サービス残業を許すな

サービス残業というものについて考えるたび、激しい怒りと憎悪がこみあげる。
ので、ここで一つそれを言語化しきっておこう。

サービス残業を許すな。

私はサービス残業を憎む。
殺人、強姦、傷害、詐欺、放火、これらの諸犯罪を憎悪するのと同じ熱意でもって、サービス残業を憎む。
日本において妙に柔らかい言葉で言い換えられるこれは賃金の不払いであり、つまりそれは盗みと同じだ。
先に挙げた諸々の犯罪と全く同次元の、恥ずべきおぞましい悪徳である。

もしも社員に給料を支払い、その後、財布や口座や貯金箱の中から金を盗めばこれはまぎれもなく窃盗である。
給料の不払いは盗みの行程において社員の手元に金を移動させるという一手順を省力しているだけで、本質的に上記の窃盗と全く変わりがない。

人に「汝盗むなかれ」と望むのは過剰すぎることだろうか。

薄汚い恥知らずの泥棒になるな、真面目に労働基準法を遵守し残業代を支払う善良な経営者に対してずるをして市場に居座るな、己の浅ましい私利私欲のために国民を疲労させ国力を削ぐな。
これは、おかしな主張だろうか？

書面に書いた約束を守れ、ひとのものを盗むな、勝負でずるをするな、悪いことをしたら恥と思え。こんなの、あらゆる宗教や価値体系における根本的な倫理道徳であり、これを守らずに保身の言い訳をほざく輩は社会にヒトとして参加する道徳基準に達していない、無知蒙昧の貪婪の野獣というほかない。

他者にサービス残業を強要する輩は成人しているし、大抵は教育を受けている。いますぐ飢え死にをしない程度の金もある。たいていはそれ以上に持っている。

つまり、彼らは無知や不運や切実な命の問題から盗んでいるわけではない。日本に蔓延る異常な風潮に後押しされ、自分自身で善悪の価値判断を手放し、盗みを愉悦として盗んでいるのである。これはとんでもない悪徳である。一切の情状酌量の余地がない。

日本はとんでもない犯罪大国だ。
サービス残業という盗みを行う悪辣な盗人が跳梁跋扈し、それが法で裁かれることは滅多にない。
まるで死体にたかる蛆虫のように全国津々浦々でこの許してはならぬ悪が栄えたため、消費は冷え込みデフレはスパイラルしイノベーションは生まれず、日本経済は凋落しポップカルチャーにおいてすら存在感を失いつつある。
失われた30年にはもちろん他にも様々な要因があったわけだが、自覚の有無にかかわらずこの罪人共が一枚噛んでいたのは疑う余地がない。
まったくもって明瞭な話、盗人が罰されぬ国に没落以外の道があろうか。

サービス残業という盗みに拒絶感を示すと、「社会ではやっていけない」という者もいる。
お笑い種も良いところだ。
今の日本を見るがいい。
サービス残業を許した結果、社会は明らかにやっていけていない。

これが、賃金未払いという盗みにサービス残業という言い換えをする国の末路である。

私は基本的に善が好きで、悪が嫌いだ。
法を尊び、人に礼儀正しく接したい。あらゆる動機に基づく暴力に反対している。

恥知らずの泥棒、契約不履行者、自由市場におけるいかさま師、法を骨抜きにし民を疲弊させ国力を殺ぐ獅子身中の虫に対しての怒りを常に感じているが、そういった唾棄すべき悪人共であれ暴力を振るってはならないと信じている。

私が彼らに望むのは、ただ、泥棒と嘘つきといかさまをやめてくれ、恥を知ってくれ、他人の人生を不当に食い荒らさないでくれというだけだ。
盗んだものを返せとか、自分がした盗みを被害者に謝ってくれとか、それが大それた要求だとわかっている。

ただ、今から、これ以上、他人に害を為すのをやめてくれ。
それだけだ。

資金繰りがいかに苦しかろうと、仕入れ先の倉庫から商品を盗んだり、融資をしてくれない銀行を強盗することは許されない。
そんな行為を織り込まねば存続できないのだとしたら、普通はそれを「存続している」とは言わない。

どうしてこんな当たり前の話が、人件費となると途端に通じなくなるのだろう。

サービス残業という盗みをする泥棒のもっとも嫌な所は、盗みをして、なぜか盗んだ側に威張っていることだ。
こんなでたらめな話があるだろうか。
盗みで生計を立てている泥棒にしたって、世を忍ぶ恥じらいはある。
サービス残業をさせる者はそんな恥じらいを覚える良識すら持ち合わせていないのである。

常態的に盗みをしないと商売ができない商売人は己の非才を受け入れるべきであろう。
カンニングをしてテストを受けた学生は、失格となるべきであろう。
能力の不足による失敗を受け入れるべきだと迫る自己責任論は、なぜかここ日本においては、賃金を払わない会社だけは免罪する。
他人に割を食わせて不適切な手段で私欲を叶える行為という点ではまったく同列であろうに、奇異な事だ。

ただ、泥棒と嘘つきといかさまをやめてくれ。
恥を知ってくれ。
他人の人生を不当に食い荒らさないでくれ。
サービス残業を許すな。