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黙殺するひとへ

あなたは黙っている
自分はなにもできないからと

あなたは黙っている
間違ったことをいわないように

その黙殺がだれかのこころの
大爆発を引き起こしてしまうのに

あなたは自分が守れないものには
口を出さない

窮地にいる隣人がいるのを
しっていても
決して自分からなにかを言わない

隣人は思う

わたしは
このひとにとっての腫れ物で黒歴史で
このひとはわたしをなかったことにしたいのかと

すべての年月や
信頼や親しみや友愛をこわすほどに

そのダンマリは巨大な圧力となる

あなたの無言は
これまでの日常や愛着に
急に気づかないふりをして
いるみたいにも見える

すべてをなかったことにしたいかのように

あなたはいつもそうやって
自分にはどうにもならない変化を
乗り越えてきたのかもしれない

こころをまもるためなのか
立場をまもるためなのか

どうにもできないのはわかる
どうにもできない別れもやってくる

何もできなくても
あなた自身に
そこにいてほしいのに

文句のひとつもつぶやかせて
ほしいのに

白い壁紙のようにあなたは消える

あなたは本心がどこにあるか知りたいのに

あなたはアクリル板のように
あなた自身の影すらおとさない

透明な壁のなか
隣人は閉じ込めらる

なんて淋しい人なのか


どんな出会いもいつかわかれの時がくる

別れがもしある程度予見できるかたちで
やってくるなら

あなたはそんなふうに消えてしまうのか
自分を消してしまうのか

すべての本音をうやむやにして
あなた自身を消されては

あなたを人ととして
こころの鏡にうつして
すごしてきたと隣人

あなたがなにも言わないことで
近くのだれかが窒息しそうに
なっていることを知っている?

あなたは隣人にとって
とるに足らないものではなかったのに
ある時は分身のような存在でもあったのに


恨んでほしくて
そんなふうに黙っているの?
石ころ帽を被っているの?

これまでのすべての月日を
これほど長く過ごした時間のなかで

映っていた日常を
まるでなかったことのように





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