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キンモクセイと霜降

 今日はやたらとキンモクセイが香っている。玄関開けたらキンモクセイ、角を曲がるとキンモクセイ。さっき通った道の、昨日の雨で落ちた銀杏の実の強烈な匂いさえも寛大な心で受け止められるほど、キンモクセイの香りに心がわくわくする。空を見上げるとキンモクセイの木のようなもこもことしたいわし雲まで並んで、THE 秋、である。

 ウクライナにもそんな花は咲いているのだろうか、ロシアにもそういう雲は浮かんでいるだろうか。
 そんな花が咲いていたとして、そんな雲が見えていたとして、
地下シェルターから出てきた時に漂ってきた花の香り、徴兵に絶望して見上げた空―――心踊っていたはずのものが、彼らにとっては、のちに今の状況を思い出す辛い質感のものになってしまっているのかもしれない。
どうしたらいいのか。

 車の屋根にキンモクセイの花弁を積もらせた車が、通りすぎた。

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