栄養調整食品の味

はじめに

 色々言うけどこういうものがあること自体はありがたいと思ってるし、こういうものが言うて食べられないほどまずくはないぐらいのレベルに達するまでには献身的な努力と奇跡のような閃きの積み重ねがあったのだろうことも想像できる。関係者のみなさんありがとうございます。


前置き

 諸事情あって食事に気を遣わねばならなかった。

 この気の遣い方というのが低糖質とか低カロリーとかそういうんじゃなく、カロリーとタンパク質は一定取りつつ消化にいいものを食べるという方針だったのだが、これが結構めんどうだった。筆者は塩気が強く刺激があって消化に悪いものが大好きなのだがそういったものは食べられないし、そもそも体調が悪くて食べる気になれない。一定質量のあるものを食べると腹痛を感じるのだが、さして好きでもない食事の代償としては苦痛がでかすぎるのだ。

 かような条件設定の元でも手間暇をかけさえすればそれなりにおいしいものが食べられることは入院生活で食べた病院食の存在が証明していたが、まあ手間暇はかかるのである。筆者はフードプロセッサーで一々食事をゼリーやムースに加工することはできないし、鶏挽肉の餡掛け豆腐くらいのものだって餡掛けなのが手間がかかりそうで嫌だなって感じだ(おいしいけどね)。

 というわけでもろもろを勘案した結果、筆者は栄養調整食品を取り入れることにした。本当はこういうもの単品で食事を済ませるようなものでもないし、きちんと飯を食べた方が良いのは言うまでもない。しかし現実は常に最善をとらせてはくれない。薬を服用してるんだから食事は抜かない方がいいだろうし、なんであれ時間が来たら口に入れるものがあった方がいいだろう。葉野菜の常備菜とか野菜ジュースと組み合わせたらちょっとはマシなのでは?そんな方針であった。


 というわけで、ここからは筆者が実際に食したことのある栄養調整食品についての感想を書いていく。栄養だとか成分だとかの事はよくわからないので、もっぱら味のことだ。

 こういう情報はあまり見ないので他の誰かの参考になればいいなと思ってのことだが、筆者は自分の立場を透明化することはしない。ここにあるのはプレーンな感想ではない。これを書いている人間はにんにくと塩と油で味付けした動物性タンパク質を偏愛する味覚の持ち主だ。居酒屋料理とイタリアンを好み、軟骨や根菜、軟体動物といった歯応えのある食材を口に入れたがる。歯が痛くて歯医者に行ったら「硬いものの食べ過ぎで歯が摩耗している」と言われたこともある。そういう奴がこの文章を書いているのである。

アイソカルゼリーハイカロリー

 ネスレの製品だ。66gの掌に収まる薄いプラスチックカップに入った、150キロカロリーのゼリー。味は10種あるが、筆者は8種入りのセットを買ったのでりんご味ともも味は食べたことがない。

 では8種の味はどう違うのかというと、まあどれも似たようなものだ。

 基本的なこととして、アイソカルゼリーは甘い。もったりした食感と、煮え切らないぼんやりした甘さがある。その甘さは、おだやかさとかやさしさと呼んでもいいような輪郭をしている。清涼感とか爽やかさというようなものには縁遠く、強い甘さではないがゼリーの質感とあいまって長く口の中に留まるのでややしつこい感じはある。一口目でたじろぐほどまずくはないが、口に入れても喜びは感じない。これだけを大量に食べろと言われたら嫌になりそうだ(まあ筆者は普通サイズのシュークリームも半分くらいで嫌になるのだが)。

 けれど、このゼリーはたったの66gだ。大きいスプーンを使えば3口ほどで無くなる。弾力のない質感なので咀嚼をせずとも飲み込めて、望むなら口に入れる時間を最小に留めることができる。味の主張も弱いので、食後に風味のある飲み物を飲めば口直しも容易だ。不快に感じたとしても逃げ道は十分にある。そこを評価したい。常温保存可能なゼリーなので蓋を開けて食べるだけだ。食事に喜びを感じられない時に、かかる手間暇をかなり抑えてくれる。蓋を開けた時にゼリーから出た液体がちょっと飛ぶ事があってそれが嫌なのだが、それはアイソカルゼリーの欠陥というよりこういう包装の食品全般の宿命である。

 8種の味だが、前述のように大した違いはない。もったり甘い基本の味は共通していて、後味に各フレーバーの風味で変化がつく感じだ。

 あずき味、黒糖風味は比較的印象が強く、ああこの味を食べているなという実感がある。

 筆者はコーヒーを飲んだ後の口の中の感じがたいそう苦手なので普段はコーヒーを飲まないのだが、コーヒー味は同じ体験を与えてくれた。逆説的にいえば、グリコのカフェオレなどよりはコーヒー的な味なのかもしれない。苦さ自体はそこまでではないので安心されたし。

 おいしいと思ったのはレアチーズケーキ味だ。こういう風味のものがこういう甘さをもっているという事への違和感がなかったので、心理的抵抗は薄かった。ただ、単体だとのっぺりしすぎている。やはりこういう甘いチーズ風味にはベリーや柑橘の酸味を添えた方が楽しめる。お気が向いたらジャムなりソースなりを添えてみるとより美味しく味わえるかもしれない。

 注意が必要なのはとうふ味だ。これはきなこ味とほぼ同じ味をしている。これ自体がまずいわけではなく、むしろ筆者はその主張のなさが気に入っているのだが、おそらくほとんどの人にとってはとうふと言われてイメージする味ではない。甘いし食感も違う。なぜこれをとうふ味と称しているのかはよくわからない。他のフレーバーより淡泊なので、あずきあたりのしつこさが嫌な人にはいい感じではないだろうか。冷やしておいて黒蜜やジャムを添えて食べるとおいしそうだ。

アイソカル100

 同じくネスレの商品。100mlの小さな紙パック飲料で、200キロカロリーを摂取できる。公式パンフレットではたんぱく質や鉄分、ビタミン、ミネラルなども含まれていることがアピールされている。ゼリーはカロリーしか主張してこないので、単品を食べるならこちらの方がいいのかもしれない。価格はゼリーより高い。

 味はカフェモカ、ミルクティー、あずき、ストロベリー、バナナ、コーヒーの6種類。筆者は果物全般が嫌いでコーヒーも苦手なので、消去法でミルクティーを選んだ。

 つらかった。これを注文したのは楽しくもない食事の時間を短縮したくての事だったが、100mlの液体をストローで吸い上げるのはでかいスプーンでゼリーを丸飲みするより主体性が必要であった。

 味は率直に言うとまずい。午後の紅茶やリプトンのミルクティーに近い味を想像していて、実際おおすじは外れていないのだが、それらをよく知っている分かえって差異を強く感じ、得体の知れないものを飲んでいる気分になる。油が強いのだ。栄養補助食品の原材料を見ると、デキストリンと大豆油が目に入る。コンパクトな量でカロリーを摂取させようとしたらそうなるのだろう。質感はどろりとしており、ストローで吸い上げた時の感触はやや重い。味そのものというか、この感触が嫌なのだと思う。ミルクティー味ではあるが、ミルクも紅茶もそこまで感じない。重たい質感でぼんやりと甘い。ゼリーと違って量を一度に飲み込めないのでさっさと終わらせることもできない。もう少し紅茶の渋みや香りが強い方が爽やかさが増して飲みやすそうだ。

 良いところをあげるとすると、食後にスプーンを洗わずに済む。ストローを刺すだけだから本当に手軽だ。紙パックなので食卓につく必要がないし(ただ、食卓につけないほど弱っている時はこれを飲むより入院した方がいいと思う。じわじわ事態が進行するといつそんな大事に発展させていいかで迷うが、そんな状態で自宅にいると孤独死しかねない)。

メイバランスソフトjelly

 明治の製品。125mlで200キロカロリー。たんぱく質やビタミンDもとれる。一般的なゼリー飲料っぽいパウチ包装で、そのボリューム感のある佇まいは何かを口にしているという気分にしてくれそうだ。最寄りのドラッグストアで発見し、ピーチヨーグルト味を購入。

 めちゃめちゃ向いてなかった。ヨーグルトっぽい味も、ピーチ風味も感じはする。が、うまくはない。アイソカル100と同様に油っぽくて重たい質感で、もったりと甘い。3種の中で一番油を感じる気がする。量が多いので食べるのに時間がかかり、苦痛だ。吸うという行為はスプーンで口に運ぶよりもっとプリミティブな欲望の表現なのだと思う。どうしても味を意識してしまうし、自分が望んでもいないことをさせられているという気持ちが強く、事務的に済ませるということができない。

 ピーチヨーグルト自体は好きな風味の方向性なのだが、思うにこれは筆者にとっては酸味が重要な味付けなのだと思う。乳脂肪のまろやかさをヨーグルトの酸味で引き締めて桃を少し香らせた爽やかな甘酸っぱさを期待してしまった。こういう食品に酸味はまず無いというのが薄々わかってきた。きっとそこには必然的な理由があるのだろう。

まとめ

 栄養調整食品はだいたいどれも似たような味をしている。あのもったりした質感はデキストリンと大豆油が原因なのだろう。味は嫌いだが食べざるを得ないという状況なら、アイソカルゼリーのとうふ味を咀嚼せずに丸飲みするのが一番おすすめだ。しかし、言うまでもなくそういうことはきっとしない方がいい。

 それぞれの事情によって最善の選択肢は変わってくる。こういう食品は「わずかこの量でお粥200gと同等のカロリー」というのが売りだが、お粥に出汁を利かせたり塩気をつけたものの方がおいしいし食欲も湧くな……というのが筆者の正直な感想だ。でも、そういう食べ方ができない状況だってある。必要としている人はいるし、有用な商品なのだ。わかってはいるし、いろんな制約がこの味を作っているのも想像できる。でも、もっとおいしいとありがたいんだよなあ。


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