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『プラータナー:憑依のポートレート』緊急オンライントーク|バンコクでいま何が起こっているのか? レポート

ライブ配信を聴きながら取ったメモなので間違っているところがあるはず。詳細はこちらのアーカイブを見てください。


本オンライントークの前提

タイ民主化運動: 2020年7〜8月にかけて開始。次第に弾圧が強まり2020年終わりくらいから縮小傾向にあったが、2021年2月ミャンマーのクーデターの影響もあり、規模がまた大きくなってきていた。3月28日にアーティストや活動家たちが一斉に逮捕された(その多くはすでに保釈済み)。起訴・不起訴等決まるのはこれから。


1. 3月27日(土)、28日(日)のデモについて

天を衝く村 หมู่บ้านทะลุฟ้า
保釈された直後の今日も、アーティストたちはすぐデモ活動に参加。どんな理由で参加していたのか?

・始まりは2020年の秋口の民主化運動:
「天を衝いて歩く」。新憲法制定を要求。1日15時間、20日間くらいをかけて247.5kmを歩く運動(247.5kmは仏暦の2475年を表している。西暦1932年はタイにおける立憲革命が起きた象徴的な年)
デモ行進部隊は、労働や福祉の問題など人々の語りを集めて歩いた。それを現政府に提示して新憲法を制定するように働きかけるという目的のため。

・要求の内容:
1. これまでに逮捕された民主化運動リーダーの解放
2. 刑法112条(王室不敬罪)の改正
3. 現首相(プラユット)の退陣

・天を衝く村(หมู่บ้านทะลุฟ้า)の場所:
バンコクの首相府。首相府にデモの拠点を作って停泊し、継続するイベント。セミナーや映画の上映会、アート作品の展示、販売。市場。
本来山岳少数民族であるカレン族が住んでいたコミュニティ。カレン族はもともと北部タイに住んでいたが、国立公園を作るために政府によって事実上追放された。首相府の近くに住まわされている。政府はいつか帰れると嘘をついていた。政府はバスを用意したが、もともといた山に戻れるのではなく、また別の村に連れて行かれた。嘘だった。

・デモの参加者:
アーティストだけではなく、スラムの人、カレン族の人、その他地域で問題を抱えている人々が集った。これまでの民主化デモは【3〜4時間で解散・毎日続ける】というものだったが、2020年からの流れのデモは、その場に留まり続けるというもの。勢力が大きくなる。主張が強くなる。政府としてもこの村を止めなくてはならなかったとカゲさんは考えている。

・Free Arts:
村を作り始めていたところ、カレンの人々がバスで連れて行かれたりして人数が減った。活気がなくなってきたので新たに「Free Arts」というムーブメントを起こした。市場という楽しげな雰囲気を出す。デモ参加者にかぎらずバンコクの人たちも参加しやすい雰囲気を作ることが目的。その2回目をやろうとしている中、排除されてしまった。


土日の2回に分けて合計99人が逮捕された
 ー 緊急事態勅令に違反している
 ー 感染症予防法に違反している
 ー 陸上交通法に違反している
 ー 都市景観保護法に違反している
 ー 拡声器の使用について許諾を取らなかった

・デモの制圧時は、罪状は後づけが常套手段。
バンコクに「サオチンチャー」といって巨大なブランコがある場所がある。
そこで保守王党派の市民がタイの伝統衣装を着てスケボーに乗るイベントをしていた。彼らはマスクもしてないし、騒いでいたけど逮捕されていない。「天を衝く村」だけが恣意的に逮捕されていた。法律が恣意的に運用されるのはいつものこと

・「天を衝く村」と「Free Arts」の関係をもう少し詳しく。
アーティストコレクティブ「Free Arts」。昨年あたまから始まっていた民主化デモの個々の参加者として、それぞれのアーティストたちが存在していた。デモを続けていくうち、政治的な問題に興味関心のあるアーティストや民主主義を標榜するアーティストがネットワークを作り、2020年9月に最初のイベントを行った。バンコクのBACC前でやった。デモがある時はメンバーが出向き、イベントを開いてサポートしている。「アートにおける表現の自由」を掲げ、パフォーマンスによってデモに花を添える趣旨。

・2020年8月以降、状況が変わる。
8月3日・・・アーノン弁護士が、タイにおける王室の問題をスピーチ。原理原則に乗っ取って論理的に指摘したもの。112条(王室不敬罪)が存在するタイにおいて、公共の場所で王室への批判が発言されることはなかった。あーノン弁護士のスピーチによって「批評の天井が上がった」と言われている。
8月10日・・・タマサート大学において、大学生たちが王室改革のための10の要求を掲げた。
9月19〜20日・・・これまでは旧市街の民主記念塔を中心にデモを繰り返していたが、デモ隊は王室の管理下である王宮前広場に入った。

・「象徴」「記号」「サイン」を奪い合う
タイが史上初めて民主化した1932年憲法を記念する記念碑がある。軍事政権になるとそれを勝手に"ラーマ10世が書いたありがたいお言葉"に取り替えられていた。さらにデモ隊は2020年版の新しい記念碑に取り替えた。Tシャツ、ボタン、インスタやFBのフィルター等販売し「象徴を取り返した」としている。Free Artsはこの活動もサポート。


2. ミャンマーとの連動性・関連性はあるのか?

ミャンマーのクーデターをきっかけに民主化運動が加熱。隣国同士のタイ、ミャンマーは互いに影響し合っているのか、いないのか。

・3本指のサインなど、ミャンマーのクーデターには即座に影響が伝わった面があると思われる(ミャンマー側はタイから持ってきたわけではないと主張している側面もあり)。
市民の抵抗はタイよりミャンマーの方が圧倒的に強い。権力対市民の対立はミャンマーの方が圧倒的に血肉に染み付いていると思われる。タイでは政府支持・不支持の国内での対立もある。

・2月のミャンマークーデター後、ミャンマーをサポートしようとするタイの人たちの反応は早かった。同じものを共有している。各地のミャンマー大使館前でのデモなど。ミャンマーのアーティストたちとメッセージのやり取りをしながら、支援の方法を探っているところである。

・タイ・ミャンマー両国の軍政は滑稽なくらいにはっきりと支援し合っている。ミャンマー軍の記念日に各国から使者は来なかったが、タイ政府はわざわざミャンマーに使者を送っていた。市民同士、軍政同士、2つのレイヤーで共有している。

・考えるべきなのは、ミャンマーとタイに限らず、台湾や香港の民主化運動からの繋がりもあるということ。 >ミルクティーアライアンス:タピオカミルクティーを飲んでいる人たちの連帯
各地のレベルでは起きたり起きなかったりしているが、東アジアから東南アジアにかけて民主化運動はずっと続いている

・タイにはミャンマー人の労働者が非常に多かった。新型コロナウィルスの流行は、タイ国内では昨年7月まで感染者数が少なかった。ミャンマー人労働者にクラスターが多く発生していて責められていたが、その多くは最低賃金以下の劣悪な労働環境で働かされている。タイ側の仲買人や政府が半ば強制的にミャンマーの人たちを労働力として連れてきた。労働組合の団体はミャンマー政府に向けてレターの準備を進めている。人権問題の面からも、軍事政権から民主化へ移行するように働きかけようとしている。


3. 99人のアーティスト、活動家が拘束された。

彼らは今後起訴されるのか・されないのか? 今後自由に活動を続けられるのか? 活動するのにハードルができることが予測されるのか?

・ほとんど問題ないと思っている。早速今日からデモに行っている。新内閣の発表があり、その午後にデモ参加者は赤絨毯を敷いてパロディ写真を撮っている。今回の逮捕が障壁になることはないと思っている。今日この後clubhouseで「昨日捕まってどうだった?」ルームが開かれることになっている。

・今回の逮捕で言われているのは、新内閣の写真撮影をするには村があると困った面があったからではないかということ。
個別のアクティビストを対象にしたわけではない。単純な一斉排除でしかなかったと考えている。


命に関わるところではなさそうで安心したけど、今後も安心していいの?

・民主化運動を始めた、中心核だった大学生たちは今も拘束されている。これから拘束される可能性もないとは言えないが、政府は民主化運動に参加している人たちを怖がらせようとしている。活動をやめたり、外に出なくなってしまったら思うつぼ。経済的な理由も含め、色々な事情で参加する人も減ってきている。どうやって自分自身の身を守り、生活を成り立たせながら活動を続けていけるかが次の問題になる。

・弁護士たちがサポートに入ってくれて保釈がやりやすくなっている。演劇系の大学の先生でサポートしてくれる人も出てきた。一般の市民を含む保釈金の寄付が瞬く間に集まっている。


4. 質疑

Q: ミャンマーとタイのアーティストとの連帯を日本からどうやって応援すればいい?

・ミャンマーの支援は外からのアクセスが遮断されているため難しい。ミャンマー側は国際的な支援を求めているし、それが政府を揺るがすパワーになることも認識している。国際社会に働きかけているところ。タイ演劇基金やアメリカのシアターインスティトゥートなどなど輪を大きくしている。

・お金は必要なので寄付のプラットフォームは用意している。ただ、寄付の話だけをしたいわけではなく、今日のようなトークもそうだし、現状に気づいてもらうことや出来事が共有されていくことが大事。
タイ国内でさまざまな支援団体に分かれている。寄付があったら各々に分配していく。ミャンマーにも送れるように方法を検討していく。

・さらにもっと強力な形で政府に圧力をかけたい場合は、各国の大使館前でデモを行っていただければ。

・例えばミャンマーで起きているアーティストの迫害。ある画家の家が当局によって火をつけられて全焼、その画家はホームレスになった。パフォーマー、大学教員など13名がミャンマー当局によって逮捕されたという情報を入手したが、情報提供者が特定されると不都合が生じるため名前を出せない。


Q: 今般のデモに参加する・主導する層は経済・文化的な資本の差はある? 日本も貧富の差が大きくなっているが、タイは著しく、男女差別もあると聞く。バンコクに住むアーティストからも経済的に豊かでない層には芸術が届かないと聞いた。こうした点から今回のデモに賛同する層がどういったものか関心がある。

・今回の民主化運動デモは大学生が中心で、ある程度収入がある家の子息が多い(中間層)。ある意味では2013年の保守派のデモと共通。みんなきれいな格好をしている。政治的には真逆の立場をとっているが。

・中心となっている大学生たちは、2019年の総選挙を経験している。新未来党(民主化政党)を支持している大学生が多かった。多くの大学生が新未来党に投票した。しかし裁判所の決定によって新未来党が解党されてしまった。大学生なので勉強している、知識がある、現状への怒りもある。これまでのタイ政治がどうだったかを含めて政治的な闘争につながっている。

・デモはバンコクからスタートしたが、今は中学・高校まで、タイ全土に広がっているため階級差は薄れているのではないか。今10代の子が中心。これまでのデモは大人がスピーチしているところに学生たちが聞きに来ることが多かったが、今回は逆。学生や若者がスピーチしているところに大人たちが聞きに来る。大学の外に出て行った若者のデモ隊は、赤服(半王室)のデモ隊と合流してますます大きな勢力になっていく。

・デモが発生して人が集まると経済が活発化するという話がある。屋台やマッサージ屋が集まったりして。近隣の人たちが「デモがきてくれたらこの辺ももっと潤うのにな」と言っているのを聞いたことがある。出自からくる階級差が曖昧になってきているのが拡大したデモの特徴になっているのではないか。

・実際のデモの中でなされている主張は多岐に渡っている。LBGTQ、フェミニスト、女性問題。中高生、教育の問題、校則の問題。僧侶、工場労働者、フリーランス、労働環境・福祉の問題を語っているなど。絨毯の下に隠されていた色々な問題。デモの中にあらゆる人が存在するのが今の状況。


Q: タイのアーティストには様々な立場の人がいると思うが、デモに参加したり、現在の政治に批判的な考えを表明するというのは、アートシーンにおいて一般的な態度だったり広く共感を得られているのか、それとも少数派なのか。例えば公的な施設で展示などの機会があるアーティストは態度を明確にしないといった分断などもあるのか。


・誰がどのレベルで運動を支持しているのか、どういう思想で参加しているのかを見分けることは難しい。「デモは支持するが王室の話だけはするな」というアーティストもいる。各自個別の事情があるのでラディカルな部分に触れることを好まない人は当然いる。アーティストの間で個別の論点を話しているというよりは、現状は国の構造を変えるためのデモを支援しているという立場。

・この10年でいうと3つの契機があったと思う。
1. 2010年・・・赤服デモ隊の強制排除事件。タックシンを支持していた人たちが反王室派として、バンコクで100人近い死者が出る大きな事件。これにアーティストがどんな反応をしていたか。「あいつら殺されて当然だ」と公然とFacebookに書き込みするアーティストもいて驚いた。
2. 2013〜2014年・・・クーデターの前に起きていた半王室派のデモでは、ある程度自分の立場をはっきりさせなくてはいけなかった。
3. 2020年夏・・・Free Artsの活動でも、コールアウト(態度の表明)を迫る部分があった。呼びかけに賛同するかどうかでフィルタリングされていく状況もある。例えばボトムブルースというバンドは急進的な民主派のアーティストの中心核で、始めはバンドで参加していたが、次第にメンバーがいなくなってエミー(ボーカル)だけが残った。

・「現政府は嫌いだけど王室は愛している」という人たちとの間に分かれ目があるのが今の問題。


5. 参加者たちのコメント

カゲさん: 去年は路上(=デモ活動)に出過ぎた。今年はアーティスト活動をちゃんとしていく。10月6日事件についての作品を作る。それ以外は路上に出ていく。僕が投獄されないように幸運を祈ってほしい。

プーぺさん: 国際的なコミュニティから支援が受けられることが一番ありがたいので、今日聞いたことを公共の場や周りの人に伝えてほしい。友人同士の間で話してくれるだけでも助かる。もはや個人レベルの話ではなく構造的な問題になってきている。今日のような場を設けてくれたことも感動しているし、ありがたく思っている。アイディアを共有してほしい。牢屋が近づいている気がするので私たちが投獄されないように祈って(笑)。

ファーストさん: 自分は年齢が低い。最初の政治活動になる。去年の初めての選挙もテンションが上がって嬉しかった。自分たちにとって大事な時期。ずっと抑圧されてきたことに対して戦っていく。身体的な戦いだけではなく、情報や知を持って戦っていくことが大事だと思っている。

ベストさん: 難しいけど、こういうふうに話をする機会があって嬉しい。長い戦いだと思っている。運動の最初の方で使っていたハッシュタグ「私たちの代で終わらせよう」というスローガンがあった。はるか昔から続いてきた。続けていく。

川崎さん: バンコクの皆さんが何を語るかを聞こうと思っていたので、まずは聞けてよかった。ベストさんの作品もこの間京都エクスピリメントで紹介した。いろんなレイヤーで政治的な活動をしていることがわかる。寄付などのような直接的な支援も大切だが、アーティスティックなコラボレーションや連帯もできると考えている。どちらも探っていけたら。

塚原さん: タイを心配するということもあるし、日本も歯車が狂えば似たような状況になることもありうると思う。何年か前に香港に行った時、同世代のアーティストとデモのことを話した。その時彼らは「これは勝ち目のない戦いだ」と口にしていた。もう戦うことを諦めていた。大きな力に対して、自分の力を出し引きする塩梅の中で、みんなが安全な生活ができたらいいなと願うばかり。

岡田さん: 生々しい肉声を聞くことで、ぼくにとっても、配信を聞いてくれている人にとっても、貴重な情報を知ることができた。より想像力を働かせるためのよい機会にできたのではないかと思う。ありがとうございます。いつこれが終わるとわかるものでもないし、状況はいつも形を変えるし、すごく厄介な長い戦いだが、疲弊しないで戦い続けて欲しい。決して他人事ではないと思いながら、そういう風に願う。

福富さん: ここからは長いんだと思う。これから必要なのは、いち観客、いち読者として見たいのは、こういったことを受けて何が生まれてくるのかというところ。その日を待ち望んでいる。

(2021年3月30日)



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