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#15 たった1人のあなたへ

高く晴れた夏の日。

「何にもしない」をする日を意図的に作っていた。

ネットスーパーの配達に合わせていつもより遅く起きて、適当に食事を済ませて洗濯機を回す。
洗い物が済んだら自由時間。
いつか時間ができたら読もう、と積んでいた文庫本と目が合った。

呼吸と空調の音が律動する隙間に、
ページをめくる音がフローリングに静かに積もっていく。
こんな風に穏やかに過ごす時間がすごく久しぶりな気がする。
ややあって、鐘を打ち鳴らすような音と
子供達のわっしょい!の掛け声が窓の外から交互に聞こえてきた。

数年ぶりに地元でお祭りがあるんですよ、と
近所の貸しスタジオの管理人さんが
この街に越してきたばかりの私に教えてくれたことを思い出す。

刺すような日差しの中、遠のいていく夏祭りの喧騒を聞きながら
私は手元の本を頼りに記憶の海に潜っていった。

孤独な遊泳。

ーーー

あなたの言葉にこころを貫かれた。
皮膚の奥まで刺さって抜けないガラス片のように、
今もずっと傷口からは血が滲んでいる。

大切だからこそ、あなたを傷つけてしまったように思う。
だけれど償い方が分からない。あなたも同じかもしれない。

夕陽と一緒にこの水平線に沈んで溶けてしまえたらと、ひとりで訪れた異国の海を見て泣いた。あなたを想った。

叶えたい夢のために大きな決断ができるあなたを、心から尊敬している。
私もそうありたいと、弱気なこころが憧れで打ち震える。

「私にはできない、向いてない」と自分を引き合いにあなたは私を賞賛してくれた。
だけど違う。あなたの痛みをよく知っている。
だからそんな悲しい目をしないで、私とのあいだに境界線を引かないで。

ーーー

ここでの”あなた”は必ずしも同一人物を指しません。

これまで私と関わってくれた、私を知ってくれたあなたや
私自身が残す傷跡からいつまでも目を離せないことが、”私らしさ”なのだと思うのです。

悲しいとか寂しいとか自分が恥ずかしいとか、
そんな気持ちになって涙を流すのは私で最後にしたいと ばかみたいだけど、本気でそう思っています。
そのために生きて踊っているつもりです。
だからこそ、これを読んでくれているたった1人のあなたに向けて
脆いままで踊り続ける独りでありたいと願っています。

「Eraさんには普通じゃない美しさとオーラ、気概があって
それって単に生まれつきのものとかじゃなくて、
いろんな経験をしてたくさんの夜を泣いて死んで生まれ変わって
できていったものなんだと思います」
私にはほんとうに勿体ないくらいの
あたたかい言葉で私を形容してくれた人がいました。
どう生きたらこんな言葉が紡げるんだろうって、
驚きと慈しみの混じった目線で
年下の美しく優しい理解者がくれたメッセージを
何度も反芻して抱きしめて眠りました。

今日もまた鏡に向き合います。
あなたに歓んでもらえる踊りをいつか届けられますように。

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