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パン屋の親父さん
「このパンはねぇ、今日はカリッとしてるけど明日になったらモチっとしてくるから。日ごとにだんだん膨らんで、味もね、変化してくるから。試してみてください。」
初めてここでパンを買ったとき、フランスパンを袋に入れながらそう教えてくれたパン屋の親父さん。それからもう4年以上たったが、硬めのパンが好きな私はフランスパンの種類が豊富なこのパン屋にすっかりはまり、気づけば常連(たまにしか来ないけど)になっている。
「こんなご時世だからストレスたまっちゃうよねぇ~」
なんて言いながら時折、ミントや、パンにも使っている明日葉、ミツバをお裾分けしてくださる。どれも自家菜園でつくっているそうだ。
世のレジは店員との非接触のものがかなり増えたし、ファミレスでもタブレットや記入式で注文するようになって久しい。レジの飛沫防止シートごしに話しかけてくれる親父さんの声色も、そんな世の中に配慮するようにどこか緊張感が漂うようになっていた。
あるとき、
「自然薯ができたんだけど、少しいる?」
と、パンを袋に入れ終わったあと、そう言って、店の奥から土をかぶった細長いそれを持ってきて見せてくれた。先のほうを少し切って分けてくださった。そういえば自然薯のピザパンが棚に並んでいた。
ぜひ皮のまま食べてみてとのこと。
「孫がさァ、じいじこれこのまま食べれる?なんて聞くから、どうだろ…なんて言ってるそばから、洗って皮のままかじっておいしいーなんて言ってるの。びっくりしちゃったヨー。」
親父さんが笑う。
「それにしても土ってすごいよねぇ。あんな茶色いところから青々とした葉っぱも出てくるし、こんな根っこも作っちゃうし。それでいておいしいでしょう。ホントに、自然って、すごいよねぇ。」
その親父さんの話を聞きながら、昔生物の授業に出てきた、細胞が一つの核からどんどん分裂して増殖していく、その過程を思いだしていた。そのくらいの広がりが、親父さんの声にこもっていたような気がした。
最後にもう一度お礼を言うと
「ねー。へんな店でしょ」と笑って、ありがとうございましたーと見送ってくれた。
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