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#テクノ10選

クラブミュージック系YouTuberのモリモトさんという方の動画がきっかけで、TwitterのDJ・リスナー界隈で #テクノ10選 というハッシュタグがちょっとしたムーブメントになっていました。

まず、DJ Fulltonoさんが取り上げるまでこのチャンネルを存じ上げなかったのですが、日本語で、かつ動画の形でこういったニッチ文化の情報発信をしている方って少なくて(というかほとんどいないはず)、他の動画も興味深く視聴しました。すごい!

でなんか、要はオールタイムベストみたいなことなんだけど、ざっとタグ検索結果を眺めてみるとこれがおもしろい。例えば有名DJのチャートとかは見るけれど、一般のリスナーも含めてどういう曲が人気なのかを横断的に知る機会って普段はそうそうないし、数十年スパンでの個々の楽曲への思い入れとなると、それはもう様々なわけで。相互フォローみたいな友達DJの好きな曲はだいたい知ってるけれど、特に何の繋がりもないテクノファンの好きな曲、わたしはけっこう興味ありますね。

昔はテクノにも「流行ってる曲」があった

思えば、「この曲流行ってるな~!」みたいな肌感覚があった時代はずいぶん遠くなってしまった。90~00年代はそれこそ、レコード屋へ行けばポップで大きく取り上げられているとか、探したけど売り切れてるとか、専門雑誌のチャートにでかでかとレビューが載ってるとか、はたまたパーティーへ行けば「またこの曲かかってる」みたいなことがあったものだけど、ここ十数年でテクノというジャンルの細分化がものすごく進んでしまって、今はなんだかみんな違う曲を聴いていて、違う曲をヤバいって言っている。

これは別に悪いことではなくて、テクノの音楽性の深化と多様化の産物なわけだから、インド・ヨーロッパ語族が英語だのフランス語だのに分化していって互いに言葉が通じなくなったのと同じようなことなのだと思います。だからもちろん、テクノをもっと細かいジャンルに区切っていけば、その時その時の界隈で流行ってる曲は今も当然ある。

おもしろいのは、昔よりも格段に情報のシェアがしやすくなっているのに、このサブジャンル間隔絶の広がりの速度のほうが圧倒的に早いということ。昔ってネットの試聴の音質はReal Playerとかでガビガビだったし、気になる曲があってもShazamもYouTubeもなかったけれど、それでも「流行りの曲」を通した共通体験ができていた。WIREみたいな何万人も集まる場所で何度もかかる曲は確実に流行ってると実感できるみたいな部分もあったかも。

今回、みんなのテクノ10選を見ていると、やはりこういった「流行ってる曲」があった時代のものが多くて、単純にこのころは共通言語があったなというようなことを感じました。

わたしのテクノ10選

自分のチョイスはというと、これです。

ぱっと思いつくもので、特に好きな曲だけピックアップしたので、また違う機会に選んだら違う結果になりそう。テクノ史的に大きな意味合いのある曲もあるし、そんなに有名じゃないけど個人的に好きなだけというのもあるから、あくまでわたしが選ぶならという10曲です。

Ken Ishii - Extra

過去に何度も書いているけど、やっぱ高校生のときに出会った"Extra"の魅力は語り尽くせない。電気グルーヴのラジオでケンイシイさんのことを知って、学校の近くのCD屋でアルバム"Jerry Tones"を買ってきて1曲目の衝撃。それまでに聴いたどの音楽とも違って、時間軸を斜めに跨ぐ未来から届いたみたいな電子音のオーケストラの虜になった。

Laurent Garnier - Crispy Bacon

音楽でアガる昂揚感というのは、なにもメロディーとかだけじゃなくて、モコモコした音がビキビキになったりするだけで発生するんだなって思った。90年代後半に加藤賢宗さんがJ-WAVEの夜中にテクノの専門番組をやっていて、FAXでこの曲をリクエストしたの今でも覚えてる。

Surgeon - Badger Bite

サージョンの音楽にも、この記事のアイキャッチ画像にした"Magneze"を始めとして思い出のレコードがたくさんあるんだけど、一番攻撃的で好きだったのはこれかな。Downwardsはみんな好きだったから、リージスもフィーメイルもデジタルリマスターが出ていてうれしい。

Cristian Vogel - Time

クリスチャン・ヴォーゲルは何で知ったのだったか、このアルバム"Absolute Time"も高校生のころの愛聴盤でした。No Future界隈はみんなこぞってシンセで変な音を出していて、かつ実験音楽じゃなくて一貫してダンスミュージックだったから大好きだった。リマスター助かる。

Hardfloor - Fish & Chips

アシッドの名曲もたくさんあるなかで、ひとつ選ぶならこの曲。2000年に清里で開催されたDiscoveryという野外レイヴにハードフロアが来たんだけど、その前にDJをしたQ'Heyさんがこの曲をかけてたの覚えてる。

Adam Beyer - Drumcode 15 A1

初期のドラムコードです。ジェフ・ミルズはこの10選には入れていないけど、わたしが好きだったハードミニマルって、要するにそのチルドレンの音楽なのです。ヨーロッパから持ち込まれたミニマルテクノが、バーミンガムとかストックホルムとかナポリでそれぞれに化学反応を起こした。レコードに曲名も何も書いていなくて、アーティスト名と番号だけ書いているみたいなのが超絶クールだった。

Cari Lekebusch - Attitydsknäckaren

カリ・レケブシュのこの2LPは本当に全曲すごくてぶっ飛んだ。以来ずっとファンです。ドラムコードの10番が人気なころ全然買えなくて、これがテクノの流行りなんだって思った(2000年ごろのリプレスでやっと買えた)。

Hardcell - The Draughtsman

この曲との不思議な馴れ初めは下記の記事に書きました。今みたいにYouTubeに古い曲が上がったりしていなくて、Discogsの情報も断片的で、知らない曲ばかりだった時代。Mayuriさんその節はありがとうございました。

Planetary Assault Systems - Voodoo

ルーク・スレーターはとにかく多作だったから、当時そんなに好きな曲ばかりだったわけではないけれど、ClementineとかこのP.A.S.名義とかでもたまに脳内麻薬ドバドバ出るみたいなむちゃくちゃ刺さる曲があった。

Stigmata - Stigmata 8 B1

Stigmataの10番まではハードテクノ先鋭化の軌跡そのもので、クリス・リービングがAudioとかCLRでやっていた硬いストイックなミニマルが、もっと過激な音圧と暴力を獲得していくみたいなバブルの同時代性を実感できた。だから、そんなバブルが弾けたときのこともよく覚えています。

いまの曲も買ってます

今回は別に、「昔は良かった」みたいな懐古記事を書きたかったわけじゃなくて、ハッシュタグ企画(と元動画のアイデア)がおもしろかったので便乗したというだけで、90年代から今に至るまでずっと絶え間なくテクノは好きだし、買ってます。noteでは「テクノ新譜試聴メモ」マガジンとして、毎月買った新曲のレビューもしています。

こんなご時世だから遊びに行きたくてもクラブには行けないけれど、相変わらずやってます。サヴァイヴしていきましょう。

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