配置転換:人はお金ではなく、コストよりも重要な要素
「これって大丈夫なの」
来社すると、以前と雰囲気ががらりと変わり、どんよりとした空気が漂っていることがあります。
会社の玄関に行った途端にわかることも。
とある部署の配属を変えたことで、一つの部署の稼働率が途端に下がっていることが後にわかりました。
部署の長、Yさん(以下Yさん)曰く
「どうして、あのような人をうちに配置したのか、わからない」とのこと。
Yさんの部下として、Aさんが配属されたのですが、その配置先、つまりYさんの部署の知識もないままAさんが勝手な行動し、Yさんの自分の仕事にも支障をきたしていると言うのです。
Yさん「あのような配置をするのは、会社側が、それだけこの部署が楽、もしくは誰にでも出来ると思っているってことですよ」
つまりAさんの行動に対しても勿論、不満はあるのですが、何より、このような配置をした会社に対し、Yさんは不信感を抱いたようです。
Aさんの勝手な行動の背景には、配置換えを行った部長の後ろ盾があるという自信が見え隠れしていることが、Yさんのストレスがピークになったようです。
Yさん「この業務は、簡単に出来ないですよね」
Yさんの言葉から、プライドが許せないという感情がにじみ出ています。
Yさんの業務は、非常に重要なポジションですので、他の企業にも移籍が可能な、引く手あまたの優秀な人材だったのです。
結局、会社を辞められてしまいました。
配置換えからわずか半年の出来事で、よほどストレスだったのだと推測されます。
人というのは、お金で動く場合もありますが、多くの場合、そんな単純なものではないです。
いくら高い給与を提示しても、人を尊重しない環境では長続きしません。
また、この状況を把握していたのにもかかわらず、上層部が動かなかったことも問題です。
Yさんに対して、少しでも尊重していることを上の方が伝えたならば、事態がここまで悪化に至らなかったのではないでしょうか。
ある意味、役員たちは経営者目線で人を見ていなかったのかもしれません。
Aさんの配置によって、人時生産性はもちろんのこと、Aさんのネガティブなエネルギーが他の社員にも悪影響を及ぼしました。最終的に、Aさんは別の部署に配置転換されましたが、その時点では既に遅すぎました。
「火元を断つ」ことができなかったために、Aさんの影響は拡大し、部署全体に悪影響を与えたのです。
一人の人が辞めることで、どれだけ新たなコストがかかるか、そして一人が抜けることでどれだけの負の影響が生じるかを、経営者であれば当然考えるでしょう。しかし、会社に所属している人や役員であっても、なかなかこのような視点を持つことは難しいのも現実です。
ある意味、役員たちは経営者目線で人を見ていなかったのかもしれません。
この視点を持つことができれば、いかなる状況においてもステップアップできるのではないでしょうか。
私の知り合いの税理士先生が、以前こう言ったことがあります。
ある問題に直面した際、私が理不尽な状況にあったのですが、その先生は私以上に烈火のごとく怒っていました。
「先生、そこまで怒らなくても…」と私が言うと、先生は「いや、傷口が浅い時に手を打たんとあかんのや」と返されました。
その後、先生の迅速な対応のおかげで問題は無事に解決しました。
税理士先生が問題に迅速に対処する姿勢を見せてくれたのは、経験に基づく判断力があったからこそです。
人事においても同様で、問題が発覚した際には早めに手を打ち、「火元を断つ」ことが極めて重要なのです。