革のハガキ
少し新しいプロダクトを作りました。
名前は「革のはがき」。
そのまんまです笑。
何かプロダクトを開発する時、メモや、日記に、開発最初、開発途中での心持ちを書くんだけれど、コロナで新作発表もできないし、youtubeの映像にすると少し自分が開発してきた重みに対して軽くなっちゃうから、このnoteでそんなメモたちの集合体である文章を読んで頂きたいと思います。
noteで新作発表はじまりはじまり。
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コロナ禍で、埼玉に住んでいる家族にも会いにいけなかった。
会いたいと言っても、「今はちょっと待って」と言われて。
個人的な話だが私は昨年11月に出産しているので、お腹が大きい姿を見せられなくて残念だったし、生まれてからも数えるほどしか見せられていない。
会えない分、たびたび地方の食材を送ったり、ネットで見つけた入浴剤やサプリを贈ったり、手紙ももちろん、送る回数は増えた。
一方で、自分自身も家族や友人から手紙を受け取る回数も増えて、コロナ禍になって前よりずっと、自宅のポストを開けるのが楽しみな自分がいた。
「手紙の送り合いっていうのはなんだかそれはそれで温かくていいなあ」
メールのやりとりにはないアナログな感覚は、懐かしさもあり、優しい気持ちになる。
だんだんと、私は文房具屋さんで「かわいい封筒や便箋、ポストカード」を
探すのが好きになった。
SNSで素敵な文房具屋さんを探しては、ポストカードを見るのだが、なんとなく「これだ!」って思うものはなかった。
私は元来なんでも自分で作ってみるタイプなので、「自分で作ってみようかな。」と思いはじめた。
「どうせなら、なんかサプライズしたいな!」と、もくもく思考が湧いてきた。
「そもそも素材が、紙じゃなくって違うものだったら?木の板とか。あはは、多分大昔はそうだったんだろうな、あ!革だったらどうかな。革のはぎれが届いたら面白くないかな・・・?」
そう閃いた瞬間に湧き出た起きた疑問。
「革って文字が書けるの?革って切手が貼れるの?貼ったとしてもポストで
送れるの?」ということ。
その次に思い出した風景がある。
なめし工場で品質チェックや色のチェックをした後に、革の名前と面積を
例えば「2000sft」とかを革の裏面(専門用語では「床面」)にマジックでいつも記載する。
「うん、床面だったらマジックで書けるはずだ。」
自宅にあった端切れに書いてみたら、毛羽立ちがしてマジックの方にモサモサした革の毛羽が付着してしまった。
「うーん。床面を磨くか。」
よく、革の切断面にコバを塗る際に磨きをかける作業をするのだが、それは
この「毛羽立ち」を防ぐことに役にたつ。
ここまで私は自宅の書斎で実験していたのだが、はじめてバングラデシュのマムンさんに電話をする。
「レターセットをね、革で作りたいんだ。」
「レター?? エンベロープ?(封筒?)」
「あ、ちがう。日本だと「はがき」っていう一枚の紙を送るんだよ。それが
革だったらすっごく面白いんじゃないかって思ったの。」
(マムンさんは、理解したようなしていないような感じだった)
「紙で書いてそれを包むものが革であればいいんじゃないの?」
「あ、違くて、革そのものを、ペラリとポストに投函したいの。まあそれでね、問題は、文字を書いた時の毛羽立ち。床面をポリッシュして、さらにその上に文字を書いてみてくれない?」
「それはできるよ。どの革でやるの?」
表面の色のイメージは、最初から決まっていた。
「グラデーションのレザー12色でいきたい。」
なぜそう思ったかというと、同時に調べていたことがあった。
“はがきは50G以下であるべき”と。
もしそうであれば革は軽量なものであるべき。ただ、それよりも重要なのは
ポストに投函して相手が受け取った時の、心が「パアー!!」ってなる感じ。だからキャメルやアンニュイな色ではだめ。そして、お手紙は暑中お見舞いや、年賀状とか、「四季」と重なる場面も多いから、四季をモチーフにしたグラデーションの革は最適だった。
私は、この時すでに店頭に並んでいるイメージが湧いていた。
でも、やっぱりいつだって発想は自由、実現は制約との戦い。
「郵便番号の四角を刻印してほしい」
「POST」という文字も刻印して。「住所とメッセージをかく境界線をもうけたいから白いスティッチを中央にして。」ババババってリクエストを要求した。でも問題があった。いざ床面に書こうとすると、緊張した。「間違えたらどうしよ・・・・。」
そこで、もう1ランク、ジャンプアップのイノベーションが必要だと思った。
床面に書けることは限られている。長文を書けば書くほど、間違いのリスクもあるし、こわい。でも、やっぱり書きたいことは山ほどある場合・・・。
「そうだ。このハガキにジッパーをつけよう!!!
その中に、長文の紙が入っていたらびっくりだ!そしてその中に例えば私だったら娘の写真、散歩中に見つけたクローバー、ちょっとしたサプライズプレゼントを入れて送れたら・・・そうそう、“送る”じゃない、これはもう“贈る”だ!」
「マムンさん、最軽量のジッパーをつけて、飾りじゃない。本物のポケットにしたい。」
「Let us try」
このコンセプトにより、50G以下におさまる努力はせず、中にものを入れてそれに比例した切手を貼ることになった。
さて、いよいよ、本当に届くのかどうかの実験だ。
できたサンプルをものづくりチームの工藤さんに私の家に送るようにお願いした。
「まだ届きませんかー?」工藤さんから問い合わせがきたが、まだだった。
しかし、翌日後にポストを見ると「わわわわ!!!なんだこれ!あははは!
ついたぞ!!!工藤さんから届いたグラデーションはがき!!」
この時の自分自身のテンションの高まりに、私はこの商品が目的としていた
「想いにちょっとしたサプライズをのせる」ことが成功したと思った。
プロダクトとしては、表はグラデーションの革でジッパーがついていて、裏が床面。季節ごとの色があるから、夏だったら空色を選んでくれたらいいな、とか、新年だったらなんか縁起がいい黄色とかを選んでくれたらいいなとか、思いや願いがたくさん心にはあります。
まだまだ、会えない日々が続く世の中。
自分自身もニュースを見るたびに悲観的になってしまうけど、手仕事とものづくりにだって、何か世の中を少しでも明るくすることはできるんじゃないかって、信じたくて作ったように思う。
「送るを贈るに変えてみたい」そんな実験から生まれたこの革ハガキが、
誰かの心を温かくできたら本当に嬉しいです。
デザイナー 山口絵理子
『革のハガキ』の特設サイトはこちらから
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