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ここにある驚くほどの恵み|映画『Amazing Grace』『リスペクト』

まるで光に包まれながら降る恵みの雨みたいな歌声だった。

ちょうどその頃、仕事が驚くほどの佳境で自分の力をもうこれ以上何も残っていないぐらい全部何もかも出し切って言葉通り心も体もへとへとだった。

私が彼女のライブドキュメンタリーを観たのはそんな時。1972年の教会でゴスペルを歌う映画「Amazing Grace」を劇場で観て、全てはここにあって何も過不足などないことを讃えるような歌声。

頭よりも心よりも先に、私の体は息を吹き返すみたいに、歌声に癒されただただ泣いた。神を信じる気持ちが少しだけ、わかったような気がした。


『Amazing Grace』
(撮影:シドニー・ポラック、主演:アレサ・フランクリン /2018年)

『リスペクト』
(監督:リエスル・トミー、主演:ジェニファー・ハドソン /2021年)

◼️ジェニファー・ハドソンに託した想い

そんなアレサ・フランクリンの半生を描いた映画がジェニファー・ハドソンを主演に映画化された。アレサの役をジェニファー・ハドソンにと指名したのは生前のアレサ自身だったという。

彼女の名曲の数々は、曲のタイトルを知らなくても、もっというと彼女の名前を知らなくても聴いたことがあるほど有名であり、名曲ばかり。

映画『リスペクト』を観るまでは、アレサ・フランクリンにこんな波乱続きの人生があっただなんて全く知らなかったから、映画という媒体を通じて彼女の歌の後ろにあった人生に想いを馳せることができたし、同時に1950年から1960年代の今以上の男性優位な社会に息が詰まる思いだ。グラミー賞を18回とったレジェンドという彼女ではなく、孤独を抱えた一人の女性が迫ってくる。

◼️何度追い込まれ転んでも立ち上がる強さ

彼女は歌の中では、とても正直な人だったのではないかと思った。天性の声を持って生まれたけれど、そんなにすぐにヒットに恵まれたわけではなかったし、何より男に苦労していた。牧師である父親に、自分に性の刃を向けた男に、恋に落ちたDVの夫に、利用されてきた。いつだって女だという理由で支配しようとする。

1968年アルバム「Aretha Now」に収録されたThinkは多くの人々を勇気づけてきた曲だ。あの頃も今も私たちの心に突き刺さって離さない。

Oh, freedom (freedom), freedom (freedom)
Oh, freedom, yeah, freedom
Freedom (freedom), oh oh freedom (freedom)
Freedom, oh freedom

自由。自由が大切だと歌うこの曲のタイトルが「Think」と名付けられた想いにハッとする。

■ Amazing Grace

Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me

I once was lost but now am found
Was blind but now I see

この曲は1725年にイギリスで生まれたジョン・ニュートンが作詞したと言われているクリスチャンたちには長く愛されてきた讃美歌だ。

本当に多くのアーティストたちに歌い続けられている。時には子守唄のようにとても穏やかに、時には美しい透き通るような声で。アレサが歌うこの曲は魂の歌。何度も挫けそうになってボロボロになって立ち上がったそんな人の歌。ロスの教会で、彼女の心からの歌声に観衆は声を上げ、喝采は止まらなかった。

何度だって立ち上がって。

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