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テクノ新譜試聴メモ

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2018年創刊。20年来のテクノDJである筆者が、Beatportの新譜リリース情報を中心に、BandcampやSoundCloudを含めて気になる新曲をピックアップして紹介する… もっと読む
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記事一覧

新譜"Code Grey EP"をリリースしました

12月24日、Bandcampでおよそ9年ぶりとなる自作曲3曲を収録したEP作品をダウンロード配信しました。ジャンルはテクノです。 わたしは高校生のころ(90年代)からアマチュアで音楽を作り続けていて、その活動は断続的であるものの、基本的には途切れず続いてきました。2012年には「Body Inform(ボディ・インフォーム)」というレーベルを始めて、物理CDアルバムを作って同人音楽イベント「M3」などにも参加していたのですが、しかし14年に3枚目のアルバム"Nightse

テクノ新譜試聴メモ:2023-11

Dejan (SE) - Yeux Vides [Binary Cells]Dejan (SE)、このアーティストはすごい! フランスのダーク系テクノレーベルBinary Cellsから11月に出たこのV.A.盤で初めて存在を知った。スウェーデンのプロデューサーで、Illusoriska Takterという自分のレーベルからのみ淡々とリリースを重ねてきたらしい。こんなの見つけようがないよ。 この曲もそうなんだけど、確かなサウンドデザインの骨太のテクノを基調としつつ、複数の要

テクノ新譜試聴メモ:2023-10

10月の話題。あまり戦争のことは進んで書きたくはないけれども、やはり10月7日の朝にイスラエル郊外で行われたサイケデリックトランスのフェスで起きたことはショックでした。遠い国での出来事とはいえ、ピースフルな野外レイヴの会場が標的にされたことは、なにか我々と地続きのところで起きているという実感のようなものがありました。 特に、現地にいた日本人DJのSPECTRA SONICSことMASAYAさんのYouTubeでの帰国後の証言(イスラエルへDJしに行き戦争に巻き込まれた件につ

テクノ新譜試聴メモ:2023-09

PWCCA - Telepathy [Signal]スペインのPWCCAの新譜がDrop-EのレーベルSignalから。シリアスなヒプノ系ダークテクノ6曲入りEPのなかで、Downwardsっぽい雰囲気のある歪んだアルペジオのリフがかっこいいこの曲が推し。6拍のループが絶妙な前のめり感を生んでいる。最小限の抜き差しはあるのであとはDJでうまく使ってねという感じです。 Developer - Cobra Groove [Developer Archive]相変わらずのハイペー

テクノ新譜試聴メモ:2023-08

Beatportの楽曲単価が8月14日から値上げしました。mp3の通常楽曲単体が1.29USD(189円)から1.69USD(247円)へ。2005年のサービスイン以来初めての価格改定とのことで、最近また大幅なサイトリニューアルもあったし致し方なしという感じもありますが、このところの円安に輪をかけて厳しくなりますね。せめてアーティストにきちんと還元されるならいいのだけど。 8月はこんな記事も書きました。 この記事は以前、あるきっかけでハードテクノに関する個人的史観をまとめ

テクノ新譜試聴メモ:2023-07

Mark Broom - Hardgroove 4 Life [Beard Man]タイトルも熱いんだけど、なんと21年越しのRue East "Birmingham"ネタ!(Rue EastはMark BroomとDave Hillのユニット)しかもリミキサーにかつてと同じBen Simsを迎えるという力の入れよう。オリジナルの怪しげなメロディーをさらに刻んで、モダンなアレンジに仕上がっていました。 よほどHardgrooveに思い入れが深いのか、最近もあからさまにオール

テクノ新譜試聴メモ:2023-06

6月はSamuraiからMike ParkerやReekoがEPを出していて、このへんのジャンルレスで混沌とした感じはいよいよ面白いなと思います。 今月は少なかったので手短に。 VSK - Sfere a Contatto [47]Tommy Four Sevenによるダーク系テクノレーベル47からVSKの新譜。飛び交うシリアスなノイズと跳ねたグルーヴがかっこいい。どの曲もいいけど1曲目と2曲目の、空間的な広がりのある豊かな低域の処理がすごい。 Mattias Frid

テクノ新譜試聴メモ:2023-05

5月にリリースされた新曲より。 Lenny San - Acryl [Planet Rhythm]Planet Rhythmの新人アーティストLenny SanのソロEPから。BPMは140行ってるけど全体を通してダウナーでダビーな雰囲気がいい。太く潰れたコンプレッション感やほどよくエモーショナルなパッドの空気が、昔のJoel Mullのようなノリで好みです。 Stanislav Tolkachev - Pockets full of lighters [Mord]Mor

テクノ新譜試聴メモ:2023-04

4月に観たテクノ関連のドキュメンタリー映像作品の話題から。 4月2日にYouTubeで全編無料公開されたageHaのドキュメンタリーがとても良かった。クラウドファンディングにより制作されたもので、なぜこんなに巨大なクラブが東京で20年間も続くことができたのか、その足跡を追いつつ特にクローズ前の最後の1か月間にフォーカスした内容。非日常の遊び場であったあの場所の裏側に、多くの人の仕事と人生があったのだなということが端的に伝わる作品でした。 こういうの、ややもすると単なる内輪

テクノ新譜試聴メモ:2023-03

90年代からBen LongとのタッグやBanduluなどとしてUKテクノを牽引してきたJamie Bissmireが、自身のレーベルGroundを率いてBandcampやTwitterで活動を再開したとの報せ。同時に20年以上ぶりのレーベル新作"The Old Stones"が発表されています。 わたしはソロ作もだけどSpace DJzのファンだったからシンプルにうれしい。確かにここ数年、名前を見かけないなとは思っていました。Groundレーベルからは今のところ過去作のデ

テクノ新譜試聴メモ:2023-02

近年のテクノシーンにおいて実感されるBPMの高速化について考察したMixmagの記事が面白かった。 ポスト・パンデミック時代を迎えたユースカルチャーの変化を、そもそもの90年代初頭のUKレイヴシーンを巡る経済的な側面を踏まえて比較していました。また、00年代に起きたミニマル・テックハウス回帰を念頭に、速くなったり遅くなったりが時代に応じて繰り返されるのかについても。 わたしもやはり、以前からダンスミュージックにおけるBPMの速さと「若さ」の間には一定の相関があると感じてい

テクノ新譜試聴メモ:2023-01

2023年1月の新譜チェックです。 日本を代表するDJ Shufflemasterさんの2001年の名作アルバム"EXP"が、オリジナルのレーベルであるTresorから装いも新たにリイシューされました。22年ぶり! オリジナル盤に収録されている全曲に加えて、Angel Gate EPからSurgeonのリミックスを加えた3曲、"Innervisions"のパイロット版などを盛り込んだ全17曲の決定版。わたしは本作は、ある意味でテクノの「完成形」のひとつと考えています。抜群

テクノ新譜試聴メモ:2022-12

例年12月は各レーベルのベスト的なリリースが多く、新譜は少なめ。 WHT MOTH - Zagara [Eram]イタリアのEram Recordsのコンピに寄せたWHT MOTHの新曲がカッコ良かった。ノイズを生かした、ロウな質感の陰鬱で内省的なグルーヴ。裏拍から入る前のめりなシーケンスの組みかたも良く、ブレイクで効果的に弾けている。 Maxime Dangles & Voiski - Composite [Skryptöm]フランスのSkryptömレーベルの15周年

テクノ新譜試聴メモ:2022-11

少し遅くなったけど11月発売分の新譜チェックです。今月は多い! Stu Earnshaw - Desire [FLASH]Florian MeindlのFLASHレーベルから新人のStu Earnshaw。シャキシャキした縦ノリのグルーヴに、エッジの立ったボイスサンプルとギラギラしたシンセの応答が楽しい。シンプルながら一度聴いたら忘れられない存在感のあるトラック。他の曲もなんか攻撃的でロウなハネかたをしていて良い。 Oxygeno - Vertigo [Lost Vers