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見知らぬ町にひとり降り立つ

駅を出ると人はまばらで、殺伐とした交通網がはびこっていた。
ホテルとか事務所とか私にはとうてい関係のない建物たちが、極めて堂々としていた。

右手に一房のブロッコリーのような丘があった。

ひょろんひょろんと跳ねる赤毛のリスがいた。
まん丸な目を静かに動かすウサギがいた。
壮大に広がるカシやブナの木が立っていた。
その一本の枝の上にカラスが2羽となりあって座っていた。

木の下に隠れるようにして口づけをする若いカップルがいた。
漆黒の髪を背中に垂らした女性はエメラルドグリーンのドレスを着て、グレーのスーツから伸びる男性の長い手には赤いバラの花が一輪握られていた。

大通りが切り取った小さな緑の三角だった。
蒸し暑い空気には無数の水の粒が溶け入っていて、溢れんばかりの生命が満ちていた。




リスは、とても好き。
その後市街地へ。


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