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#29 へびにらみ

生きることは、殺すことだった。


レシピ動画を検索していたら何故か全く関係のない「ボールパイソンがネズミを丸呑みにする動画」がヒットした。
視野が狭く耳も退化しているヘビは、代わりにヤコブソン器官という嗅覚器官で獲物の体温やにおいを察知するらしい。
そうして音もなく忍び寄り、一瞬で急所に噛み付き、時間をかけて絞め上げ、頭から飲み込んでいく。
ひるがえって、ゆっくり息の根を止められて少しづつヘビの胃に収められていくネズミ。命のやり取りの一部始終に釘付けになっていた。
もはや自分の夕飯もそっちのけで、同じ動画投稿者がエサ用のヤワゲネズミを大量に繁殖させている動画も一気見したのだった。

…みたいなことばかり書き連ねた薄暗い日記を1年以上続けていることがわずかに周囲に知られてきていて、やや筆が鈍っている。
特定の個人や組織を悪く言うことはしていない(つもりな)ので誰にご覧いただいたとて特段困らないのだけれど、人目を意識した途端に”読者にとって有益な、そうでなくとも何か読後感のあるものを書かなくては”という果たせもしない義務感に駆られるのだ。
そうは言ってもエンタメや芸術はすべからく人間の生命維持には不要なものであり、そこにどっぷり浸かっている私が書く文章に有益さなど毛頭ありえないのだが。

いつも勝手に思い詰めて自爆している。

ーーー

お笑いフリークをやっていると最近は”顔ファン問題””ラニーノーズのnote”など、なんだか心がざらつく話題が多く耳に入ってくる。
「人前に立つ仕事をしている以上、容姿についてあれこれ言われるのは避けられへん(大約)」と黒帯がyoutubeで話していたり、
「顔ファンなんて10年後には勝手にいなくなっている。俺らのやることは変わらんから、好きなように応援すればいいんちゃうん。俺は顔ファンきっしょ、とは思うけど(大約)」と9番街レトロ京極さんが語るnoteやラジオには首肯するほかなく、
「芸人みたいなモンにも知名度や人気に比例して”しゅんき(件のラニーノーズファン)”」はやがて現れる(大約)」とした上で「お前それ”しゅんき”やん!」とか言ってすぐミーム化するニューヨークの毒牙ぶりはさすがに面白すぎた。

ずっと黙ってた 芸事は恥
そう思っては スーツケース転がし
生業と思えた27,8
これでいいやと変え始めたものさし

安定の生活 それとステータス
望んでたものは手に入れたはず
ぽっかりと空くこの胸は何
また手を伸ばしては探すばかり

憧れた生活 似合わない性格
わかってたはずわかってたはず
ほんとの幸せは無計画と
だってくだらない会話こそ贅沢よ

礼賛 / 生活

くだらない会話こそ贅沢だ。

”金と時間と承認欲求を持て余してインスタに寒い投稿してるやつ”の
乾いた感性やきっと暇そうな人生を冷笑する私に
「ワカコだって”暇そうだな”と思われてるよ」と言い放った、
私を甘やかさない点において私はきみをとても信用していて、
ついでに言えば”もし同じ性に生まれていたら”なんて考える。

ーーー

「判断力が低下したままコンビニに入る」
人類が幾度となく繰り返してきた過ちである。

お声掛けいただいたショー出演でその日の命をきっかり使い切り、光に群がる羽虫のようにセブンイレブンに吸い寄せられていた。
酒缶で両手をいっぱいにして立ち尽くしている私に「いらないと思っても意外と買い込んじゃうんですよねえ」と店員のおじさんが笑顔で買い物カゴを手渡してくれた。
すみません、とありがとうございます、と交互に繰り返しながらカゴを受け取ると「お疲れでしょうから…」とおじさんはわずかに俯いた。
私が引きずっていたスーツケースに目線を移したのか、それとも中途半端に舞台メイクの残った、会社員にしては濃すぎる顔から目を逸らしたのかは判らない。
話好きらしいおじさん店員の世間話に曖昧に愛想笑いをしながら、唇の端が淡く痺れるのを感じていた。
花粉か疲労かストレスなのか(おそらくその全部なのだろうけれど)、唇の痒みと肌荒れに1ヶ月以上苦しめられている。
悪化すると口角のあちこちがひび割れて、ある朝ついに黒腔みたいになってしまった。


黒腔(ガルガンタ)=BLEACHで破面が出入りするゲートみたいなやつ

双天帰盾で瞬時に体力回復、なんてこともなく翌日からは数週間後に控えた次の本番に向けて振り起こしに取り掛かる。
ダンサーや出役の方なら共感してくれる方がいるかもしれないけれど、自分の過去のパフォーマンスを見返すのは本当に、本当にしんどい。
ビジュアルは今よりパッとしないし肝心の踊りはあまりに未熟で、”こんな腑抜けた状態でよく人前に出られていたものだ”と、毎度眩暈を覚えるほどの苦行である。
もちろん、当時の自分はそれでも誠心誠意ベストを尽くしていたことだけはほかでもない私が知る、偽らざる事実だ。
その上で、”もう踊れないかもしれない”という思いは常に脳裏を這い回り、とぐろを巻いてこちらを睨んでいるのだった。

憧れた生活、似合わない性格。
また疼きだす頬のあたりを、無意識につい引っ掻いてしまう。
私の顔に浮かんだミミズ腫れの線は、いつかyoutubeで見た
母親に育児放棄され死んだ赤ちゃんネズミによく似たピンク色をしていた。


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