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『You+』 菊の花

今回は、クリラボEXPO2021の「you+ 私を変えてくれたもの」のイラスト部門に応募したいと思います。

「私を変えた」と言うのとは少し違うと思いますが、私の中にある祖父の印象が変わったのは、祖父がパーキンソン病を患ってから数年後のことです。
アメリカからの一時帰国中、祖父母を訪ねると、祖母が嬉しそうに一枚の紙を持ってきて話し始めました。
「ねぇ、この絵見て!お父さんが描いたのよ。お父さんがこーんなに上手に絵を描けるなんて知らなかったわ。もぅ私、びっくりしちゃった。」

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祖母が差し出してきた紙には菊の花が一輪、上の図のような構図で描かれていました。
絵を見て驚くのはそれ以前も、それ以降もあの時くらいです。
あの寡黙でちょっぴり厳格な祖父が絵を描いたという事実に驚きました。そして、おそらく祖父の人生で絵を描いたのはあれが最初で最後だったであろう菊の花が見事だったことに、さらに驚きました。
パーキンソン病を患って筋肉が硬直し始め、鉛筆を持つ手を動かすだけでも難儀だったはずなのに。
あの時、あの菊の花を見たことで、私の中の祖父のイメージがだいぶ丸くなったことは間違いありません。

祖父が他界してから15年後の今年初め、祖母もあちらへと渡りました。
葬儀を無事に終え、従姉妹と祖父母の思い出話に花が咲くなか、祖父のイメージがさらに変わるエピソードが出てきたのです。
私と同じ年齢の従姉妹の記憶では、祖父は孫の私たちが誕生したことで、自宅をリフォームしようと考えていたそうなのですが、そのデザイン案を聞いてぶっ飛びました。
従姉妹はこう話し始めたのです。
「あの仏壇があった広間に床の間があったでしょ?床の間の後ろの壁をくるって回転できるようにして、洋間へ抜けるようにしたかったんだって。あと階段にある手すりを下げると階段がパタンと滑り台になって、サーっと滑り降りられるようにする予定だったらしいよ。でもね、おばーちゃんが『そんなの危ないわよ!やめてよ!!』と断固として許さなかったって・・・おじーちゃんは自宅を忍者屋敷にして、孫の私たちに遊んで欲しかったんだよね。」

あの祖父にそんなファンキーな一面を見たことのなかった私はただただ驚くばかりでしたが、祖父の印象は一新されました。
そして、思うのです。
もしもMe+忍者屋敷があったならば、私にどんな影響を与えていたのだろうと。

幼い頃、埼玉にある祖父母の大きな家から、東京の小さな実家に帰るのが嫌で嫌で、母が運転する車の中でずっと泣いていたくらいです。
もしも忍者屋敷があったならば、母はさらに苦労したでしょう。

二人が他界した今、記憶の中の祖父母の家は忍者屋敷へと変わり、菊の花が生けてある仏壇の広間で、祖父母二人は年甲斐もなく忍者の格好をして手裏剣を飛ばしているのでした。

と言うことで、今回は私の新しい働き方実験の延長として、左手(非利き手)で菊の花を描きました。
うん。花びらが多いと描くのは大変だから、ちょっと小ぶりな菊を選んで買ってきたよ。


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