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『ニンジャスレイヤー』の漫画を読み終わったら

先日まで、KADOKAWA版漫画『ニンジャスレイヤー』の電子版全14巻がAmazon、DMM、BOOK☆WALKERほか各プラットフォームで破格のセールを行い、話題になっていました。

この漫画版は、いくつかある同作の公式コミカライズのうち、最も原作小説に忠実な脚本に基づいて制作されているシリーズ。第1部を中心とするエピソードからの抜粋で、作中時系列の順序はバラバラの単話完結オムニバス方式、ときに未来の話となる第2部のエピソードさえ含まれてはいますが、最終的に第1部ラストシーンまでが余すところなく描かれ、シリーズ作品としてきれいに完結しています。

もしここから初めて『ニンジャスレイヤー』の世界を覗いてみるなら、おすすめはまず1巻、次いでニンジャスレイヤー誕生のいきさつが丹念に描かれるエピソード「メリークリスマス・ネオサイタマ」を完全収録した8巻でしょうか。いずれにしても、どれも異なるキャラやテーマを扱った連作ですので、この機会に14巻全巻読破をおすすめしたいところです。スピード感あふれる激しいアクション描写を伴う作品なだけに、世界観にハマれれば案外するすると最後まで読めてしまうと思います。

この記事では、そのようにして一気に漫画を読んでしまったニンジャヘッズ(ニンジャスレイヤー読者、あるいは作品のファンのことをそう呼びます)が次に何を読むべきか、余計なお世話ながら同じニンジャヘッズの視点から若干の補足をしてみたいと思います。ここまで来たら迷ってほしくない!


漫画の続きを読むなら

まず、この漫画版が気に入った方にぜひおすすめしたいのが、同じ作者陣による『ニンジャスレイヤー』第2部「キョート・ヘル・オン・アース」編。これは完全に同じノリの、続きのシリーズです。

執筆陣はそのままに、掲載誌をKADOKAWAのコンプティークから秋田書店のチャンピオンREDに移して続いているもので、惜しくも今回の期間限定セールの対象ではありませんが、現時点で13巻まで出ています。つまり14巻+13巻で、このシリーズだけで27巻続いていることになります。

第1部ラストで宿敵ラオモト・カンをトコロザワ・ピラー天守閣上の戦いにて打ち倒し、復讐を遂げたニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジ。しかし、あの日のスゴイタカイ・ビルでの抗争を巻き起こした妻子の仇は、ソウカイヤのニンジャだけではなかった…。キョートに暗躍する闇のニンジャ集団「ザイバツ・シャドーギルド」を追い、ニンジャスレイヤーは新幹線に乗って単身キョートへ向かいます。

第1部「ネオサイタマ炎上」編がソリッドな復讐劇だとすれば、第2部キョート編は推理・探索要素を含む冒険小説の雰囲気があります。縁もゆかりもないキョートにおいて、ニンジャスレイヤーはいかにして実態の見えないザイバツのニンジャたちに立ち向かうか。探偵タカギ・ガンドーやシルバーキーといった協力者を得て、情報を辿りながら、十数層からなるメガロ階層都市「ガイオン・シティ」を巡る新たな戦いが描かれます。

このキョート編コミカライズの特徴として、今まで以上に連作としての趣が強く、長大な原作小説のエピソードをうまくかいつまんで繋げている点が挙げられます。なので、単純に1巻から読み進めて行けば100%お話が理解できる構造になっています。

連載最新話の進捗としては、ある意味でフジキドらの戦いの分水嶺となる重要なエピソード「リブート、レイヴン」「シージ・トゥ・ザ・スリーピング・ビューティー」が完結し、これからいよいよ最終局面に向かって動き出すかというところ。終盤エピソードは特に濃密なため、まだまだ先は長いのですが、この完璧なコミカライズがラオモト戦と同じように第2部最終章までを描き通してくれるよう、連載を応援していきたい。

ちなみにここ数年、この秋田書店版のコミックの新刊が出るたびに、翻訳チームの杉先生と本兌先生、コミカライズチームの田畑先生と余湖先生によるXのスペース(音声配信機能)を使ったトーク配信が行われることが半ば恒例となっています。漫画出るたび毎回、作者自ら1ページずつオーディオコメンタリーがあるのすごくない? 福利厚生が行き届きすぎている。漫画しか読まないよという方も、こうした突発イベントのためにもぜひ原作小説のXアカウント@njslyrをフォローしてみてください。

原作小説を読むなら

さて、しかし漫画を読んでニンジャスレイヤー世界に親しんだ方に、何と言ってもおすすめしたいのが原作小説です。謎めいた2人のアメリカ人、ブラッドレー・ボンド氏とフィリップ・ニンジャ・モーゼズ氏の原作による小説『ニンジャスレイヤー(Ninja Slayer)』は、2010年7月より日本の翻訳チームによりTwitter(現X)上で連載が開始され、13年を経た現在もなお途切れることなく最新話が連載され続けています。

ー「エピソード一覧/公開順 - ニンジャスレイヤー Wiki*」

原作小説は、第1部から第3部までがひと続き(三部作=トリロジー)になっていて、続く第4部に相当するシリーズは「エイジ・オブ・マッポーカリプス(AoM)」という独立した連作として書かれています。また「AoM」からは、公式にはもはや第〇部という言い方をしておらず、連続ドラマのようなシーズン制を取っていて、現在までにこのうちのシーズン1からシーズン4が完結しています。

2016年のトリロジーの完結から始まったAoMの通算連載期間は、すでにトリロジーのそれを超えており、仮にシーズン制を部に例えるならば、通算で第7部まで終わっていることになります。前述のとおり、漫画版の現在地が第2部の半ばであることを踏まえると、この先にどれだけ長大な物語が控えているかが伝わるはず。とにかく、めちゃくちゃあるし、無限に生まれ続けているのです。

しかしひとまず、フジキド・ケンジ=ニンジャスレイヤーを主人公とする三部作は完結しています。これを読むなら、Twitter連載分のアーカイブが公式note上にまとめられていますので、連載されたすべてのエピソードをここから読むことができます。無料です。

ほとんどが独立した短編エピソードの集まりなので、上から順に読んでもいいし、気になるタイトルのものだけつまんで読んでもいい。漫画で既に読んだエピソード、例えば第1部の「キルゾーン・スモトリ」や「ラスト・ガール・スタンディング」の原作を追ってみて、アトモスフィアの違い、あるいは漫画の再現度の高さに注目してみるのも楽しいかもしれません。

noteで長い文章を読むのが億劫ならば、有志ニンジャヘッズがTogetterにまとめてくれたエピソードまとめを、非公式リーダーアプリNJRecallsiOS
Android)を経由してスマートフォンで読むのもおすすめです。こちらも全話を無料で読むことができます。

また、三部作はKADOKAWAより全21巻で書籍化されていますので、紙の本、または電子書籍で読みたいという方はこちらがいいでしょう。

【12月12日追記】渡りに船とばかりに、21日までの期間限定で、原作小説全21巻の合本版が半額となるセールが始まってしまいました。追加でポイント還元を併用できるストアもあるようなので、この機会に検討してみてもいいと思います。

一方、三部作は敢えて後回しにして、最新シリーズである「AoM」からトライしてみるのもおすすめです。こちらは、三部作の時代から10年ほど経過したネオサイタマが舞台で、我らがニンジャスレイヤーはフジキド・ケンジではなく、20代の青年マスラダ・カイへと代替わりしています。

先に触れたように、いまAoMはちょうどシーズン4が終わった連載の切れ目で、続くシーズン5の翻訳開始が2024年1月からと予告されています。そのため、このタイミングで飛び込むのはちょうどいいかも。@njslyrをフォローして新シーズンが始まるのを待っていてもいいし、シーズン1の第1話から読んでみたいという方はとりあえずこの話を読んでみてください。

AoMは現時点では書籍化されていませんので、もしここから読むなら、前述のNJRecallsアプリでTwitter連載のログを読むか(無料)、加筆修正を経た完全版であるnote版をサブスク制の公式メンバーシップ「ニンジャスレイヤーPLUS」で読むか(月590円)のシンプルな二択になります。どんな話があるの、というPLUSの目次は下記の記事から。

AoMでは、フジキドをはじめ、サワタリやスーサイドやヤモトといったトリロジーでおなじみのキャラクターたちのその後についても大いに語られていますので、もし主人公が変わってしまって敬遠している方がいるとすれば、そのご心配は無用です。ニンジャスレイヤーを読み込んでいてもいなくても、前提知識なしで十分楽しめる作りになっています。例えば、カナダでインターネットを禁止している四本腕の明智光秀の話を読みたい方は、シーズン3「ネザーキョウ編」から読んでみてください。

原作小説はまだちょっと…(?)

原作小説、ちょっと読んでみたけど独特の文体が合わないかも…という方がたまにいるみたいなのですが、尻込みしてしまう気持ちも少し分かる。わたしも「(これまでのあらすじ)」で始まる「ゼロ・トレラント・サンスイ」を初めて読んだときは、困惑のほうが大きかった。もう、その感覚が思い出せないほど遠い昔のことですが…。

そしてそんな方にこそおすすめしたい、圧倒的な答えがこの単話完結、書籍化もされている長編読み切り小説『スズメバチの黄色』(2019年)です。

この作品はタイトルのどこにも「ニンジャスレイヤー」とは書いてありません。が、同じ作者陣によって、同じネオサイタマを舞台としたれっきとしたスピンオフ小説。なおかつ、いわゆるニンジャスレイヤー的な文体を一切使わずに書かれている異色の作品です。

主人公は、渾崎(ケオサキ)で暮らす駆け出しのヤクザ火蛇(カジャ)、ハッカーの大熊猫、そしてニンジャスレイヤー第一部で散ったあのラオモト・カンの息子老元千葉(ラオモト・チバ)。本編と重なる部分はありつつも、まったく新しい視点から異なる筆致で描かれるネオサイタマの姿は、漫画で既にこの世界に触れたヘッズの方にも新鮮に映るはず。最近の作品だと「サイバーパンク エッジランナーズ」にも通じるような、ギラギラと血生臭く、そして若々しく躍動する近未来世界として、魅力的に描かれています。

またその表現はとても映画的・映像的であって、ニンジャスレイヤーの原作小説が指向する美学、あの圧縮文体に詰められた解像度が、いわば「解凍済み」のものとして出てきます。その意味でも、原作小説入門としておすすめできます。

もちろん、小説のほかにも、別バージョンのコミカライズもありますし、アニメやオーディオドラマもあるから、興味のあるところから掘り下げてみるのもいいと思います。最近だと10月にTRPGのルールブックも出ましたね。

でもやっぱり、ニンジャスレイヤーに興味を持ったからには原作小説を読んでほしい…。それも、タイムラインに流れてくる最新の連載を読んでみてほしいという思いがあります。ニンジャスレイヤーを、かつて流行ったインターネットミームとしてではなく、ライブハウスめいた熱狂のなかで今まさに紡がれている物語として!

ひとまず、現在の連載状況がどんな感じかざっくり知りたいという方には、2022年に書いたこちらの記事が参考になると思います。

Twitter連載のおもしろさについては以下の記事で書きました。

以上です。ニンジャ実況タイムラインでお会いしましょう👋


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