


工房を回る中で、私が無理難題をリクエストするので、みんなちょっと困った顔をしたり、ある工房では既にお手上げだと言われたりもする。

確かに、私と一緒に挑戦していくのは、きっと、大変だと思う(笑)。


だけど、手仕事が抱えているもう一つの、私の中では最大の問題は、③で書いた「クリエイターとの連携の不在」だと考えている。

“職人”さんは、与えられた形状や構造、品質を達成するために技術を提供する仕事だ。

技術の難題をクリアするための発想は求められるが、プロダクトの方向性、新しい形を提示し、世の中に届けるために、やっぱり“デザイナー”や“クリエイティブ”が必要。


日本、途上国の手仕事工房では、そうした道筋を照らすデザイナーが現場にいないことがほとんどだ。

遠隔でいてくれたらまだいいが、多くは、デザイナーの存在がなく、ビジネスマネージャーと職人で構成されている工房があまりにも多い。

そうなると、「変化は必要でも、どう変化したら良いのだろう?」と行き詰まり、伝統100%のままで、多大な費用を払い、国際展示会などに出展してしまうのだ。


今のお客様を知り、今求められている新しい提案をするデザイナーの存在があって、職人さんたちの頑張ったことが報われるんだと思う。

私は、欲張りだけれど、お客さんの笑顔と作ってくれる人の笑顔の両方が見たいんだ、とメコン川を眺めながら思った。

そして職人さんにとっては、無駄な頑張りではなく、頑張った甲斐があるものづくりをこの国でもしたい。


少数民族タイル族の女性とタイル族の家で。

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