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【イベント】MJ’s FES みうらじゅんフェス!

川崎市市民ミュージアムで開催されている企画展『MJ’s FES みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958』へ行ってきました。みうらじゅんさんの全仕事、決定版と言っていい充実した展示でした。昔からのコアなファンのみならず、絵・文章・音楽、なんでもいいけれど、何かを作って自己表現することでオンリーワンになりたい人は絶対見に行ったほうがいいです。

会期は3月25日までで、会場の川崎市市民ミュージアムへは武蔵小杉や溝の口からバスのほか、武蔵小杉や武蔵中原から歩いてもそう遠くはありません。

自分はというと90年代からのみうらさんファンで、最初に知ったのは宝島VOWみたいな本だったかザ・スライドショーだったか…とにかく高校生のころにみうらじゅん的価値観の洗礼を受けて、以降なんとなくずーっと、著作やメディア出演などの動向が気になるみたいな程度のライトなファンです。

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ナチュラルボーン編集者

展示は2つのエリアに分かれていて、ひとつはみうらさんの小学生時代からイラストレーターとしてデビューするまでの作品を中心に、主に青年期までの創作の歴史を辿るエリア。ここがまず常識を疑う量の展示で圧倒される。

というか、自分もそうだけれど、子供のころお遊びでナントカ新聞や漫画雑誌を作ったりするのって誰でもやると思うんです。みうらさんの作品作りもご多分に漏れずそういうところからスタートするわけで、最初はまあ「あ~あるある」って感じなんだけど、見ていくにつれて「いや、多いよ!」みたいな。こちらの心の許容量を超えてくる。しかも普通こういうのって、大人になるまでに恥ずかしくなって捨てちゃったり、処分したりとかするじゃないですか。全部残っているんですね。

でいて更に特徴的なのが、そういった落書きや散文が、一つ残らず「本」というフォーマットになっている。表紙がついて、扉があって、本文があって、後書きがあって、奥付があるみたいな。その体裁に異様なこだわりが感じられる。ただ描きたい/書きたいからとか、ましてや上手くなりたいから練習のために…ということではなくて、初めから人に見せることを前提として作られている。これってどっちかというとアーティスト気質というよりかは、編集者的なこだわりだと思うのです。

怪獣スクラップ、仏像スクラップをはじめとするスクラップブック作品にしてもそうで、見せたい要素を抽出してグループ化したり、そこに絵やテキストを足すことによって新しい価値を与える、という、そういうまさしくみうらじゅんという人の作品の本質と言える編集・キュレーション活動が、小学1年生から還暦のいまに至るまでほとんど何も変わらず、首尾一貫していることにめちゃくちゃ感心します。三浦純は、なるべくしてみうらじゅんになったのだ。

いびつな自己愛

高校~美大生時代のフォークソング/エッセイなどの作品に顕著なのが、ちょっと過剰なまでの自己愛・承認欲求の表現。誰かに認められたい、という思いは誰もが持っていて普通だし、特に思春期にはそれが背伸びした形で表れやすいというのはわかるんだけど、なんというか、それが常人よりもいびつに歪んで、肥大化している感じで表れているのです。会場には、展示ケースの膨大な量のエッセイのほかに、閲覧用のコピーのファイルも大量にあって、そういった自己愛のかたまりが「さあ読め!」と言わんばかりに迫ってくる。

でも、考えてみればそれもそのはずで、ここまでの展示にあった少年期の膨大な作品群のほとんどは「誰かを楽しませるために作られているにもかかわらず、誰にも認められなかった作品」なわけです。どこにも行き着く先がなく自己循環していた表現。こじらせないわけがない。

このこじらせはイラストレーターとして活動を始めてからも引きずっていて、『天才のスケッチブック』と題されたノートも、まあ3巻4巻までならわかるんだけど、58巻とかまで続いているんですね。すごくない?

で、もっとすごいのは、たくさん書いたから上達するとかでもないわけです。みうらさんって、(こんな失礼なことをわざわざ言うことでもないけれど)絵や文章がものすごく上手いということじゃないじゃないですか。そもそもが、画力や文章表現が評価されているわけではなくて、この時にはまだおそらく彼自身も気づいてない、別の能力が後に「天才」として評価されるようになる。

いびつな自己愛と社会的な評価、やりたいことと向いていること、それらの間に奇跡的に折り合いがつく過程…それこそがみうらさんの青年期であって、それが成功したからこそ、その"いびつさ"自体がこの展示のような形で「売り物」であり「ショウ」として成立するまでになったと言えます。

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奇行を常にメタ視点で捉えることでショウにする

展示のもうひとつのエリアは、歴代「マイブーム」のコレクションを中心に、イラストレーターとしての原稿や絵画作品、安齋肇さんとの「勝手に観光協会」などの現在進行形の仕事をまとめたエリア。最初のエリアをぐるっと回ったあと、一度出てから隣接する別会場に半券で再入場する形になっています。

歴代マイブームの展示は圧巻で、カスハガ、ムカエマ、ヘンジク、甘えた坊主、二穴オヤジ、ゴムヘビ等々…ファンにはおなじみの鉄板ネタのオリジナルがずらりと揃っている。本やスライドで見るのとはまた違って、本物が目の前にある感動!どれもネタとしては分かりやすいものばかりなので、何も知らずに見ても誰でも笑えると思うんだけど、にしても、どうしてそこまで…と言いたくなるほどの偏執的コレクションの数々。呆れるほどある。

いやげ物にしてもゆるキャラにしても、「それお金出して買う?」みたいなのを1個や2個じゃなくて何百個と買い集めて、それに名前をつけてマイブームと言い張る行為ってほぼ奇行と言っていいと思うんだけど、みうらさんが単なる奇人と違うところは、それを編集者としてエンターテイメントに仕上げる点だと思います。集めたものをどう見せるか、みうらさんの頭のなかには常に客観的な「読者」としてのメタ視点があって、すべてはその読者を楽しませるためにやっている。SMのSはサービスのS、と言っていたのも確かみうらさんでしたが、この展示はまさに生粋のエンターテイナーとしてのサービス精神の集大成です。

この、脳内に客観視点を同居させるのって何かを作る人にとってはすごく大事なことで、だからこそ漫画家さんは編集者と二人三脚で作品を作ったりするのだと思うのですが、常人にはなかなかできない。憧れます。

ループ・オン

で、あと、改めて大事だなと思ったのが「やり続ける」こと。みうらさんのすごさは、とにかく作る量。やり続けてひたすら積み重ねる以上の強さはない。インストラクション・ワン…一千発のスリケン…。

今回の展示にあたり会場で上映されている前後編のビデオメッセージがあるのですが、そのなかでも、もはや「キープ・オン・ロケンロールではなく、ループ・オン~」だということを仰っていました。まだそれやってたの…と呆れられるくらいの「ウワッ」という驚きを引き出せたら、それこそがその人以外には誰もできない、オンリーワンなのです。少なくとも何かを目指して創作活動をしている人なら、みんないつかはその境地へ辿り着きたいだろうと思う。

展示物の多さから言っても、おそらくこの規模の企画展はなかなかできないと思うので、機会がある方は会期中にぜひ行ってみてください。

そうそう、忘れちゃいけない、展示の最後のほうにはR-18エリアとして、あの「エロスクラップ」の展示コーナーもあります。その通巻、現在544巻!公立の美術館でエロスクラップについての展示をしたのは快挙と言っていいんじゃないでしょうか。スクラップそのものが展示されているわけではないですが、怪しげなピンク色の箱の覗き穴から中を除くと、その一端を見ることができます。さらっと通り過ぎてしまいそうなところなので、お見逃しなく。

MJ’s FES みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958 | 川崎市市民ミュージアム
https://www.kawasaki-museum.jp/exhibition/9910/

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