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戸隠・白馬の旅

地元の幼馴染に思いがけず声をかけてもらい、盆休み前半の週末を利用して、長野県は戸隠・白馬エリアへ2泊3日の旅行へ行ってきました。たくさん森を歩いて良いリフレッシュになったので、その記録です。

金曜の夜に、友人の運転で東京から関越~上信越道を経由してまず長野へ行き、駅前のビジネスホテルで一泊。帰省ラッシュを避けての前乗り計画は実際有効で、関越に乗ってしまえばほとんど渋滞もなく、途中SA休憩を挟んで4時間程度での到着でした。

わりと開けていて朝晩賑やかな長野駅前

戸隠神社・五社めぐり

翌朝の快晴を受け、予定通り朝イチで戸隠神社に向け出発。長野駅から車で45分ほどの山中にある「宝光社」を起点に、「火之御子社」「中社」「九頭龍社」「奥社」の5社からなる神社を徒歩でお参りする「五社めぐり」にチャレンジします。この参拝に特に決まった順番はなく、全体の所要時間は概ね4時間くらいからといったところですが、なにしろちょっとした山登りであるので、それなりに歩く用意はして行きました。

最初の宝光社をスタートしたのが8時15分。ここにまずさっそく直線状の長い階段があり、険しい形相の狛犬から心構えを試されるところです。

宝光社(朝早いためまだ閉まっていた)

そしてここから中社までは、道中もっとも人の気配のない山道を行くことになります。標高1,200mを超えるエリア。気温は都会に比べるとさすがに涼しく、体感にして30℃に届かないくらい。そのうえほとんどの道中が木陰であるので、暑さゆえのしんどさはまったくありませんでした。もちろん、帽子やサングラス、日焼け止めなどの日常の対策はしたうえでの話。

それよりも恐ろしいのは、熊! 最新のツキノワグマ出没マップが県によって提供されており、それによると長野県全域でほぼ毎日何かしらの報告がある。実際に上記のような注意標識を頻繁に見かけるほか、道沿いに点々と備え付けの熊よけの鐘があって、参拝者は都度その鐘を打ちながら歩くのです。今回は友人が携帯式の熊よけ鈴も用意してくれて、それらをチリチリカンカン鳴らしながら行く。

道中ほぼ誰ともすれ違わず、不思議と鳥の鳴き声すらも控えめで、鬱蒼とした藪の向こうからいつ熊が飛び出してきても不思議ではない雰囲気に、緊張を感じながら。もし実際に遭遇してもどうしていいかわからない。ゴールデンカムイとダンジョン飯の知識しかない。そうした緊張感を差し引いてもなお朝の森の空気は心地よく、まだまだこのあたりでは体力的にも余裕がありました。

途中で分岐した先を少し行くと火之御子社。戸隠の五社はいずれもどこか直線的な力強さと年月を経た趣があり、独特の渋みを感じました。そもそも「戸隠(とがくし)」とは、その名の示す通り天岩戸伝説ゆかりの神々を祀った神社で、明治以前には神仏に修験道をも習合した長い山岳信仰の歴史を持つのだそう。

中社に到着したのが9時前ごろ。ここが五社のなかで最も大きなお社で、大鳥居の周辺にはちょっとした旅館、土産物屋、そして多くの蕎麦屋が立ち並ぶカジュアルな観光エリアになっています。ここから先は長い。

隣の山の稜線が雲に隠れて見えない
奥社参道入口の大鳥居

奥社へと向かう参道の入口はたいへんよく整備されていて、ほぼ直線の広い砂利道になっています。ここもほとんどが木陰で、ゆるい上り坂とはいえ歩きやすかった。ただ、途中から徐々に視界の両端を屹立する杉の巨木が占めるようになり、随神門へ辿り着くころには周囲の様相は一変している。

この門はちょっと異様なほどの存在感を放っており、屋根に生い茂る緑も相まってまさしく霊験あらたかなる雰囲気。この門を抜けると、さらに樹齢何百年クラスの巨木がまるでパルテノン神殿の柱廊のように迎える参道へと続いていきます。ここまで来ると、神仏を崇めないまでも何らかへの畏怖に打たれるスケールの大きさ。

参道は行くごとに細くなり、終盤は息を切らして一歩一歩と腿を強いて持ち上げるような険しい岩場の階段が続く。さほど長い距離ではないものの、それなりに足腰に自信のある人でないと厳しいかも、と思えるガチめの登山道になっていきます。

九頭龍社および奥社へ到着したのは10時半ごろ。スタートの宝光社から足かけ2時間強、歩数にして9,000歩の道のり。ここの2社は同じ敷地内にほぼ隣接していて、控えめな佇まいながら山への信仰の歴史を感じさせる存在感に満ちています。奥社周辺の標高は1,350mであるとのこと。この時間帯ともなると、さすがに参拝客で賑わっていますね。

参拝を済ませ、来た道を戻る途中で、中社への途中にあるお蕎麦屋さん「極楽坊」さんで昼食。素敵な囲炉裏の席へ通され、蕎麦と野菜天、それに甘いトウモロコシの天ぷらを味わう。なんでも戸隠の標高では稲作ができないため、神事に必要なご飯の代わりに蕎麦が重用されるようになったのだとか。実際に道中でも蕎麦畑を見かけました。こういうちゃんとしたお蕎麦も久しぶりに食べたな。

はじめの宝光社の大階段に戻ってきたのがちょうど13時ごろ。歩数もそのまま往復18,000歩というところで、アップダウンもあり、日ごろの運動不足の身にはそこそこ負荷のあるウォーキングになりました。良い経験でした。

白馬村

そこから西の白馬村へ移動して、この日の宿「細野館」さんにチェックイン。白馬八方尾根へ向かう入口にある旅館のひとつで、山岳レジャーやウィンタースポーツの盛んな白馬のなかでも、特にサイクリストに人気の宿であるようです。入口にそうした設備や展示があるほか、マウンテンバイクレンタルなんかもやっている。部屋からは、長野オリンピックのときのスキーのジャンプ台がよく見えます。

かけ流しの温泉は、強いアルカリ性で透明度は高く、匂いも強くないのにオイルのような滑らかな手触り。足腰の疲れに効く!

夕方から夜にかけては、近隣の施設ウイング21文化ホールで行われている「白馬国際音楽祭」へ参加しました。ここ白馬で、なんと足かけ29年間にわたって開催されているクラシック音楽祭。今回の旅は、もともと友人のご縁でこのコンサートの鑑賞を目的としたもので、3日間開催の最終日に参加した形です。

この建物も長野オリンピックのレガシーのひとつ

演者はいずれも海外から招聘された音楽家たちで、主にソプラノ、ピアノ、弦楽四重奏とそのバリエーションによる演目を中心に、ロマン派以降の作曲家モーツァルト、ドビュッシー、リヒャルト・シュトラウス、ラフマニノフなどの小品を取り上げていました。わたしはクラシック好きでもこのへんまったく明るくないため、新鮮に楽しめた。特に最後に演奏されたシューマンのピアノ五重奏曲Op.44は、バッハからの影響を強く感じるロジカルとパッションが同居した力強い音楽で、初めて聴いた気がしなかった。このへんももっといろいろ聴いてみたい。

終演後は、演者と観客の別なくケータリングの食事が振舞われるなど、音楽祭というよりもどことなく村のお祭りに近い雰囲気もあり、地方にはこういったクラシック音楽祭もあるんだなと感心しました。

大町・鷹狩山展望台

明けて日曜日、帰路のプランを練りつつの朝食は、ザ・旅館の朝食という感じでとても良かった。めちゃめちゃ量多いとかじゃなく、これくらいというのがむしろ白馬のガチのアウトドア客にウケるんだろうと思います。

9時過ぎに白馬を発ち、少し南下して大町市の鷹狩山に立ち寄ることに。縦に長い松本盆地の北端を見下ろすことができる展望スポットです。駐車場に着くと、さっそく熊注意の看板が。やはり朝早いためかこの辺りもまた人気が少なく、それなりに整備された森林公園とはいえ、いかにも遭遇しそうな感じ…。

頂上はなかなかの見晴らし。この日は低い雲に隠れてしまっているものの、遠くに北アルプスの険しい山々を望み、眼下にはのどかな田園と街並みが広がる。近くには年季の入った鉄骨組みの展望台もあって、階段を上るとさらに一段高い景色を見ることができました。

帰り道、安曇野の大王わさび農場に寄るという案もありましたが、街道から入る交差点の手前で既にして駐車待ちの列ができており、さすがに今回はパス。しかし車窓から眺めた高瀬川の清流は見るからに透き通って美しく、サントリーの北アルプス天然水を採取する工場が先ほどの大町のあたりにあるというのも納得。子供時代にこういうところで川遊びしてみたかったな。

全日、気候に恵まれた良い旅でした。平地はともかく、やはり戸隠・白馬のあたりともなると関東とはまるで空気が違って、過ごしやすかった。運転から宿の手配に至るまで、何から何までコーディネートしてくれた友人に感謝。今年の夏の思い出のひとつです。

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