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いまさらレビューで配置の強者と一刺しの挑戦者による戦いを楽しむ 東京オリンピック スペイン代表 vs オーストラリア代表

スーパーカップが終わり、開幕まであと1週間。
そんなタイミングで昨年のオリンピックを振り返るという、なんとも訳の分からない記事です。
実は、サッカーの分析記事を中心に情報を集約したWindtosh's Cantina を運営するWindtoshさん(@Windtosh)より、同じスペイン人のロティーナさんを監督に抱えるエスパルスレビュアーに五輪スペイン代表の戦いを振り返ってみないかと有難いお話をいただいていたのでした。。
Windtoshさん、遅れに遅れてしまい申し訳ありません。。

気がつけば、ロティーナさんはエスパルスを去り、NHKのオリンピック特設サイトでの振り返り視聴も終わってしまいましたが、サッカーの面白さの詰まった試合でしたので、書いてみたいと思います。
誰かの目に留まりますように…

1.この試合の背景

取り扱う試合は、オリンピックサッカー男子の予選リーグ第2戦。
第一戦でエジプトにスコアレスドローとなったスペインは、初戦を白星で飾ったオーストラリアと対戦。
最終節にアルゼンチンとの一戦を控えるだけに、スペインからすれば、是が非でもでも勝ち点3が欲しい試合でした。

2.スタメン

スペインは4-1-2-3を採用。どの世代でも採用される代名詞のようなシステムです。個人的にはレアル・ソシエダのスピメンディとオヤルサバル、ビジャレアルのパウ・トーレスに注目です。とはいうものの、ククレジャも良かったし、ダニ・オルモも相変わらず上手。ペドリも相変わらず素晴らしい。ということでスペインはタレント揃いです。
オーストラリアは4-5-1を採用。きちんと守備ブロックを組織し、カウンターの一刺しを目指しました。

3.ボールを握り、間に刺す仕組み

試合の殆どの時間で、スペインがボールを保持し、相手の隙を伺う状況が続きました。オーストラリアの4-4-2のブロックの脇を取りに行こうとする位置取りが印象的でした。このレベルになると、後ろの選手がボールを扱うのが上手なので、中盤が不用意に下りてくることもないです印象。

ビルドアップでは、相手中盤と最終ラインの間に立つ、ペドリとソレールにボールを良い形で届けることで、ラインを越えていくことが強く意識されているように感じました。

トーレス、ガルシア共にボールが持てるCBであることもあり、GKも交えながら、ここでボールを落ち着かせます。

トップと両WGは多少下りてくることがあるものの、深さを取る(WGは幅を取る)ことで、オーストラリアの最終ラインを前に出させないよう留める働きをし、中盤のスペースを消さないようにしていました。

また、両サイドバックも初めからあまり高い位置を取らず、あえて低めの位置で構えることで、相手サイドハーフをつり出し、ボランチとの距離を広げようとしているようにも思えました。

アンカーのスピメンディは、時々下りてボールを受ける場面もありましたが、基本的には中央に構え、2枚でのプレスを選択したオーストラリアのツートップを閉めさせる働きをしていました。

それぞれがボールを受けて、確実に次につなげることが出来る技術を持ち合わせていることから、上述のような立ち位置を基本として相手を動かすことで、一歩先をいくボールの動かし方をすることが出来ていたと思います。

最終ラインでは特にトーレスがビルドアップで再三に渡り巧さを見せていました。

ボールを持つ時間があれば、前にボールを運び出し、相手中盤の選手に影響を与え、立ち位置をずらしたタイミングで縦・斜めのパスを刺すのが上手でした。

中盤でパスの受け手になるペドリに対しては、オーストラリア ジェンローが強めにマークにつく意識を持っていましたが、上図の場面でも下がりながらボールを受けると、前向きのスピメンディに落とし、スムーズに反対側へと展開することが出来ました。

オーストラリアも中盤の横スライドを早くしながら、スペインを同サイドに追い込んでいこうとする意図がみられましたが、このような形で素早く展開されるとどうしても対応が後手になってしまいました。

また、ボールを前に運べる局面になれば、特に左サイドのククレジャが高い位置を取り、それに合わせてWGのプアドが内側に、ペドリが下りてトーレスのパスコースを確保する、といったユニットでの連動が綺麗で、相手と味方の位置を常に意識しながらオートマチックに動くことが出来る点が良いと感じました。

この場面でも同じような動きとなりましたが、今度はペドリがあえて背中へのパスコースを空けるようにずれ、トーレスからトップのオヤルサバルまでダイレクトにパスを刺すような場面も見られました。

相手の食いつきを逆手に取り、もうひとつ遠くのパスコースを作り、相手守備ラインを越えていくという、お手本のようなプレーでした。
ボールを受けると、前向きな選手を使い、更に背後へ抜けるという連続的な動き出しを見せたオヤルサバルも良かったです。

4.挑戦者の糸口の設定

スペインがボールを保持し、ボールを失っても即時奪回を目指すという意図をもって試合に臨み、忠実にそれを遂行出来ていた時間が殆どでした。
しかし、オーストラリアもその展開は織り込み済みで、我慢強く守備をしながら、ボールを奪えば、構造的に空きやすいエリアを目指していくという試みに取り組んでいました。

上図はスペインのプレスとオーストラリアが上手くそれを剥がして前進した場面です。スペインは、攻撃⇒守備へのトランジションで、積極的なカウンタープレスからの即時奪還を目指していました。

ボールを失えば、ペドリを前に押し出し、4-4-2のような形でプレスをかけることが想定されており、オーストラリア守備陣がそれほどボールの扱いに優れていないこともあり、多くの場面で再びボールを改修することが出来ていました。

しかしながら、ペドリを前に押し出し、オヤルサバルもプレスに加わり、中継地点となる豪 メトカーフにはソレールが出ていくため、中盤のスペースをスピメンディが一人でカバーしなければならない状況が生まれます。

スペインはオーストラリアの右サイドにボールを押し込めたいようでしたが、オーストラリアもボールを上手く左サイドに逃がすことが出来ると、内側に下りてきた左サイドハーフ アルザニーにボールを当てることでプレスを打開する場面を作りました。

ここにボールが入ると高い位置を取った、ジョエル・キングが加わり、左サイドで数的優位を作ることが出来ており、何度もここを起点にカウンターを作ることが出来ていました。
E.ガルシアの守備対応にも少しだけ弱さが見られたので、ここはオーストラリアが上手く設定を作ったところと感じました。

5.勝ち点を目指したスペースを巡る攻防

後半もボールを保持し、穴を窺うスペインと中央を締め、我慢強く守備をしながら、サイドにカウンターの起点を見出すオーストラリアという構図は続きました。
スペインが先述の形を徹底して作り、攻撃を仕掛けるのですが、形が整いすぎているのか、オーストラリアも徐々に守備対応に慣れてきた感もあり、とても固い時間が続きました。

残り20分となったあたりで、オーストラリアは更に割り切った方針を取ったのか、守備組織を5-4-1に変更し、5レーンに選手を立たせるスペインに対してそれぞれのレーンをきちんと埋めるようになりました。

オーストラリアは中盤4枚もきちんと距離感を保ちつつ、その脇に立つCHにパスが通された場合にもCBが迎撃することで対応し、スペインの侵入を防ぎました。

一方で、スペインも迎撃に出てきたCBが空けたスペースを上手く使いながら、相手DFラインを動かして、中央のバイタルエリアで上手くボールを受ける場面を何度かつくっており、対応力と上手さが光りました。

オーストラリアが粘り強い守備へのご褒美を得るかと思われた最終盤に、スペインは、トップを1枚加えて、2トップに。最終的には左サイドのクロスから喉から手が出る程ほしかった得点を奪い、辛くも勝利しました。


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