#読書の秋2021

FM802でも「FM802 BOOK&COFFEE」と題して1ヶ月に渡ってコーヒーと共に楽しみたい一冊をご紹介してきた。
私はコーヒーを飲まないが(ミルクと砂糖をたっぷり加えれば飲める)あたたかい飲み物と一緒に秋の夜長にゆっくりと味わいたい本はいくつか心当たりがあるので、過去に番組で紹介したものも含め、整理しておく。
もう明日から12月に入るが、何かとバタつく季節だからこそ冬の夜長にでも本を手に取りたい。

●「ぼくの小鳥ちゃん」江國香織著
”雪の朝、ぼくの部屋に、小さな小鳥ちゃんが舞いこんだ。体長10センチ、まっしろで、くちばしときゃしゃな脚が濃いピンク色。「あたしはそのへんのひよわな小鳥とはちがうんだから」ときっぱりいい、一番いいたべものは、ラム酒のかかったアイスクリーム、とゆずらないしっかり者。でもぼくの彼女をちょっと意識しているみたい。小鳥ちゃんとぼくと彼女と。少し切なくて幸福な、冬の日々の物語”

冬、暖かい部屋で、コーヒー片手に読むなら、この本しかない。
突然現れた小鳥ちゃんは僕の家に住み着く。人間のようにお喋りをする小鳥ちゃん。メルヘンなようで妙なリアリティもある不思議な作品。
ちょっとワガママでやきもち焼きでおませさんな小鳥ちゃんが可愛くてたまらない。でいて、ずっとうっすら切ない。江國さんの瑞々しい表現が光る。こぢんまりとした挿絵も素敵。小さな絵本のよう。

●「猫」久坂葉子著(短編礼讃-忘れかけた名品- より)
かつて久坂葉子という天才が存在した。4度の自殺未遂、そして5度目の自殺で命を絶った作家。自暴自棄になりがちなタイプで、真っ直ぐがゆえか、不器用な生き方しかできなかった人なのだろう。類い稀なる才能を持ちながら、実にもったいない。
久坂葉子との出会いはこの短編だった。強い衝撃を受けた。これだ!と思った。私が読みたかったのは、私が書きたかったのは、これだ!と思った。
あらすじをやや乱暴にご紹介するなら「好きな人が結婚すると知って、その人の飼い猫を殺そうと考える」という話。この狂気と純粋さがいじらしくて、たまらない。私は彼女の文体が大好きだ。切れ味鋭い文体で、ねちょねちょしておらず、その内容と裏腹にたくましさや男気を感じる。ぜひ多くの方にこの才能を知ってほしい。興味を持たれた方はすぐに読んでみてほしい。(尚、短編礼讃は絶版の模様)

●「倚りかからず」茨木のり子著
この詩集はいたる所で自分のバイブルとして紹介をしてきた。私の座右の銘は「自分の感受性くらい 自分で守れ」なのだが、これは茨木さんの「自分の感受性くらい」という詩の一編だ。
生涯で8つの詩集を出されているが、「倚りかからず」は、生前にお出しになった最後の詩集。(因みに「自分の感受性くらい」は収録されていない。入ってないんかーい)
しかしこの一冊をまずおすすめするのは、装丁が美しいこと。お守り感覚でお持ちいただけること。代表作の収録もあること。
凛とした強さがあり、言葉の中に意志がある。はっきり言って、めちゃくちゃかっこいい。読んでいると、こちらもしゃんと背筋が伸びる。
また茨木さんはユーモアの人でもある。
例えば「笑う能力」という詩。大いに笑え!と書いた後で、「気がつけば我がヒザまでも笑うようになっていた」とオチをつける。どの詩にもそういったちょっとしたユーモアがあり、エスプリが効いている。
茨木初心者の手始めにはこの一冊が良きかと。

●「若き詩人への手紙・若き女性への手紙」リルケ著
”『若き詩人への手紙』は、一人の青年が直面した生死、孤独、恋愛などの精神的な苦痛に対して、孤独の詩人リルケが深い共感にみちた助言を書き送ったもの。『若き女性への手紙』は、教養に富む若き女性が長い過酷な生活に臆することなく大地を踏みしめて立つ日まで書き送った手紙の数々。その交響楽にも似た美しい人間性への共同作業は、我々にひそかな励ましと力を与えてくれる”

こちらは春に読みたい本として以前番組でご紹介したものだが、別に冬に読んだっていい。人生の帰路に立った時、迷路に迷い込んだ時、などにお奨めする。余談中の余談だがまもなく12/4はリルケのお誕生日だそうだ。
悩める若者へリルケが誠心誠意送った手紙の優しく力強いこと。我がことのように時間をかけて考え丁寧に回答していて(返信が遅れた際にも、その理由まで丁寧に書いており、まあ言い訳がましいと言えばそうなのだが、あくまでもあなたのことをぞんざいに扱っているわけではないのですよ、本当に忙しかったのですよ、という長々した説明が、ああリルケってめちゃくちゃいい人なんだなとわかる。私はそんなところが好きだ)彼の回答を読めば、大体のことは答えが見えてくる。お導きの書、といったところ。悩める子羊ちゃんたち、大羊ちゃんたち、みんなに推薦する。

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